第3話 「でかくなれ」
話していると洋館の馬車の置き場に着いた。
結局洋館に戻ってしまった。
襲撃というのが何かわからないが、しばらくはここから出れないと思う。
洋館の中に再度入った途端、玄関先にはキナさんと同じくらいの小柄でメガネをかけた女の子がいた。
「あなたですね!キナを気絶させたのは!」
彼女から早速こう言われた。
いや、確かにそうだけどそもそもあそこに近づくなっていうのは知らなかったし、こうなるのも予測出来なかった。
あそこに行けば俺の町に帰れると思ってたし。
「何が予測出来なかったよ!なにが知らないよ!あんたのせいで!キナはおかしくなってるの!」
「お姉ちゃん!」
え?まだ何も……そうか、この子がその、キナさんのアレだよな?そう、お姉さんだよな。
「思考も口を開くのも遅すぎない?そもそも何よ。あそこを通ったら帰れるって理屈?適当にほっつき歩いて帰れるはずないじゃん。」
それはそうだけど。
「あなたは本当はここにいたくなくて、口から出任せて出ていったのも知ってるんだから!人と話すと疲れるってどんだけ人と接したことないんですか?」
はいその通りです。
「はぁ~……情けないわねそれで?」
「マチ様、それくらいに」
「お姉ちゃんもうやめて!それ以上丸間君のこと悪く言わないで!」
「チッ……」
お兄さんと
「お兄さんじゃない、天斗さんです!人の名前くらい覚えて……あ!」
お兄さんとキナさんが制止しても続けようとする。
俺への鬱憤は相当溜まってたらしい。
どうやら彼女はキナさんのお姉さんだったらしい。
だが、地震が彼女の説教を遮った。
何の地震なんだ?と思ったその時!
ガオオオオオオン!という耳が割れそうなくらい大きな音が外から響いてきた。
これは一体なんなのだ?
「来る……来る!」
キナさんがまた強張った表情とマラソンをした後のような息使いをしてそう叫ぶ。
マチという少女にも異変が起きる。
「ヴォエ……うぅ……」
「マチ様!」
天斗が急いでハンカチを取り出しマチさんの口を拭おうとする。
「大丈夫、大丈夫だから。でもまた町の人たちが死んでいくのを見るのは耐えきれないの」
「お気持ちお察しします。ですが、私達には……」
どちらの少女の変化を見ても自分はまた何も出来ない。
さっきもそうだがどういう言葉をかければいいかわからないしどういう行動をすればいいかもわからない。
これが障害なのかそれとも単に俺には知識がないだけなのかそれすらもわからない。
俺も心臓がドキドキしてきた。
彼女たちと違って吐き気とかで行動が出来ないわけではないが、とても緊張する。
ドキドキが増していく。ドンドンドキドキしていく。何故かは知らないだが、無性に扉の向こうに行きたいいや身体が行けと叫んでるような感覚だ。
こんな感覚は初めてだ。一応言っておくが断じてこれはSFSIDの症状ではない。
足が勝手に動く。
「やめてくれ俺に何をさせる気だ」
思わず呟く。それに対してマチさんは持っていたハンカチで口を押さえながら俺のほうを見る。
「え?あいつ何する気?」
彼女にも不可解なことだと思われたらしい。
キナさんも気付いたのか強張った顔をどうにか緩ませ
「丸間君?」
と俺の名前を呼ぶ。
天斗さんは無口でマチさんの背中を撫でながらじっと俺を見つめる。
めちゃくちゃ恥ずかしいが俺の足は止まらない。靴も履かずにドアを開く。
ドアを開けた瞬間ドッと人が沢山入ってくる。
初めて他の民衆を見た。やはり事態は悪化した。
明らかに天斗さん一人に手を負える事態じゃない。
俺はクズだ。
自分は人間として最底辺なんだろう。
姉妹は喋れるまでに回復してはいたがあの状態で大丈夫なのか?
そんな事態を横目に俺は逃げるように出ていく。
そして外へ出た先にはまた地獄が待っていた。
真ん中が切断されたようになっていて、切断の後に赤いキラキラしたものが露出している山にある者がいた。
これは俺の世界……映画やアニメぐらいしか見ないであろういや、見なかったはずであろう者がいた。それは…
「ギャオオオオオオオオオオン!」
怪獣だ。
そうとしか言い表せない。
そりゃ逃げるわけだ。
だが怪獣は明らかに民達を狙って進んでいる。
怪獣は人里の中に入り暴れ回る。
遠くからでも怪獣は視認でき、家を破壊しているのがわかる。
「おとーさん!おとーさん!」
母親と逃げている子供がそう叫ぶ。
そうか襲撃とはあれのことだったのか。
でも……しかし……何故だろう……いやどうしてだ?
そんな避難してる人達をかきわけ俺の足は怪獣の所に向かっている。
きっと本心は逃げたいでいっぱいなはずだし今でもそうだし、なんなら泣きたい。
でもダメだ!
なんでだなんで、足が足が勝手に動いている!
何故だ!おかしいだろ!あの怪獣の所に向かっている!気持ち悪い!
身体が明らかに自分の言うことを聞いていない。
「やめろ!動くな!俺の足!誰か!そのえっと誰か!」
叫んでも無理か。どうしろと言うのだ俺に……
俺には力どころか脳がない現に今も"助けて"という言葉すら出ないような知能だよ。
もう二十歳なのに。
バイトを10回クビになったのも、仕事を覚えられないし、急でもないのに違う仕事が入るとわけわからなくなるし、何より行動が遅いからだ。
そうだよキナさん、今更期待しても良い結果なんて来ない。
君のお姉さんが言うように情けなくて、意味がわからなくて、頭が悪くて、SFSIDなんていう発達障害の烙印も押されてる。
だからさ
「もうやめろよ……もうやめろよ!俺の足!意味ないんだよ!結局海に行っても死ねなかった人間が怪獣の傍に行こうとしても、怯えて逃げるだけだろ!お前の人生なんて今も過去も未来も一生そうなんだよ!死んだほうがマシなのに、痛いから死んでないだけの人生なんだよお前は!」
避難しきったのかそれとも残りは潰されたのか人がいない所で叫べた。
俺と怪獣の距離は縮まり、足元が見えるくらいの距離まで来ていた。
あぁまたやっと終われるのか……と思ったその時である。
(今だ右のポケットにある)
!?
なんだこの声!?
いや知ってるかもしれない。海にいた女の声だ。
俺を殺したはずの声だ!
ポケット?そこに何が……
右のポケットに手を突っ込むとそこには奇怪な道具があった。
Y字型の金属板であり、3つともそれぞれの端には緑の宝石のようなものが付いている。
金属板といっても持ちやすいようにナイフの柄ような感じだ。
初めて見た代物だ。
だが俺はこの道具を見た瞬間使い方を知っているかのように腕が動いた。
タッチパネルをスワイプするように端にある緑の宝石を一つ真ん中に移動させた。
他の宝石も連動し真ん中に移動し、重なった瞬間、回転を始める。
小さくピーッという機械音に似た音が流れる。
そしてその道具を天へかざす。
その瞬間自分の目の前が真っ白に覆われた。
何が何か起ころうとしている。
次の瞬間、自分の目を疑った。なんと身体が大きくなっていた。
それも身長が1cm伸びたというかそういうレベルではない。
目線はこの世界にある家を全て見渡せるくらい高くなり、身体はさっきの道を覆い尽くせるくらい大きくなった。少しでも横にズレていたら家が壊れるに違いない。
身体は全身黒いが所々に緑のラインのようなものが引いてある。
適当だが全長40m、巨人だ。巨人になったのだ!
「ギャオオオオオオオオオオン!」
「うあおとおおおおおおおお!」
怪獣が俺を視認し鳴き声で威嚇する。
とにかくこの獣を町の進行から守らなければならない。
俺も雄叫びを上げ怪獣目掛けて走り突撃する。
ドンッ!と怪獣と黒い巨人が激突!俺は怪獣を相撲の張り手の如く、手のひらで押し込む!
とりあえず怪獣をを山のほうに押し込まないといけないと思ったからだ。
しかし所詮は張り手といっても、見よう見真似。全然押し込めていない。
というか怪獣のほうが力強い。自分の背中が綺麗な反りを描いている。
「ならば!」
と押すのをやめてジャンプして怪獣から少し下がる。
身体がかなり軽いような気がするがそんなことを気にしてる場合じゃない。
これも見よう見真似だがタックル!
「でいや!」
再度突撃し、怪獣の下半身部分を掴み転ばす。
これは成功した!今だ!すかさず怪獣の上に乗りマウントパンチ!
バン!バン!バン!バン!と何度も殴る!
怪獣も
「ウギュ!うぎゃあ!」
とパンチをするごとに悲鳴を上げる。
これは効いてるな?良かった。
と思った一瞬の隙を突き、怪獣は身体を力強く回転!俺のバランスを崩した。
「くっ!」
俺の股からスポッと抜ける。なんとか怪獣はヤモリみたいな四足歩行をして一旦俺と距離を起き何かしらの機会を伺っている!
「ギャオオオオオオオオオオン!」
俺を挑発しているのか?どうすればいいんだこの時?
ここでまた無駄に突撃したら今度は駄目な気がするでも相手もずっと待っていたらなあ…どっちがいいんだろうなあ…
俺は戦闘においてあるまじき長考をしてしまった。
だが!もう既に怪獣は大きな口を開き、大ジャンプ!俺の頭を上から丸飲みにしようとする!
長考による余所見をしていた俺はタイミングを逃し、体勢を完全に崩してしまったが、なんとか唇を掴み、俺は食われないように唇を前へ力押し、抵抗する。
「うわあああああああああ!」
「ギャオオオオオオオオン!」
俺の顔に近づき更に叫ぶ!完全にさっきと立場が逆だ!
ヤバイヤバイヤバイどうしようどうしよう!
なんとか丸飲みにされずに済んだが…もう一か八かだ!
俺は力の向きを変える。口を開いて突撃してくるなら裂いてみせる。怪獣の唇を上向きに力を入れてドンドン開かせる!そして!
ミシ!ビキ!バキバキバキバキバキ!
怪獣が真っ二つ!頭から尻まで完全に裂けた!やったぞ!やったぞ!怪獣をやってやった!そう喜んだ次の瞬間。
シュワシュワシュワシュポン!と怪獣が消えた。
一体なんだったんだ…?いやそれよりもこの巨体どう戻るべきか。
と、とりあえず立とう。バランス崩してからなんともいえない体勢をしているからな。
立って周りを見わたす。あ、南に海がある。
だが町はそこ以外、山で塞がれており、町並が酷く破壊され、
俺から見たら後ろにある洋館周りと北の山の近くにある家たちを除いて瓦礫だらけになっていた。
自分がやってきた世界は思ったより危機に陥ってると確信する。
そして赤いキラキラがある真っ二つに割れた山、ここには一体何が…?
いや待て!俺はなんで海が"南"の方向にあるとわかったんだ…?なんでこの世界の知識がわかるんだ…?なんで?何故?
そう考えた瞬間とてつもなく意識が遠のいていく。
待て!待ってくれ!俺は!俺の身体は!
意識が消えるその直前、俺を殺した女の声が聴こえた。
「ダイダラデウス!初めての仕事おめでとう!」
え…?
その声を聴いた後、全身の力が抜け、完全に意識が消えた。
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