第17話 運命の出逢い

「奇妙な三人組がいるんだ、僕が警戒するのも仕方ないだろう?」

「奇妙な奴がそれを言うのか」


 魔窟のかなり奥まった場所。

 すでに探索者の姿も消え、まあまあ強い猿人が襲って来る辺りで、三人と一人は出くわした。


「言っておくけど、魔窟に探索者がいるのは当たり前じゃないか。僕のどこが奇妙なんだい?」


 堂々と俺たちの前に現れたのは、俺と似たような背丈の若い男。

 真っ黒な上下に、光沢のあるなめし皮の鎧を身につけて、腰には短刀。身軽な格好だがよく鍛えられてそうな体つきで、顔もいい。ニヤリと笑顔を見せると歯も白い。

 確かにこれを奇妙な奴というのはおかしいだろうな。

 ここでなければ、な。


「お前のような顔を見たことはない」

「探索者はどこにでも現れるのさ」


 スズミが苛立ちながら尋問する。

 普段は余所で師団長の女が顔を憶えている方が少ないだろう…とツッコんだりしない。


「探索者は汚れのない上下で現れない」

「そこのお嬢さんも同じだろ?」

「そうだ。こいつと同じだ。だから怪しい!」


 スズミは堂々と言い放つ。

 自分たちが怪しい奴だと自己紹介するって、バカだろ。


「ははははは、怪しい奴同士なら仲良くすればいいではないか! まだ殺し合うとは決めてないじゃろう?」

「……困ったな。全員バカなら良かったのに」

「おい」


 身も蓋もないチエの暴言だったが、互いの敵意を削ぐ効果はあった。

 まぁスズミはともかく、向こうに敵意があったのかは分からない。

 いや。

 敵意は感じる。

 少なくとも俺は敵視されてる気がするし、チエには……、どうなんだろうな。


「キィィィイイイイイ!!」


 そんな運命の出逢いに水を差すかのように、猿人が現れた。

 じゃんじゃん差してほしいが。


「ナナ! 行くぞ!」

「待つが良い」

「はぁ!?」


 すぐにスズミが構え、隣に俺が立った。

 しかし、何を思ったのかチエはそれを制止した。


「あやつに任せれば良い。心配するな」

「任せる…?」


 チエの視線の方向には、謎の男がいた。


「いきなり僕一人かい? 酷いお嬢さんだなぁ」

「ははははは、我がお嬢さんと呼ばれたのは今日が初めてじゃぞ!」


 謎の男もこの返しは予想していなかったらしく、一瞬呆けた表情を見せた。

 困ったな。急にチエが頼もしく思えてきたぞ。


 謎の男はそこで大きく息を吐くと、スズミの前に立った。


「高い貸しにしておくよ」

「無用だ! お前の助力などいらない」


 スズミはわめいたが、男は無視してさらに一歩前へ。

 そして懐からまさかの数珠を取り出して、両手を合わせブツブツつぶやき始める。


「キョータンセーコン……シッコンユギョーサツリーショーシュジョ……」


 何を言ってるのか分からないが、しばらくブツブツ唱えた男が、数珠を持った手を突き上げる。


「天魔覆滅!」

「はぁ!?」


 バカか、自分を調伏するのかと呆れた。


 しかし。


「キィィ……」

「キィ………」


 迫って来た猿人たちは、急に立ち止まって泡を吹いて倒れた。

 五匹が一瞬で全滅だった。



「しつこいが貸しにはならない。我々でも倒せた敵だ」

「あーそれはどうでもいいんだ」


 戦いが終わって、こっちを向いた謎の男。

 さっきと変わらない飄々とした雰囲気で、スズミの抗議は聞き流した。


「では何が目的だ。お前は俺たちに用がある、そうだろ?」

「……君はナナ君、だったか」

「ああ」


 バカなスズミが叫んだせいで、俺の名前だけばれてしまったことに今さら気づいた。

 まぁ今さらどうでもいいか。


「ナナ君。君とは話し合わなければならない。それは間違いない。間違いないが話し合うより先に聞きたいことがある」

「なんだ」


 それまでの雰囲気が一変、真剣な表情になった男は距離を詰めて来る。

 なんだ? 俺と戦うって話なのか?


「き、君は!」

「………」

「そこの彼女と恋仲なのか!?」

「はぁ!?」


 思わずハモってしまったのは、俺とスズミだった。

 え?

 くだらなすぎる上に、チエじゃなくてゴリラ女の方?


「ど、どうなんだ!?」

「何を聞きたいのか知らないが悪い冗談だ」

「そうか」


 一瞬意識が飛びかけたが、いわれのない誹謗中傷には断固対応する。誰がこんな女と。

 すると謎の男は、今度はスズミの前で膝をついた。


「僕の名はカイソン。あ、貴方の名前をお聞かせ願いたい」

「……スズミだ」

「そうか、スズミ、…………良い響きだ!」


 あまりにアレな展開に、普通に名前を名乗ってしまったスズミ。

 すると跪いたまま、カイソンと名乗った男は右手を差し出した。


「ス、スズミ殿! 僕と結婚してくれ!」

「はぁ!?」


 背後に猿人の死体が転がる魔窟で、まさかの告白。

 今日何度目かの大声が飛び交うのだった。

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