第16話 蟻の巣穴で茸狩り
魔窟を奥へ向かう怪人三人組。
中央のチエは洞窟内を魔法で照らすだけで、その後は戦闘に加わっていない。
「お前たちはキョーワの者だな」
「よく分かったな、ねーちゃん……って領主様の!?」
「はははは、こやつは猿人の親類みたいな奴じゃぞ!」
「誰が!?」
何度か探索者とすれ違う。
敵を押しつけて逃げるようなクソでなければ、スズミも普通に挨拶は交わす。偉そうだけど。
なお、スズミは領主の娘としても師団長としても知名度はある。そして、さっき出会った探索者には特徴的ななまりがあった。同郷だと多少は気を許すようだ。
「スズミ、あれも魔物なのか?」
「気をつけろ。イワタケだ」
「食べ物にしか聞こえないが、何が危険なんだ?」
「すべって転ぶとケガをする」
…………ふざけてんのか。
イワタケという名の魔物は、人間の頭ぐらいの大きさ、見た目は黒い塊だ。
同じ名前の茸があって、その巨大化した姿に見える。ただし、こっちは動く。死体に群がって死肉を食べるらしい。
「ナナ、あれ投げろ」
「え?」
スズミの指示に、素直に返事をしたくない自分。
あれ…というのは、猿人の死体だ。
「仕方ねぇ…って、生首かよ!」
「お前に似て格好いいぞ」
「ははははは、ナナは猿人顔だからな!」
世界一嬉しくない褒め言葉をもらいながら、収納から猿人の頭を取り出して放り投げた。
すると、岩にはり付いた茸みたいなイワタケは、びっくりするような早さで生首に集まって来る。
なるほど、こいつらは魔物だった。
「チエの火焔放射でいいのか?」
「普通はダメだが…、まぁ今は目撃者もいないからな」
「我が灼熱に沈め、漆黒の闇よ!」
「何だよそのどうでもいい詠唱」
チエが水の次に覚えた炎魔法で、生首ごと焼き払う。黒い茸を漆黒の闇って、安直にも程があるだろ。
洞窟内で炎魔法の使用は推奨されないし、イワタケは水分多めなので炎の攻撃は効きにくいが、青白い炎で蒸発したように消え失せた。かなりの火力だ。
「スズミもこれぐらいできるって聞いたぞ」
「秘密だ」
移動中はドレスを汚さないことしか考えてないチエ。しかし、その能力は底が知れない。他の探索者に目撃させないのも、一目で化け物とばれてしまうからだ。
そもそも、三人の探険は魔窟の調査が目的だが、たぶんチエの力を測るためでもある。
まぁ、測られてるのは自分も一緒か。
「あれは持って行かないのか?」
「ただの炭で何か分かるか?」
残された黒い塊を無視して、先に進む。
なお、俺が持たされている収納は、ものすごく高度な魔法によって内部を拡張した貴重品だという。
どういう仕組みなのかは聞いても分からないから説明できない。とりあえず、猿人の生首はまだいくつか入ってるので、スズミが持てばいいと思う。
「どうなってるんだ? 隣町まで歩いただろ?」
「魔窟の中の空間はねじ曲がっている。外から掘っても辿り着かないのだ」
「ははははは、そんな高次の存在が生んだものを、矮小なる者が調べて何が分かる!」
「分からないからって放置できるか!」
魔窟の構造は意味不明。
というか、収納の意味不明さに似ている。入口の穴からは普通に入れるのに、穴のすぐ近くから掘っても到達できないのだ。
そして、一時間も歩いている。
何度か、螺旋状に下って行く箇所もあって、今はたぶん地底深い所にいるはず。
だからチエの言い分は正しい。
なぜ生まれるのかも分からない魔窟。しかも、勝手に消失するらしい。要するに、神のような何者かがふざけて遊んでるだけ、そう考えた方がまだ分かる。
師団長様がそれを言ったらおしまいなのも分かるけどな。
猿人とイワタケしか現れない退屈な魔窟。
探索者の姿も消えた。
「キィィィィイイイイイイ!!」
「また出たぞ」
猿人にも一応ランクはある。最初に出会った猿人と、今目の前にいる猿人は、正直言って見分けがつかない。
しかし、チエの水流攻撃で半数ぐらいは生き残る。
身体強化は使ってない…というより、魔物にそんな概念はない模様。
同じ見た目なのに強かったり弱かったり。そりゃまぁ人間だって、強くなったら見た目が変化するってわけじゃないが。
「レベル4だろう。全身持ち帰るぞ」
「えぇ…」
渋々死体を収納する。
というか、同じ収納内に三人の荷物、さらには食料も入っている。中でぐちゃぐちゃになったら泣くぞ。
「なぁ、そろそろ終わろうぜ。というか飽きた」
「………」
終わりのない苦行に飽き飽きした俺が適当に悪態をつく。
しかし、スズミは黙って腕をのばして制止した。
分かってる。
適当ってのは嘘だ。
「見つかったのかい? 困ったな」
「困ってねぇよな?」
分岐する穴の陰から、音もなく現れた人影。
最初から、嫌な予感しかしない。
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