尻尾怪獣ラシバサ 登場
第4話 「余所見」
その黒い巨人は突然現れた。
4時間前、怪獣が現れて、私はトラウマの発作が起きて、お姉ちゃんも吐いていた時、まるでそれを無視するかのように奇怪な動きをした人がいた。
丸間君である。
丸間君はモゴモゴとして何を言っているかよくわからないことを言い、私たちの現在の家でありこの町の役所である”世役所”の正面玄関を開けて、中に入ろうとする避難民をかきわけどこかへ行った。
私は彼が何故そんなことをするのか理解不能で色々考えたかったが、発作が邪魔をしてくる。
だが追わなきゃ行けないという考えが漠然とその時脳裏によぎっただけだ。
避難民が押し寄せ、お姉ちゃんも天斗さんも精一杯な状況の中、私はどうにか自分の発作を殺し、丸間君を追い、走った。
そして外を出た瞬間、黒い巨人が戦っているのが目に見えた!
確信した。彼があの巨人だと。理屈はわからないけど、きっとそうだ。
彼が怪獣を二枚下ろしにした時私は微かに希望を持った。
彼ならきっと私の願いを叶えてくれる。
彼ならきっと私の力になってくれる。
彼なら彼なら母さんを殺したあいつに……。
◇◇
目が覚めた。
俺は怪獣を倒してそれから記憶がない。
というか身体も戻ってるな。
ここはどこだろう?
はてここは前にも見たような……というか俺も倒れてばっかだな。
そうすると左から前に聞いたような声がした。
「起きたか。全く……僕の世話を2回も焼かせるなんてね」
あ、ここネメって子供の家か。どおりでどっかで見たことあるわけだ。……なんか隣に知らない女の子がいるな。
「初めまして丸間様、わたくし、自律型移動思考AIテトラでございます。丸間様の話はマスターから聞いています。どうぞお見知りおきを」
「あ、その、わかりました。よろしくお願いします」
突然というわけでも急というわけでもないが喋りだしてびっくりした。マスター?って誰だ?
「マスター、キナ様を呼んできます。」
そうテトラが言うとネメが口を開く。
「ああ、頼む。おいそこのアホ顔の一般男性。丸間と言ったか?」
「ああ、はい」
なるほどマスターってネメさんのことか。テトラさんはネメさんの言葉を聴くと階段を登っていった。
「とりあえず水を飲め。4時間しかぶっ倒れていないからそこまで水分は必要ないだろうけど、少しは落ち着く」
そう言うとコップ一杯の水を手渡された。
ここに来てから飲まず食わずで実はめちゃくちゃ水分欲しかったので助かる。
あ、ちょうどいいや。ベッドから近い机に水を置いて、胸のポケットにしまっていた薬を取り出す。
「なんだその薬?少し見せてくれ」
ああ、そういえばこの子、今は医者だったな。
興味あるのかなと思い、渡してみる。
そうすると頭に載せていたゴーグルを下ろし。
「分析 種別は薬品」
と一言言う。
「ストラテラ……お前ADHDか?」
「い、いやSFSIDです」
「あーなるほど」
「あ、まああまり役に立ってるかは……」
「立ってると思うぞ」
「え?」
「今ソワソワしてるだろ?手ぶらになった瞬間手が痙攣っぽい動きしてるし、足も震えてる。今日飲んでないだろ?」
指摘された瞬間ハッとした。確かに、かなり大きめに手も足もブラブラさせていたのだ。すぐにその行為をやめて呟く。
「すごいな」
「みんなわかるレベルだぞ全く……あそこに近づいたりいまいち理屈がおかしい。集中力の欠如かもな」
「あ、いやそれは……」
「まあいい返す。薬と一緒に水を飲め。こっちでも出そう。」
「ありがとうございます」
「後、お前風呂絶対入れよ。めちゃくちゃ臭いから」
「はい」
そう言うと薬を返し、俺は改めて薬を水と一緒に流し込む。
水を飲み干した後、キナさんとテトラさんが階段から降りてきた。
キナさんは俺の傍に寄りすぐこう話した。
「丸間君!起きたんだね!」
「うん、まあ」
テトラさんのほうはネメさんの所に少し近づいて。
「テトラ、ストラテラって倉庫にあるか?あるなら30日分持ってきてくれ」
「はい、持ってきます」
そう言って次にテトラは下の階段へと向かった。
「丸間君?聴いてる?」
「ああ、ごめんその……キナさんその……」
全く聴いてなかった。
ネメさんたちの全く関係ない話を代わりに聴いてしまっていた。
結果がこれではダメだ。絶対怒られるよ。
恐る恐るキナさんの次の言葉を聴く。
「そのキナ"さん"ってところさ」
「はい…………」
「呼び捨てにして!」
「え?」
子供に怒られるかと思ったら少しズレたことになった。
「いや流石に呼び捨てはちょっと……礼儀がなってないというか……」
「じゃあちゃん付け」
「……」
「とにかく!他人行儀は一緒に住むんだからおしまい!」
「え?そうなの?」
「よくわからないけど迷子なんでしょ?」
「まぁ、はい」
「ならね!今日はもう暗いし泊まっていかない?それに赤裂山がゴールだとは限らないしさ!」
「赤裂山?」
「言ってたでしょ?真っ2つに割れた山」
「あぁ……あそこか……」
あそこの山ってそんな名前なんだ。
……確かに迷子と言えば迷子だ。第一に寝床の確保が優先するべきことだと思う。
でもそれもだが、さっき自分の身に起きた巨大化する現象も気になる。というよりこの世界が気になる。一体この世界は自分に何をしたのか?
そう考えているとテトラさんが薬を持ってきた。
ネメさんも話に入る。
「ま、なんにせよ、ここにずっといるのは困るからな。後これ、薬。今日はもう飲んだからいいけど明日から夜の食後に飲めよ」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ行こうか丸間君!」
キナさ……いやキナちゃんでいいのか?
キナちゃんが俺の腕を持ち、立ち上がらせ、そそくさと扉の前まで誘導する。
「い、いやまあ、まあ出ていくけど、やっぱ迷惑だと思う。あの、その、お姉さんとか後天斗さんとかに……それに部屋とか」
「天斗さんは大丈夫だよ。部屋は昼の時寝てた所ずっと空いてる所だから、お姉ちゃんは私から色々言っておく。それに……」
「それに……?」
「それに丸間君のこと好きだから!」
「すぇ?」
「とにかく私の家に来て!いいから!」
「は?あ、え?」
彼女の言葉と押し込む手に背中を押されて、ネメさんの家を後にする。
外に出て扉を閉じる直前。
「お大事に」
という声がさっき薬を探してくれたアンドロイドのほうから聴こえた。
正直好意を持つ理由が一切わからない。彼女に嫌われる理由なら気絶させたとか思い付くが……。
ダイダラデウス?だっけ?でこの町?いやここ町なのか?救ったけどそれはまだ話してないもんな……。
そして再度キナさ、いやキナちゃんの家に着いた。
「何度もごめんね行ったり帰ったりしちゃって、本当に申し訳ない」
「丸間君?どういう意味?」
「いやその俺今日でこの家の扉入るの3回目だからさ……なんか申し訳ないなって」
「ふーん変なの別にいいよ。誰も気にしてないし」
扉の中に入り、靴を脱ぎ、しばらく玄関前の広場で待っていると天斗さんが来た。
「お帰りなさいませキナ様」
「ただいま~天斗さん!」
「おや丸間様も」
「すいません。彼女の薦めで泊まることになりました。しばらくお世話になります」
「なるほど、そういうことでしたか。いえいえご遠慮なさらずに」
「は、ほ、本当にありがとうございます!」
「あ、そうだキナ様、マチ様がお呼びです。丸間様にも関係あることです。」
「えぇ……」
天斗さんに付いていき、マチさんがいる世長室と書いてある部屋に入った。
世長室ってなに?と思ったが中に入って、高級そうな机上名札と深くてモコモコした椅子、大きな机を見て、一般的に想像する社長室や市長室と同じで少し安心した。
世長室に入るとマチさんが椅子に座っていた。俺たちは彼女に近づき、彼女が話し始める。
「まずはキナ、あなた何故怪獣のほうに向かって行ったの?」
キナちゃんは無言だ。だが無視してるのではない。
マチさんはキナちゃんの姉で、考えてることが読める能力を持っている。
姉妹として長年付き合い、理解してる故の無言なのだろう。何も言わなくても伝わるということだ。
「ちょっと待って、何キナちゃんって」
あ。
「何ちゃん付けしてるんですか!愛する妹にそんな呼び方していいと思ってるんですか!」
「い、い、いやちょっと待ってくださいマ、えーと」
「私の名前を呼ぶことすら烏滸がましいと思わないの!?あなたも何故あの時私たちを無視して怪獣の所に向かって行ったんですか!あなたのせいでキナも気になって付いていってしまったんですよ!住民が世役所に避難して大変だった時に!」
待ってそれは足が勝手に動いたからであってそれに結果的には良かったじゃないか。
なんかこうでかくなって怪獣倒したんだから。
いやけどそれは現実では正しいけど理屈としてはわからないか。どうしよう……。
「あなたが?あの巨人……?」
あ、まただ。
「丸間様があの黒い巨人なのですか!?」
「ああ、まぁ……」
天斗さんが真っ先に驚いた。
この一日しか会ってないのに印象だけで語るのは少々恐縮だが、冷静な男だと思ったので少し意外だ。
自分でも信じられないことなのだが……。
その後、マチさんが溜息をつきこう言った。
「今回が初めてですか。まぁ街を救ってくれたことには感謝します。ですが……まだキナを気絶させたことは許しませんから」
「私は気にしてないけどね」
「キナ!あの巨大生物がいつ来るかわからないのよ!外に出歩くだけで怖くて堪らないのに外で気絶させるなんてこの男は!」
「いいでしょ別に……わざとじゃないんだから」
「そういう問題じゃないの!家族として妹を危険に晒した行為そのものが唾棄すべきことなのです!それに身体が臭い!」
「そこまで言うことじゃないじゃん!」
天斗さんもこういう状態になると止められないのか、神妙な顔で喧嘩が終わるのを待っている。
だが、この口論中、玄関のドアからギギギという音がしたのを感じ取った。
多分このことに気づいてるのは俺だけだ。一体誰だろう?親とか?
「そうじゃないよね!ねえ?丸間君?」
あ、またやっちゃった……。
ごめんなさい本当に申し訳ないんですけど”許してません”らへんから聞いてませんでした。
そう頭の中で考えた瞬間のマチさんの反応は早かった。
「ほら、こいつなんも考えてない自分の話すら余所見するんですよ!?信じられない!」
「違う!こ、これは……」
「そもそも無自覚に危険を招く人間が泊まったらどうなるかわかったもんじゃない!」
「で、でもその危険な外で丸間君を置いてけぼりにすればいいの!?違うでしょ!?」
マチさんは少し迷ったのか言葉が止まった。
その時、後ろのドアが開いた。
そこから現れたのはまた女性だ。
今度は和服で、黒髪でポニーテールだ。
年齢は、中学生くらいか?少なくともキナちゃんよりかは年齢は上だろう。
彼女が口を開く。
「じゃ、私も泊まれないか」
「あ、あなたは……」
マチさんが知っているようなそぶりをする。
それだけではないどうやらみんな知っている人のようだ。
ポニテの少女が発言する。
「帰ってきたよ。マチ」
「カサネ様……」
「なーに気まぐれだよ。私も巨人のことが気になってね。町で色々聴こうかなと思ったけど、まさかそこの君があの巨人なのかい?」
そう言ってカサネという少女は俺のほうに目を向ける。
なんとなくだが、とてもミステリアスで底が見えない。
まぁそもそも人の底なんてわかるほどの知能がないのだが。
彼女の説明に答える。
「まぁ、はい。じ、自分でも不思議で色々わからないんですけど巨人の時の名前はダイダラデウスって言うらしいです」
「へぇ、いい名前じゃん。君カッコいいね」
「あ、ありがとうございます」
俺がそう言った後、部屋は一瞬、シーンっと沈黙に包まれた。
だが逆に喧嘩が無くなったので天斗さんがこう言った。
「そうですか、カサネ様、丸間様、今日はもう日が暮れてますので、どうぞここでおやすみください。空腹でしたら、夕飯もこちらでご用意致します。」
俺も落ち着いて答える。
「はい、晩御飯ありがとうございます。是非よろしくお願いします。あ、でも先にお風呂用意してくれませんか?服が汚れてるし、なによりさっき臭いって言われたんで」
「ここは温泉が湧いてます。今、案内します。」
「ちょっと!」
マチさんが割って入る。やはり思う所はあるのか。しかしこんな時の天斗さんは冷静だ。
「マチ様、気持ちはわかります。ですがさっきキナ様に指摘された通り丸間様を外にホッポリ出しとくわけにはいきません。」
マチさんは再度不満そうな顔で黙った。
俺はその顔を見てこう言った。
「ほ、本当にごめんなさい。あなたの大切な家族を危険に晒した行為は非常に恥ずべき行為であり、本来ならここに泊めさせて頂くなんて出来ない立場です。ですが……キナさんのご厚意と一瞬とはいえ自身の安全を……」
「もういい、わかりました。さっさと私の前から出ていって頂戴」
彼女の行為は寛大だ。その言葉を聞いた天斗さんは少し微笑み俺を温泉のある脱衣所まで案内してくれた。
天斗さんはこう言った。
「このかごに服を置いといてください。寝服は私のと昔の世長達が置いてった物があるのでそれで。パンツも私の予備で未使用品があるので安心してください」
「至れり、り尽くせ、至れり尽くす、」
こういう時に限って俺は噛む。
「至れり尽くせりですか?」
「そうそれ、本当に感謝したくてもしきれませんよ」
「いえいえ……あの黒い巨人いやダイダラデウスデウスを見た時、私は神の助けが来たのだと感じました。それが丸間様なのは意外でしたけど、あれで多くの人々が救われました。あの巨大生物を倒してくれてありがとうございます。」
「こちらこそ……こんなえーと、あ、豪華な所に泊めてくれて温泉やご飯も無料でご馳走になるなんてほ、本当に……」
「世長様、マチ様に感謝ですね」
「あ、あの姉さんも色々大変ですね。状況だけ見れば妹が男を勝手に連れてきて更にそれは大人ですからね」
「わかってくれますか?」
「俺も一応妹がいるんです。まぁ昔からお互い無関心で大して話しませんでしたけど」
