第22話 異世界なのにお姫様だっこっておかしいと思わないか
チエが無事に二度目の転移魔法を成功させ、俺と故大猿人は地上に戻った。いや、大猿人は初めての地上だった。
それから、手持ち無沙汰で四人の到着を待つ。
魔窟の入口周辺には、知らない顔が二十名ほどいたが、「暫し待て」と一言叫んだら本当に待っている。
誰の関係者なのかだいたい想像つくけど、ずいぶんと訓練された連中のようだ。
「ははは、お天道様の下で見る顔は一段と男前じゃのう!」
「どこにお天道様があるんだ。というか、何だその格好は」
「お姫様だっこと言うらしいぞ!」
「その場所、僕が代わりたい」
「やかましい! さっさと降りろ、チエ」
「はははは、相変わらずじゃのおスズミ、皺が増えるぞ」
で。
一気に騒がしくなったわけだが。
四人が魔窟を出て来るまで、思ったより時間がかかっている。その理由はまぁ、見れば分かった。
チエは魔法を使った後は完全にへばったらしく、自力で歩かせるとどれだけ時間がかかるか分からない。なのでスズミが抱えて走って来たという。
お姫様だっこ?、という謎の言い回しは、何となく分からなくはない。
銀色鎧の大柄女は、まぁ視力次第で格好いい男に見えるし、白いドレスの姫役はばっちり姫だ。むしろ今までなぜその可能性に思い至らなかったのかと自己反省してしまうほどにはお姫様だっこだった。
――――――まぁ。
違和感ないのは、カイソンとヨシオに囲まれた構図だからなんだが。
キョーワの街で、俺とチエは領主の屋敷から出る機会はなかったが、出入りする人間を眺めている限り、大人の平均身長はあまり高くない。
魔窟の入口で出会った盗賊たちは、全員俺たちより背が低かった。そう、キョーワ基準ではチエもかなりの大女なのだ。
要するにデカい女を、よりデカい女がかつぐ…と、熱弁するほどの価値はないな。どうでもいいや。
ともかく、五人と死体が魔窟の外に出たら、既に日は沈んで真っ暗だ。
「今晩はここで泊まるしかない」
「せめてこいつと離れて寝たいが」
「ははははは、あやつも愛しいナナと離れたくないという顔をしているではないか!」
「奇遇だな、僕も愛しいスズミと離れたくないんだ」
「ま、ま……」
「死体と同じ扱いでいいのですか、貴方は」
両手に大猿人の死体を掴んで、どうにか人体実験に耐えた俺は、この上さらにあんなのと一緒にいたくないと当たり前の主張をした。
スズミは顔を真っ赤にして倒れそうだし、チエとカイソンに言っても無意味なので、外で見ると腹黒そうに思えてきたもう一人の師団長にしつこくせがむ。
腹黒ヨシオはかなり渋ったが、最終的には俺の意向が通った。
というか、通って当たり前だった。
「仕方ありませんね。ここからの輸送は第三師団が受け持ちます」
「そ、それじゃ手柄横取りじゃない」
「スズミたちのことは伝えます。隠しても誰かがしゃべるでしょうし」
「誰だい? ああ、僕はスズミちゃんの魅力を伝えておくけどね」
「スズミちゃんって言うな! ま、ま……」
魔窟の外で行儀良く俺たちを遠巻きにしていたのは、第三師団の面々が二十名ほど。ヨシオはカイソンの監視役だったが、あらかじめ配下に命じてここへ集合させたらしい。
例の盗賊たちも既に護送済みだ。
同じ師団長でも、ロクに部下と連絡もとってなさそうな第五師団長とは大違いだった。
ただし、二十名ほどの部下は、カイソンが魔王であるという事実を誰一人知らないらしい。
スズミがいちいちモゴモゴするのが笑える。これを機会に名前で呼び合う仲になればいいのではと、適当にまとめておこう。
ともかく、第三師団は俺たちの野営も準備し、簡単とはいえ鍋も用意され、温かい飯も食えた。
まったく、第五師団長とは大違いだった。
「わ、私の部下は魔王の侵略に備えて動かせないのだ!」
「僕はここにいる。君の隣にいるよ」
「ま、ま…」
「スズミは相変わらずバカだな」
師団長と魔王が同じ鍋をつつく光景は、たぶん見る人が見ればシュールなのだろう。
俺にはどうでもいい。
カイソンが005ならば、そもそも自分の同類だ。彼が魔王なら、俺だってその親戚ぐらいにはなるはず。
「それで…、カイソン。そろそろ話してもらいたいのだが」
「ああ。………ヨッシー、頼むよ」
「断じて私はヨッシーではありません」
話の続きを聞かせろと言ったら、ヨシオが部下を遠ざける。
この世界には、遠くの物音を聞く魔法もあるらしい。遠ざけたところで信用はできない…が、ヨシオ自身も部下に聞かれたくない話だから大丈夫だろう。
「では僕から話そう。この世界の真実、そして僕がなぜスズミちゃんと結婚するのかを」
「ちょっと待て!」
そんなことだろうと思った…が。
きっと無関係ではないのだ。
「僕たちは人間だけど人間じゃない。膨大な魔力をもっている怪物さ。だから……、普通の女性では耐えられないんだ」
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