第4話 行くアテのない奴隷と俺
「つまり君たちは奴隷だと?」
「そ、そいつの…」
何にしろ俺にとっては初めての人間。
そして、互いにとっての非常事態。
鬱陶しいやり取りを続けている場合ではないと、何となくフィーリングでわかり合った五人は、死体の山から少し離れたところで座り込んで状況整理をすることにした。
馬車はキョーワという街からウセンという街へ向かう途中だった。
奴隷が四名、主人はひげ面ハゲ、他に護衛らしき男が二名同行していた。
「そいつらは……、あれか」
五人は輪になって座っている。そこで俺から見て右側奥に、蔓草にもたれかかって動かない人間が見えた。
馬車とは反対方向で、二人とも主人を護ろうとしたようには見えない。
自分だけ逃げようとして背中から殴られたのだろう。
「つまりお前らは今、どうすべきなんだ? 申し訳ないが俺はこの辺の人間じゃないから常識に疎い」
「謎生物のくせに」
「お前は黙ってろ」
自分はどうやら奴隷のいない世界にいたらしい。なぜなら、奴隷という言葉を聞くたびに嫌悪感がある。
どっちにしろ、主人を失った奴隷の扱いは分からない。
「あ、あいつに無理矢理捕まって奴隷にされた。助けてくれ」
「わ、私も」
だんだん状況を理解しはじめたのか、三人の奴隷たちは騒ぎはじめる。
助けろと言われても、何をすればいいのか。
とりあえず手錠は外れないから、つないでいる鎖を引っ張ったら切れた。それだけで三人は大喜びだ。
うむ、三人は。
「いや、お前は何なんだよ」
「そ、そいつは奴隷じゃない」
「はぁ?」
話の通じない残念美女。自由になった三人は、すぐにその女から距離をとった。
そもそも、キョーワから護送されていた奴隷は三名。
こいつは…。
「道で拾った?」
半日ほど前、道端で寝ていた女にオッサンが声をかけ、奴隷の服を着せて腕を縛って載せたらしい。
そう。道端でこいつは全裸で寝ていたらしい。
「謎生物にも程があるだろ」
「心配ない。私は良い謎生物。お前は謎殺戮者」
こいつ、放っておけば殺戮される側だった自覚がないのか?
いや、裸で路上にいるような女に常識があるわけないな。
結局、三人はキョーワに戻ることにした。
ウセンで売りさばかれる予定だったので、そっちには行きたくないようだ。
しかも、オッサンの死が確認されれば、持ち主がいなくなった奴隷は解放扱いになる可能性が高いという。
「俺もついて行っていいか? この辺の地理にうとい」
「私もついて行ってやろう」
俺たちの申し出に、三人は少し困った顔をしたが断わりはしなかった。
ここからキョーワまでは、馬車で二日かかる距離。その馬車はもう使い物にならないから徒歩になる。
「猿人の群れが出たら…助けてくれ」
「猿人?」
奴隷たちが指差したのは、例の謎生物だった。
そうか、あれは猿人っていうのか。
「言っておくが、さっき俺がなぜ戦えたのか自分でも分かってない。君たちを護れる保証はない…が、自分も死にたくないからせいぜい頑張るさ」
「助かる」
幸い、馬車の中に食糧はあった。
互いに信用のない五人は、残っていた食糧を五つに分けて麻袋に入れ、各自がそれを持って歩き出す。
拘束を解かれた三人の足どりは軽い。
そして…。
「謎生物。お前は何者なんだ?」
「ナナだって言っただろ」
路上裸女はやかましかった。
自分から奴隷扱いを望んだ時点で、こいつは常識に欠けている。いやまぁ、裸で寝ている時点で論外か。
ただ…。
裸で路上で寝ていたような奴が、他の三人より圧倒的にきれいな肌なのはどういうことなんだ?
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