第15話 魔物と化け物の対決

「では探険に出発する! 準備はいいか!?」

「ちょっと待て」

「なんだナナ」

「何も説明を受けた記憶がない」

「心配するな! 何も分からないのだから説明することはない!」

「はぁ?」


 勢いよく水が流れる沢の向こう側、崖地にぽっかり穴が開いている。

 この穴が、一ヵ月ほど前に開いたという魔窟の入口なのはいいのだが。


「一ヵ月もあったんだぞ? それに、探索者がさんざん出入りしているんだ、何も分からないってことがあるか?」

「探索者の話などアテにならん」

「ははははは、あやつらは探索なぞしておらぬからな」


 ………。

 いきなり俺たちに襲いかかってきた盗賊は、確かに中には入っていなかったらしい。

 しかし、探索者が全員考えなしってこともないだろう。

 こいつらに金を払ってまで探索していた連中は、命が惜しいし金儲けもしたいのだ。それなら信用できるじゃないか。


 しかし。

 俺の考えは甘かったとすぐに気づくことになる。



「あ、あっちに魔物がいる!」

「キィィィィイーーーー!!」

「任せた!」

「ああん!?」


 魔窟は蟻の巣のように穴が入り組み、重なり合っているという。

 チエが魔法で周囲を照らして、スズミが前、俺が後ろで歩いていると、やがて探索者に出会った。

 ボロボロの服装の男二人は、魔物を引き連れて俺たちとすれ違う。

 狭い穴の中でそうなったら、押し寄せる猿人たちの相手は俺たちに変わってしまう。なるほど、探索者ってのはクソだな。


「スズミ、お前が魔法で一撃だろ」

「バカか! 崩れて生き埋めになるぞ!」

「あいつらが生き埋めになるのは構わないだろう」


 一列とまでは言わないが、狭い穴に集まっているのだから魔法で衝撃波を放てば一気に削れる。そして、魔窟を潰すために来たのだ。崩れて塞がっても問題ないのだ。

 奥にいる探索者が生き埋めになるって? 心配ない。まんま蟻の巣だし、他にも通路はあるからな。たぶん。


「キィィ…」


 しかし、スズミはお得意の魔法攻撃を繰り出さない。

 どうしても俺たち…というかチエに見せたくないようだ。


「なんじゃスズミ、我が倒してしまうが良いのか?」

「はぁ?」


 結局、スズミの警戒は無意味だった。

 未だに汚れの一つもない白いドレスの女は、スズミの背後から右手を突き出す。

 すると、五本の指先から勢いよく水が噴き出し、迫ってくる猿人の頭を貫通した。


「どうじゃ。少しは使えるようになったであろう」

「………」

「ま、まぁな」


 糸を引くように後方に倒れて行く猿人たち。

 人間でも動物でもなく、魔物にまともな知能はないというが、頭に穴が開けば死ぬ。

 もちろんそんなことは知っているさ。理解できないけど。


 チエの水流攻撃は、十数匹の猿人の頭を貫いた。

 まだ猿人は残っているが、折り重なる死体で塞がってしまい、すぐには動けないようだ。


「さっきの奴らなら、今ので皆殺しだな」

「だからお前に魔法は教えたくないんだ」

「お前ではない、チエだぞ」


 あの勢いなら俺の拳より弱いから、身体強化していれば防げる。

 ただし、身体強化は誰でもできるわけじゃない。盗賊も、逃げ出した探索者も身体強化は使っていなかった。



 考えるのはよそう。

 俺は折り重なる死体を踏み越えて、残った猿人を撲殺した。

 数匹後ろに取り逃がしたが、スズミに襲いかかって倒された。


「俺の真似か? 武器ぐらい使えよ」

「汚したくないだけだ」


 スズミに殴られた猿人も、きっちり首がちぎれている。

 いつから魔窟は化け物っぷりを競う場になったんだ。溜息をつく自分もその一人なのが空しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る