第21話 二人は仲良く転移させられ、いつの間にか…
どうにか大猿人を倒し、魔窟の核を破壊した俺たち。
あとは帰還するだけ…なのだが。
「スズミ、こいつはどうする? 持ち帰るんだろ?」
「あ、ああ…。できるのなら、な」
首と胴が離れた太猿人、そして半分ぐらいは焼け焦げた猿人たち。
討伐の証明として、また魔窟の研究資料としても、それらを持ち帰りたいようだが、その手段が思いつかない。
「俺の収納には頭も入らないぞ。あ、カイソンなら行けるか? 王様だし」
「ぼ、僕かい? 頑張れば頭だけなら入りそうだけど、あんなもの収納したくないよ。ああそうだ、僕の監視役がいるじゃないか」
「む、無茶言うな! 私でも無理だ」
仕組みは分からないけど、見た目では考えられない大きさのものも収納できる袋。俺はスズミの分を持たされ、既に道中で出くわした猿人の頭などでいっぱいだ。
ただ、焼け焦げた方はまだ少しは入った。どうせ他人の物だと思えば割り切れるものだな。
残る二人では、ヨシオよりカイソンの収納の方が少し大きいようだが、二人とも大猿人の生首収納を拒否した。
となると……。
「ははははは、生首を嫌がる奴に魔王が務まるか!」
「え?」
「チエ、どこまでできる?」
「分からぬ!」
そうじゃないかと思ったが、やはりチエは化け物だ。
そう。
さっき、大猿人は転移魔法を使った。それを目撃したチエも転移魔法を覚えてしまった…というわけだ。
「な、何者なんだこいつは? スズミ」
「ヨシオは知ってるんじゃないの? 上には伝えたはずよ」
「聞いた話と違う。…そこにいるナナがお前に勝ったとしか」
「それだけなら、チエはここにいないわ」
ヨシオはどうやら俺たちについてもいろいろ監視していたらしい。
と言っても、チエの異常さを知らない時点で何も監視してないようなものだ。俺なんて、チエに比べれば少しだけびっくり人間なだけだし。
で。
チエは転移魔法を覚えた。
ただし一度も使ったことはなく、また、どの程度までどれだけの量を転移可能かも不明。
「ナナ、お前だけが頼りだ」
「ふざけんなスズミ。お前が面倒見てるんだから頑張れ。応援するぞ」
「ま、ま、魔王なら余裕…」
「僕と君の新婚旅行かい?」
当然、それは人体実験でしかないので誰も希望しない。
大猿人だけを転移させた場合、最悪死体が行方不明になってしまうので、誰かは付き添いが必要になる。
チエ本人が同行しても、同じくどこへ転移したか全く分からないからダメだ。
結局、選ばれたのは俺だ。
まぁそうなる。
チエを除いた四人の中で、一番どうでもいい奴だ。
「で、どうすればいいんだ?」
「ははははは、我にもよく分からんぞ! いっそ抱かれてみるが良い!」
「良くねぇ!」
大猿人と俺を同時に同じ場所に転移させるという無理難題。
チエの感覚では、距離はともかく転移自体はできそうだという。
ただし、同じ場所にするためには二人が密着していた方が安全だ…って、何が安全だ! そもそも大猿人の死体と俺を「二人」って呼ぶなクソ。
「これでいいだろ」
「酷い絵面」
「なら代わってや…」
仕方なく片手は大猿人の死体の頭の毛、片方は指先を握る。こうしないと、切り離された胴体と首を同時に運べない。
ゲンコツがそのまま入りそうな巨大な鼻の穴を、至近距離で見つめる地獄のような景色。からかうスズミに不満を漏らしたら、しゃべり終わる前に眩暈。
一瞬、景色がゆがむ。
ただそれだけだ。
「成功…したのか」
四人の姿のない穴の中で、俺は相変わらず両手に花…ではなく死体。
慌てて手を離して確認する。
俺の身体は…、特に変わりはない。
そして、大猿人の頭はそのまま。巨大な胴体も…、何一つ欠けていない。
何度か息をついてから、現在地を調べてみる。
魔窟の中では、スズミは空間を把握することができた。残念ながら俺には、周囲に何かいるか感知するぐらいしかできない。
とりあえず、周囲に猿人やイワタケはいないようだ。
それ以外は何も分からない。うろうろすると迷子になりそうなので、死体から少し距離をとって座って待つことにした。
「おのれ猿人、まだ生き残っていたか!」
「ははは、スズミよ! あの猿人はずいぶん人間に似ておるぞ!」
「お前ら歯ぁ食いしばれ」
体感でどれぐらい経ったか…は分からない。居眠りしてしまった。
気がつくと魔物か何かを感知したので、いつでも殺れるよう正拳突きを繰り返しながら待ち伏せした。
そこに現れたのは、俺を猿人扱いする化け物集団だった。
「もう一度飛ばせば外に出せる」
「はははは、あれをもう一度となるとちと力が足らんのぅ」
スズミたちが調べたところ、ここは蟻の巣の中でも入口にかなり近く、歩いて二十分ぐらいで外に出ることができるらしい。
なので、大猿人の頭ぐらいなら引きずって運ぶことも不可能ではない。そう、不可能ではない。
「チエの魔力を回復させるのが一番だろう。ヨシオ、回復薬持って…」
「スズミは本気でそれを言っているのですか?」
「スズミちゃん、僕もそれは無理だと思うよ。彼女の…チエに必要な魔力は大きすぎる」
うむ。俺以外の全員はチエにもう一度転移魔法を使わせようとしている。
そして、転移魔法に必要な膨大な魔力を、チエはすぐに用意できないし、薬で回復させるのも難しい…というわけだ。
それなら諦めればいいと、俺は思うぜ。
「僕も少しは頑張るけど」
「ナナ、お前だけが頼りだ」
「お手々つないで仲良しじゃぞ!」
解決法は、何もかも俺。
チエはシローから、魔力の受け渡しを学んでいる。なので、枯れた体内魔力を誰かからもらえばいい。理屈は間違っていない。
ただし。
チエが必要とする魔力量は膨大で、さっきと同じだけ転移させるためには、四人の魔力をすべて吸い取っても足りないらしい。
なので最低限、外に出せるだけの魔力を回復させる。
カイソン、ヨシオ、そして俺の魔力を使うのだ。
「スズミだけ外れるのはなぜだ?」
「決まってるだろう、ナナ」
何が…という顔をすると、カイソンははっと気づいた…という顔芸を見せた。
イケメンだからと言って、男の顔芸なんて見ても嬉しくないんだが。
「ヨシオは004だよ」
「……勝手にバラすな」
…………そうか、と簡単には納得しない。
スズミは十分すぎるほど化け物だ。
それに。
「チエには番号なんてないだろ」
「ははは、左様、我が名はナナにつけてもらった!」
笑い飛ばすチエの発言は何一つ間違っていないし、この場の誰も疑っていない。
なのに何かを言いたげな男たちがいて、そして複雑な表情で黙り込む女と、状況がまだ飲み込みきれない俺がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます