第23話 魔王の嫁は真人のみ
魔王カイソンはようやく語り始めた。
何を言ってるのか分からないことだらけ。
ただ、これを聞いてスズミが重大な決断するって話はないだろうな。
「ナンバーズ。これはミツが名づけた」
「陛下の名を…」
「僕たちの共通点。それは大人になるまでの記憶がないこと。数字だけの名前は覚えていること。そして人類ではあり得ない魔力をもつことだ」
「それはお前も…、こっちの国王もそうなのか」
「ああ」
ミツは二十年前、ゴウ、つまりカイソンは十二年前に現れた。
ヨシオは十六年前で、四年ごとに現れたことになる。
その先は計算が合わない。007は最近なんだ。
「わ、我らが陛下は先々代の落とし胤だったと伺っている!」
「血がつながってないとまずいからね、養子にしたのさ。あ、僕も先代と血縁はないよ」
「はははは、魔王が襲名制とは知らなかったぞ」
「お前は何も知らないだろ」
「お前ではない、チエだ」
魔王カイソンは、認められれば誰でもいいらしい。名目上は永遠に生きているという扱い…と、発想が分からん。
とりあえず、この二十年の間に二つの国は「ナンバーズ」とかいう連中のものになってしまったわけか。
「いやぁ。僕たちは別に集まって何かしようなんて思ってないよ。だって、数字しか知らない同士だよ? ヨシオと話が合うわけないよ?」
「わ、私も貴方たちとは話が合いません」
俺もお前らと一緒にするなと言いたいが、まぁ話は合わなそうなところは話が合う。
そもそも、007と004や005に親近感を抱けるはずもなく。
「は…初めて聞いた。私は秘密を知らされなかった」
で。
スズミはショックを受けた。
「陛下のことは口外禁止です。私はその…、同類なので知っていましたが」
「ミツには黙っていろと言われてるよ。だけど愛する妻に秘密にできない」
「あ、あ、あ…」
スズミは真っ赤になって倒れた。
化け物女のくせに耐性なさすぎだろ。
「それで…、お前がスズミを選ぶ理由は? 005と関係あるんだな?」
「ああもちろん。…いや、僕がスズミちゃんを選ぶのはその麗しい笑顔に夢中になってしまっ…」
「今言い訳しても無駄だろ」
カイソンがスズミの見た目に惚れたのは、嘘ではないだろう。
デカくて体格良くてバカだけど、スズミの顔は整っているし胸のふくらみもすごい。そう、毎日軽口たたき合っている俺も、彼女に惚れている可能性が高い。
ああ、高くない。嘘つきは嘘つきの始まりだった。
「さっきも言ったけど、普通の女性では耐えられないんだ。僕たちは化け物だからね」
「化け物ねぇ…」
化け物という表現を否定する気はおきないが、それは結婚相手を狭めるほどのことなのか?
「わ、私は普通じゃない、化け物っ!?」
「ははははは、スズミはまさか己が普通の人類だと思っていたのか。それは大いなる勘違いであるぞ!」
「残念ですがチエ殿に同感ですね」
チエに同意するとろくなことがないと思う。
まぁ、スズミが普通だったら世界はおしまいだと思う。
「ただ、ムキムキの化け物女というだけなら、そっちの国にだっているだろ? お前の后候補だって、丈夫で元気な奴を選んでるはずだ」
「ナナ、もしかして君は頭がいいのか?」
「その発言は誰かを傷つけるぞ」
「………わ、私はっ!?」
誰もお前のことだとは言っていない。一応。
まぁスズミがバカかどうかは、この際どうでもいい。カイソンだって、別にスズミが知的美人だから嫁にしたいという話じゃないわけで。
そして、后候補は最初から子どもを作るために送られている。
「元気なだけで、僕の子は産めない。それはミツもヨシオも、もちろんナナ、君も一緒だ」
「どういうことだよ」
「妊娠はできても、産まれるまでに親が死ぬ。化け物の子は化け物だ」
「……スズミなら大丈夫なのか?」
「いや、今のままでは無理だ」
カイソンの意外な発言に、当のスズミが驚いた顔。
「スズミちゃん。君はたぶん、進化の条件を満たしている。より高次の人類、真人になるための条件を」
「進化ぁ?」
「ははははは、進化してどうなるのだ? スズミも魔王になるのか?」
「ま、まお…」
わけの分からない話。
スズミもびっくりしているから、常識ではなさそうだ。
逆に、チエが知ってなくて良かったぞ。
進化。
ヨシオとカイソンが知っていたが、それは別に二人が00ナンバーズだからではない。知る人ぞ知るもので、かつ事例が非常に少ないということのようだ。
人類は一定の条件を満たすと進化の可能性が生じる。
その条件はだいたい、人類最強クラスの戦闘能力、魔力、そうしたもののようだ。
「スズミはこんな頭ですが、人類としてはあり得ない強さなのです」
「そづだね。僕がいなければ、うちの国を滅ぼしちゃうだろうね」
「そ、そんなはずは…」
俺にとっては比較の対象が少ないから分からなかったけど、スズミはマジで強かった模様。
ただし、スズミはミツとヨシオには勝てなかった。なので、当人にも自分が最強という意識は生まれなかった。
俺やチエと比べても、スズミを最強と呼ぶのは厳しい。
ただ、チエの魔法はカイソンも呆れるほどで、俺はナンバーズ。どっちにしろ、スズミは自分の能力を正しく測れる環境になかったことになる。
「まぁ強いのは分かったとして、どうすれば進化するんだ? 薬でも飲ませるのか?」
「わ、私に何をする気だ!」
「まさか。…スズミちゃんは知っているはずだよ。修行するんだよ、山で」
「山……って、まさか」
「明神様だよ。毎日拝んでいるんだろう?」
明神様とは、キョーワの町の南にそびえる山の神だ。
年中雪に覆われた山の頂上に祠があり、行者は登って修行する…と、一般常識としてシローに教わった。
「うむ。明神様に認められた者は、生きながら神のごとき力を宿す。シローが言っておったぞ」
「さすがだねチエ。そう、その神みたいな人間が真人だよ」
チエが得意げに披露した知識は、一緒に聞いたから俺も知っている。
もちろん、適当に聞き流したが。
生きながら神って何だよ。何もしなけりゃ生き仏? ん? 何言ってんだ俺は。
「修行すれば進化するなら、きっと有名人になってるだろ? キョーワは明神様の麓に栄えた町だって聞いたぞ?」
「ナナ。スズミちゃんほどのすごい人が修行することなんて、百年に一人も起こらないんだよ」
「そこまでなのか」
感心したようにつぶやいてみるが、全く本気にしていない。
当たり前だろ。山で修行したら進化しますって言われて、ああそうですかと答える奴がいるか?
「つ、つまり私は…」
「僕の妻になっ…」
「こいつを倒せるようになるのか!?」
え。
急に立ち上がったスズミが、満面の笑みで指差した先は、俺だ。
というか、俺に負けたのをそこまで根に持っていたのか。
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