ダンジョンバトラーマスト!

松平真

第1話 俺の名前はダンジョンマスターマスト!


「いいぜ!その勝負乗ってやるよ!」

弾正ダンジョウ益人マストの少年らしい変声期前の声が夕暮のゲームショップに響き渡った。

「ダメよ!マスト君!」

同級生の長名字ミイの制止する声を無視してマストは、男を睨みつける。

男と言っても小学生のマストと比べるとそう見えるというだけで、実際は高校生のこちらも少年と呼ばれる年ごろである。

背はマストと大差ない140cm代、その顔は非常に醜く、鼻は鷲鼻というのも控えめで、肌の色は緑に見えた。

要はファンタジーに出てくるゴブリンによく似ている容姿クリソツだった。


「ゴブブ、もう取り消せないゴブよ」

期待を裏切らないどこか甲高い声で呉武ゴブリンは笑った。

「ダンジョンバトルで勝ったらお前の貴重なお小遣いはいただくゴブ。そしてゴブの推し活代にするゴブ」

呉武・林の下卑た視線を弾き返すようにマストは言い返す。

「オレが勝ったらお前はここに二度と来るなよ!」

「ゴッブブブ、お前が勝てたらゴブ」



事の経緯は、大人から見るとなんともほほえましいものである。

このゲームショップでは、最近子供たちの間で流行りに流行っている【ダンジョンマスター】というゲームの対戦が自由に行える。

【ダンジョンマスター】はダンジョンを育てて、モンスターの軍団を編成し、相手のダンジョンを制圧する、ダンジョン同士を戦わせる体感型リアルタイムストラテジーRTSである。

そこで呉武・林はミイを対戦に誘い、ゴブリンモンスターでミイの女モンスター軍団を辱めるという恥辱を味合わせたのである。

実はこのゲーム、R-15できわどい表現もめちゃくちゃある。それが学生にウケている要因でもあった。本来小学生どころか中学生もやってはダメなのだが、ダメと言われればやってしまうものである。

ともかく、その不必要な精神的凌辱に激怒したマストは、呉武・林を追い出そうとした。

そこで呉武・林が提案したのがこのお金か出禁かのプライドをかけたダンジョンバトルである!

申し訳ない。全然ほほえましくなかった。

なお呉武・林は、同じ手段であちこちのショップで子供からお金を巻き上げて出禁になっている常習犯である。


「合意と見てよろしいですね!?」


ダンジョンマスター協会公認レフェリーのミス・小麦(Gカップの小麦色の肌の20代女性)が、ゲームデモ用のモニター設置台の下から現れる。

その異様な出現に戸惑うミイと対照的に、マストと呉武・林はミス・小麦に注意を向けずに睨み合いながら頷いた。


「では、ダンジョンバトル!スタート!」


ミス・小麦の宣言と共に両者は、専用ゴーグルを装着する───




ダンジョンバトルスタートと言ったが直接的なバトルはまだまだ始まらない。

このゲームで最も重要で地味な要素……ダンジョン選びである。

所謂、初期立地選びだ。

ダンジョンマスターでは、複数のダンジョン候補がランダム生成されて、プレイヤーがその中から一つ選ぶ。

そしてそのダンジョンを育てていくのだが、育てる過程で襲撃してくる人間族を撃退し、その魂をダンジョンコアに喰わせる必要があるのである。

そのためには人間族の拠点、都市や村に近い方が都合がいいのだが、その襲撃頻度が多ければ成長より対処に得た資源を費やさなければならない。

ソロプレイならそれも一興だが、対戦ではもたもたしている間に相手は戦力を整えてしまう。


付け加えて、ランダム生成される第一階層の構造も重要である。

第一階層の構造が複雑ならば、大勢の人間族の襲撃であってもダンジョン内で分散していくので少数のモンスターでも対処しやすい。

だがモンスターより安いコストの罠で対応する方針なら一本道のほうが得だ。

このあたりは相手と自分の戦略に合わせて選んでいく必要がある。


体感型であるため、内部を実際に歩いて見て回るような感覚でダンジョンを選ぶ。

PLの間では、この儀式を【ダンジョン内見】と呼んでいた。

マストは三つの物件ダンジョンにあたりをつけた。

そして一つ目のダンジョン内見を始める。



一つ目のダンジョンは、あまり大きくない町の近くの森の中にあるダンジョンだった。

まさに洞窟といった土を掘りぬいた通路をマストは歩く。

「キキキ、如何でしょうかこのダンジョンは」

サポートNPCのインプ型魔族『院太郎』が、尻尾を揺らしながらマストの表情を伺うように尋ねる。

「狭くて、複雑そうな構造だ」

マストは院太郎に視線を向けないまま手元の端末に表示(されているように見える)ダンジョンデータを眺める。

対戦相手である呉武・林はミイにして見せたのはゴブリン型モンスターによる襲撃……低コストユニットの大量投入による比較的序盤に決めに来るスタイルだった。

同じ戦術をとってくるのなら、複雑な構造はいい。だが

「狭いのはなぁ」

通路が狭いと強力な大型モンスターが設置できないか、設置できてもペナルティを受ける。これだと少数のユニットで敵の大群に対処しにくい。

それにデータを見ていると、人族を誘引する宝箱のポップ率もそれほど高くない。

「次だ」



次のダンジョンは、機械文明の遺跡だった。SFの戦艦に出てくるようなのっぺりした金属製の通路を歩く。

「キキキ、如何でしょうかこのダンジョンは」

サポートNPCのインプ型魔族『院太郎』が、尻尾を揺らしながらマストの表情を伺うように尋ねる。

院太郎は新しいダンジョンに入ると必ずこのような反応をする。

マストはやはり無視して、データを眺めながら歩く。

このようなダンジョンは、機械属性モンスターの生産にボーナスを受けられる。

しかも機械属性モンスターは、物理攻撃に耐性を持つ。

低コストモンスター、特にゴブリン族は基本的に物理攻撃しか持たない。(ゴブリンシャーマンなどもいるがコストは高い)

内部構造もそこそこ複雑だ。

そういった意味では呉武・林の戦術に有用だが……

「キヒヒ、街から遠いでやんすネェ」

院太郎が言うように、街から距離がありすぎる。

これでは、ダンジョンの成長は遅くなり、もし敵が違う戦略を採ったら力負けする可能性が高い。

うむむと唸るマスト。

ともかくあたりをつけた最後のダンジョン内見へと向かう。



最後のダンジョンは、火山の迷宮だった。

溶岩の河の間にある細い通路が、あちこちに広がっている。

この手の異常環境ダンジョン(他は氷原タイプが代表例)は、人間族が襲撃しにくい(成長しにくい)デメリットの代わりに、非常に強力な属性モンスターを生産可能だ。

火山ならフレイムスライムや溶岩魔神などだ。接触するだけで相手に高熱によるダメージを与えられる。

尤も弱点属性で攻撃されると非常にもろいという弱点もあるが……。


マストはデータを眺め、比べ、無数の戦略を検討する。


「キキキ、お客様。どの物件ダンジョンにいたしやすか?」

院太郎の言葉にマストは大きく頷き、一つのダンジョンを選択した。

「俺はここに決めるぜ!!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョンバトラーマスト! 松平真 @mappei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