女神の長期休暇
さすふぉー
女神、地球に来る。
朝。俺は太陽の光で目を覚ます。今日は3月31日。高校の入学式前日である。家の外からは鳥のさえずりが、部屋の外からは俺を起こす誰かの声が聞こえる。
「そろそろ起きなよ〜明日の準備とかも今の内にやっておきなよ〜」
「ん。わかった〜」
少し高く落ち着いた声が聞こえる。その声の主は部屋に入ってくる気配が無く、俺は二度寝を決め込もうとした。しかし俺はその時、あることに気が付いた。
(待て、誰の声だ?)
そう。誰の声か分からないのだ。俺はこの声を聞いたことがない。それに、自分は先週から一人暮らしを始めている。家で俺以外の声を聞くことは無いはずなのだ。
(父さん母さん……は無いか。来るなら連絡くれる筈だし)
俺は途端にドアを開けるのが怖くなった。ドアの向こうには見知らぬ誰かがいるかもしれない。強盗かもしれないし、そうじゃないかもしれない。もしそのドアを開けてしまえばどうなるか。考えるだけでゾッとする。
まだ起きて数分しか立っていないのに大ピンチになっているこの状況に若干困惑しながらも俺は、この状況で誰にも危害を加えない。尚且つ俺の社会的地位が脅かされない選択肢を見つけた。それはとても簡単なものだった。
(よし。二度寝しよう)
そう、二度寝である。誰かに俺が殺される可能性もあったが、俺の頭は寝起きで使えなかった為にこの選択以外にベストなものが見つからなかったのだ。
俺は布団を被り、再度眠りにつこうとした――
「早く起きてよ〜!もう朝ご飯できてるからさ!」
無理だった。
誰かが俺の部屋に入ってくる。だが、ここで反応してはいけないと思い、俺は聞こえないフリをした。
(反応しちゃ駄目だ……絶対に反応しちゃ駄目だ……)
しかしそいつはあろう事か、俺が寝ているベッドにダイブしてきた。そいつの全体重が俺の身体にのしかかる。
「いっぅ!」
変な声が出てしまった。
「ほら!起きてるんだよね!さっさとご飯食べちゃってよ!」
そう言ってそいつは布団を剥がして俺の顔を往復ビンタしてきやがった。しかも軽いビンタなんかじゃない、かなり強いビンタだ。俺は必死に抵抗するも、圧倒的な力と速さには勝てない。1秒が無限にも感じられる。
(あ、これ死んだわ。確実に死んだわ)
何分経っただろうか。そいつはやっとビンタを止めた。
「……痛い」
「ごめんね!!」
ビンタが止まって、最初に出てきた感想は「痛い」だった。もう考える程の力も残っていない。しかし朝からビンタされて苛ついた俺は、せめてもの仕返しとして、ビンタした非常識な不法侵入者の面くらいは拝んでやろうと残りの力を振り絞って視線をそいつに向けた。面を拝むのが仕返しになるかは分からないが。
(……え)
俺は驚愕した。なぜなら俺をビンタしていたのは、明るい茶色のロングヘアーが特徴的な美少女だったからだ。強い力と速さでビンタできるような奴がこんな美少女だったなんて。
見た目とのギャップを感じながらも俺は、目を細めてその女に問うた。
「お前は誰だ」
「誰だと思う?」
「さぁな。んで、結局誰なんだ」
どうやら女は正直に話す気がないらしい。俺はその態度を見て少し苛ついた。しかしここで暴力に訴えてはいけない。今、女は俺の上に馬乗りになっている。そしてこの女は強い。そう、今ここで反抗したらまたボコボコされる可能性があるのだ。
「え〜?どうしよっかな〜?ねぇ教えて欲しい?ねぇ?」
「あぁ。教えて欲しいな」
こいつに猛烈な殺意が湧いたが俺はそれを鎮めて、とても穏やかに返事をした。
それを聞いた女は得意気に言った。現実で聞く機会は絶対にないであろうその台詞を。
「聞いて驚け!なんと!私は女神様なのです!」
俺はそれに
「……は?」
と、返す事しか出来なかった。
*
「なるほど。つまりお前は暫くここに住みたいんだな?」
「そゆこと!じゃあこれから宜しくね!」
「俺許可してないんだが?……まぁお前悪い奴じゃなさそうだし良いけどよ」
「ありがとね!」
あれから、俺らは一旦話し合った。話し合って分かった事なのだが、この女神は長期休暇で地球に遊びに来たらしい。女神にも休暇という概念が存在するとは思わなかったが、何故だか納得してしまった。
そして、この女神はどうやら暫く俺の家に住みたいらしい。ついさっき、俺はこの女神が住むのを許可した。つまり今日から女神との同棲が始まるということだ。
「てか、すっかり忘れてたけどよ。お前本当に女神なのか?」
「あぁ~やっぱりそこ気になっちゃう?」
「当たり前だな」
「仕方ないな〜じゃあ私が女神だってこと、証明してあげましょう」
女神は指パッチンをした。はっきりと指パッチンの音が聞こえて感心していると、次の瞬間。
「っ!?」
突然、激しい頭痛が襲ってきた。頭が割れそうになるほど強い頭痛で一瞬気を失いかけたが、すぐに痛みは収まった。
「どう?これで私が女神だって、証明できた?」
「……あぁ。確かにあんたは神なんだろうな」
俺は確信した。こいつは神だ。女神だ。神じゃないとおかしい。
「じゃ、私が女神だって証明できたことだし……」
女神は向日葵のような笑顔を俺に向けて言った。
「これから宜しくね?人間さん」
女神の長期休暇 さすふぉー @trombone1123
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