【黒歴史放出祭】中二病をこじらせて精神科に連れて行かれた
永久保セツナ
中二病をこじらせて精神科に連れて行かれた
中二病。
それは学生時代に誰もが通る病気――あ、かかったことない? あなたは幸せ者ですね。
私は中二病真っ盛りの学生時代でした。
当時、発症したのが『二重人格』。
その頃の私は、なぜか「人格が変わるともう一つの人格の記憶がない」という状態に憧れを抱いておりまして。
ただ、私は陰キャで常にビクビクしながら生きていたので、「凶暴な裏人格」といったものは作れませんでした。
凶暴な裏人格を作ったところで私は二重人格の真似事をしているだけなので、いじめっ子に恫喝されたらすぐその化けの皮が剥がれてしまうわけです。
さて、どんな裏人格を作ろうかなあ。
私の日記帳にはびっしりと裏人格の設定案が書き込まれていました。未来には見つけてすぐ燃えるゴミ袋に放り込んだ代物です。
結果、私は「敬語で喋る淡々とした性格のお姉さん」を演じることに決めたのです。
練習台として、兄弟の前で敬語を使い、そういった役を演じると、「なんで敬語?」と当然の疑問が投げかけられます。
「今、セツナは私の中で眠っております。私はセツナを守るために形成された裏の人格です」
どうなったかって?
母親に「姉ちゃんが変になった」とチクられました。
母は気が強く、いじめっ子とはまた違って意味で威圧感があります。
「アンタ、もう中学生でしょ? そういうなりきりごっこはもう卒業しなさい」
「なりきりごっこ……ですか。あなたも、私たちを理解できないのですね」
「いいから、そういうの」
「アッハイ」
それでも「敬語で淡々と話すお姉さん」の人格はそれなりに役に立ちました。
例えばいじめっ子や、他にも私に圧をかけてくる人間に対しては、その人格を演じて「はい、はい」と無感情に相槌を打つ、というストレスへの対処になったのです。
そのうち、そちらの人格のほうが便利なので、私は普段から無表情で「はあ」と「はあ?」だけ喋るロボットのようになっていきました。
転機は、家族でデパートに買い物に行ったときでしょうか。
母が服を選んで、「これ、アンタに似合いそうだけど買う?」と聞いてきてくれたのに、そのときの人格は裏の方でしたから、
「私に聞かれても……セツナを起こしますか?」
その一言で母は不機嫌になってしまったのです。
早々に買い物を切り上げて、眉間にしわを寄せながら車を運転する母を見て(やってしまった)と思いました。
母の機嫌を損ねたので、もちろん服は買ってもらえませんでした。
そして、ある日のこと。
私と母、ふたりきりで車で出かけていたときでした。
「あれ? そっち家の方向じゃなくない?」
珍しく表人格になっていた私の言葉を無視して、母は車を進めていきます。
止まった場所は病院のようでした。看板を見ると――
『〇〇メンタルクリニック』
当時の私には「メンタル」という言葉の意味がわかりませんでしたが、なんとなく嫌な予感がしたのを覚えています。
そこで検査を受けて、やはりここが精神科であるらしいことがわかりました。
どうしよう。
私が二重人格の真似事をしたばかりに、なんだかとんでもないことになっている気がしました。
(まあ、検査の結果は正常だろうし、この場で二重人格のフリをしていたことを謝ってなかったことにしてもらおう)
診察室に通され、母と一緒にお医者様の目の前にある椅子に座る私。
「あの、私のことなんですけど――」
「脳が萎縮してますね」
…………ん??
お医者様が頭部のMRIを指差すと、たしかに脳と頭蓋骨の間に空間があるのです。
「おそらく統合失調症かと思われます」
とうごう……なんて?
お医者様の話を聞くと、どうやら私は本当に精神疾患を患ってしまったようなのでした。
人生、何が起こるかわかりませんね。
そこから入院や投薬治療が始まるのですが、それはまた別の話。
以上、中二病をこじらせて精神科に連れて行かれた私、本当に精神病でした。
皆様も、二重人格の真似はほどほどに。
狂人の真似と言って大通りを走ったら、それは狂人なのです。
【黒歴史放出祭】中二病をこじらせて精神科に連れて行かれた 永久保セツナ @0922
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