「マチ様はこの江の世の長になり、あの化け物への対策や民のことも考えているのです。キナ様も何か役に立ちたいと考えてるのでしょう」
「そうですね……いやまぁ僕が役に立てるかは別ですけど」
「フフ、では私は食事のご用意をしてきます。」
「天斗さんも今日色々行ったり来たりでご迷惑おかけしました本当にありがとうございます!」
その言葉に天斗さんは無言でニコっと笑いその場を後にした。
俺は天斗さんに一礼し、後にしたのを確認すると、俺は服を脱ぎ温泉に入って考える。
温泉と言っても我々が想像するホテルやスーパー銭湯の温泉とは違う。
温泉自体の外見は皆さんが想像する岩に囲まれ、暖かそうな湯気が立っている。
しかし温泉水の色は濁ってるし、なによりシャワーがシャンプーも無い。
唯一あるのはバケツ。頭はこれで洗えということか。
濁ってるのは気になるが、中に入ると割と快適だ。
一息付きここで気持ちを整理する。
まずはあの黒いらしい巨人だ。あれは一体なんだろう?
とりあえずあれは俺の力ではないと思う。
あの女が与えた力だ。俺の頭の中に声が聴こえて、俺を殺した女は確実に何か知っている。
それだけだ。
ダメだ俺の知能じゃそこまでしかわからないし深堀りできない。
まぁあくまで気持ちだ。
……これからあんな怪獣たちと戦わないといけないのか。
いつ帰れるんだろうなぁ。あ、帰るといえば、この町って海あるんだよな。
巨人状態になって泳いで帰るとか、あ、でも普通の人間状態にどうやって戻るんだろう。
というか巨大化してるとはいえそれでも他の陸に着くまで何時間かかるんだろう。
というか俺の日本はこの世界にあるのか?
ダメだ頭が混乱するだけだ。一旦これはやめよう。
次は……キナさんとマチさんか。天斗さんにはああ言ったがあの二人は正直苦手だ。
多分マチさんにはこのことはバレてるよな。
女性だからというのもあるがキナさんは理解できない。
人ってこんなに初対面なのに好意的だっけ?
好きになるか?普通?
マチさんはキツイ子供なのになんだあのキレのある怒りとネチっこい正論は。
それに心の中見る能力の合体技はもう無理だ!
嫌われてるし!
俺、言葉の喧嘩は苦手だからここに居る限りずっとなんか言われるんだろうな……。
そういえばネメって子も正論でぶん殴ってくるからこうキツイな。本人は何気無かった台詞なんだろうけどクサイって言葉は今は気になってしょうがない。
いやこれ俺が屑だなこれ。人の全行為嫌いじゃん。
そういえばバイトの時も人の欠点ばっか並べて自分で我慢せず、バックレたりして逃げてたな。
そして最終的にここか。
まぁ、うん……、そろそろ上がるか。
温泉から上がり、バケツで頭を流す。
「流石になんかこう足りないよなぁ……電気はあるのにシャンプーとボディソープ無いって水臭くなりそう」
俺は誰にも聴こえないと思い、なんとなく愚痴る。
バケツの中にお湯を入れた時、肩をポンと叩かれる。
「これを使わないのかい?」
声の主は黒髪のポニーテールの子だった。
名前はまた忘れてしまった。
手には石鹸らしき物がある。あぁこれで洗うのか。
女性の裸はスマホでポルノを見てはいたが、現実で見るのは3歳くらいぶりだ。
「驚きました?」
と彼女は聴いた。
しかし自分でも今日のことで驚き疲れたのか、それともさっきの気持ちの整理で無駄にストレスを貯めたのか、 全く興奮しないし、驚かない。
多分だが自分は今、物凄く疲れてる顔をしているだろう。
俺も答える。
「まぁ、驚きました」
「フフッいいねその顔私と似てる」
「故意かどうか知らないですけど女性が男の前でそんな恰好しちゃいかんでしょう。脱衣所に俺の服があったでしょう?」
「ええ、知ってます。あえてです」
「え?」
「私、ずっとここに居たんですよ?」
「それって俺より先に?」
「いや後ですよ。そうじゃなくて、途中から私が隣に居たのに気付かなかった。それが不思議で面白くてね」
「あぁ、そういうことでしたか。すいません気づかなくて」
これ俺謝ることなのか?
「いいですよ……マチの繊細な所にぶつかって可哀想だと思ってた所ですし」
いきなり何を言うんだ。こいつは。
「いやぁ……そんなことはないですよ」
「あなたにもあんなに酷い言い様。何か思うところはないの?」
ないと言ったら嘘になるし、色々言いたいが答えて同情して話が長くなることを思うと、倦怠感のほうが勝る。
話を切り上げたいと思い俺はこう言った。
「あ、えっと名前は」
「カサネです」
「カサネさんその石鹸貸してください」
「いいですよ」
そう言ってカサネさんは微笑む。俺は彼女から石鹸を貰い、身体を洗う。
少し無理矢理だが、話を終わらせた。
だが彼女は俺に近づき、身体を観察している。
多分だが、巨人になったことを色々観察してるんだろう。
例え全裸で美人の少女であっても観察されるのはいい気分ではない。
いやというよりもう人と会いたくないから完全に異様な光景なのも相まって心が拒絶反応を起こしてる。
バイトでも学校でもあったが、一定以上、人に怒られたり、自分がミスをすると、人と話したくなくなるし人と触れあいたくなくなる。
実際親とすら話さないくらい無口になる。
あ、でも親とはそもそも話したくないな。
とにかく、もう人はうんざりだ。
今日だけで自分のミスで説教されて、文句を言われ、挙げ句の果てに巨大化だ。
ササッと石鹸で髪と身体を洗い、バケツで泡を流す。
そしてバケツの中に、石鹸を入れて、そそくさと出ていく。
一応挨拶くらいはしておかないと失礼だと思われるか?
「じゃあお先に」
「次はもっと話そうね」
彼女はそう言った。
本当になんだったんだ?
そう思いながら俺は脱衣所に戻ってきた。
服は天斗さんの言う通り用意されていた。
見た目はガウンに近い。
寝服を羽織り、帯を腰に巻き付けて、多分これでいいだろう。
大事な部分は隠れてるし、歩いても問題ない。
脱衣所から出るとちょうどキナちゃんが近くに通りかかった。
そしてキナちゃんはこう言った。
「お、出たんだ!じゃあ次は私だね!あそこ見て!ここから先に8って番号の部屋があるからそこが丸間君の部屋だよ!机に薬と食事がそこに置いてあるからそこで食べてね!」
「部屋は8番ね」
「そうだよ!食べ終わったら食器をドアの隣に置いたら天斗さんが回収してくれるから!ごめんね!本当はみんなで並んで食べるはずだったんだけど、お姉ちゃんがね……」
「いや、まあそういう日もあるさ。8番だねありがとう、温泉ごゆっくり」
「うん!」
そう言って彼女は脱衣所に向かう。
俺も8番の部屋に向かった。
温泉に入ろうとしてドアを開けたキナちゃんは目の前にいるカサネさんを見て、こう言った。
「え、どうしてカサネさん……?いつからそこにいたの?」
カサネさんは怪しげな表情をしながらこう言う。
「ついさっきかな」
俺は温泉にカサネさんがいることをすっかり忘れていた。
少し迷ったが、無事8番の部屋を見つけて、中に入る。
中にはキナちゃんの言う通り、机の上に食事が置いてある。
白米と魚の塩焼きと水の3つだが、朝から何も食ってないので旨そうだ。
ベットと鏡もある。
ご飯を食いながら、少し安心して、考えていた。
あぁ温泉で苛立ってたのは一人の空間じゃなくなったからなんだなぁ……と。
ご飯を食い終わり、外に食器を置いて鏡を見る。
「痩せてるな。顔は前よりかはいいが、俳優やモデル程よくもない。もうちょっといい顔にしても良かったんじゃないか?」
なんとなく、自分の脳内の女に呼びかけるように独り言をつぶやく。
特に反応は無い。もうやめておこう。
違う病気まで持ってるかもしれないと思われたら溜まったものじゃない。
電気を消してベットに入る。今日は色々あった。
巨人のことや今後のことの不安を胸に納め。
目を閉じ就寝した。
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