第13話 籠の鳥

 領主の食客となって半月。

 俺とチエは、二十四時間監視付きの生活を余儀なくされていた。


「藻屑蟹はうまいのう。米も良い。キョーワは良い街じゃ!」

「否定はしないが、その口調どうにかならないのか?」

「そうだ! 私の威厳ある口調を真似するな!」

「ははははは、スズミちゃんのどこに威厳があったのだね」

「スズミちゃんって言うな!」


 余儀なくされていた……?


 正確な表現をすれば、身寄りも何もない場所で、奴隷になっても仕方ないほど無一文な二人は衣食住を与えられ、無料で勉強させてもらっている。

 監視付きといっても、そもそも俺に監視を逃れたいという意志はない。

 チエは知らん。

 領主宅の生活を満喫しているようにしか見えないが、本音を言えば何考えてるのか分からないからな。



「チエ殿。こうやって、他人に魔力を送るのです」

「ははははは、シロー、むずむずするのう!」


 毎日朝はシロー先生から座学、その後はシローかスズミから魔法を習う。

 チエの魔力制御は既に王国で一番らしい。今はシローに、魔力の受け渡しを学んでいる。

 チエが集めた魔力をもらうことで、譲り受けた側は強力な魔法攻撃が可能になる…という仕組みのようだ。


「俺もああいうのがいいな。自分で戦わなくていいし」

「バカを言うな。ナナにあんな器用な真似ができるわけないだろう。ということで組め! 次はタカヤだ!」

「はいっ!」

「やってみなきゃ分からないだろうに」


 俺はひたすら素手で戦う訓練。

 スズミのいる師団の部下二人がやって来て、交互に組み合う。

 向こうは交代制なのに、俺はずっと戦いっぱなしだ。


「せめて俺にも武器持たせろよ」

「ダメだ。魔力の扱いと武器は同時にできない」

「それなら武器だけでいいんだぞ」


 組み合って、腕をとったり脚をかけて倒したりと、死ぬほど地味な訓練。

 汗臭い野郎と組んずほぐれつ。どうせならまだゴリラ女と組んだ方が楽しそうだが、一度口にしたら不意打ちで武技を食らったので我慢だ。


「タカヤも嫌だろ?」

「そ、そんなことないです! 勉強になります!」


 ………。

 目を輝かさないでくれ。


 ちなみに、素手格闘は互いに魔力をまとわせて身体強化している。

 猿人の頭を吹っ飛ばした俺のパンチも、身体強化した兵士なら受け止められるわけで、それを学ぶことに意味はある。

 だが。


「スズミ。もっと、どっかーんって感じの魔法はないのか?」

「なんだその子どものような言い方は。ナナにはまだ早い」


 俺とチエに対して、意図的に初歩の魔法しか教えていない。

 休憩中にタカヤたちの話を聞くと、魔法は遠距離攻撃がメインだ。スズミは魔法攻撃では王国の五本の指に入る使い手で、五百名が籠る砦を一人で壊滅するほどの力があるらしい。

 それを教えないのは、俺たちを警戒しているから。

 まぁ当たり前だな。

 王国への忠誠心なんてあるわけないだろ。一宿一飯の恩は感じてるけどな。




「で、スズミはそろそろクビになったのか? 師団長がいつまでも親子仲睦まじくしていられるわけないよな?」

「スズミちゃんは愛されておるのじゃぞ!」

「うるさい! クビになるわけあるか!」


 優秀な副長がいるし、魔王は攻めて来ないから大丈夫だと、スズミはブツブツつぶやいている。


「魔窟をどうにかするのが先。さっさと潰さないと内部から壊れてしまうのよ」

「ほほう! つまりそれが魔王とやらの深遠なる策略だったのだ!」

「えっ!?」


 えっ、じゃねぇだろスズミ。

 チエのでまかせが本当ならすごいが、それなら魔王が攻めて来ないのがおかしい。


「まぁでも、魔王領に同じ魔窟があるとは限らないか。向こうの方が楽だったりして」

「えっ!?」


 頼むよ師団長。本気にするなっての。

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