第2話 「行かなきゃ良かった」

 異世界に転移してしまった東究丸間

彼は今、完全に路頭に迷ってしまった。

 我々がよく見る異世界は中世のヨーロッパような綺麗な城やおいしいパン、カッコいい魔法に溢れている町であろう。

 だがしかしここは真っ昼間の空に7色の星が光るというとても幻想的な空はあるが、家の屋根は瓦、扉はガラガラ開ける引き戸 道は土と石畳と草が入り交じった物であり、古くさい田んぼや畑がありそうな雰囲気を醸し出している。目立つ洋館が一つあれどそこも所々ヒビが入っており、なんとも寂れている。

 丸間は自分の世界ではないことに気付いていたが、どうすればいいのかまではわからずとりあえず一際異彩を放つ不思議な山、"真っ二つに割れたような形がする山"を目指し歩いていた。


   ◇


一方その頃洋館では!


「キナ様?」


 二階にてキナは窓を眺めている。

 窓に映る怖がる顔のことが気になった天斗は話を聞こうと近づいた。


「危ない……危ないよ!あの人が赤い山のほうに」

「あれは丸間様!?」


 何故山のほうに行くのに驚いているのか、一体この世界にはどんな恐怖が待ち構えていると言うのか!


「今すぐ!行かないと!」

「はい!勿論です!」


 彼女らは急いで外に出る支度をし、山のほうまで急行する。


   ◇


 俺はしばらく歩いているとある違和感に気付く周りにある家や田んぼが段々と荒れたり壊れたりしているのだ。


「なんだこれ……」


 思わず呟く。

 人も洋館や俺と喋った子供ぐらいしか人を見かけないから不気味だと思っていたがここまで来ると異世界というより因習村とか、滅びた村の幻とかそっち方面なんじゃないかと思ってしまう。

 進んでいくと酷い有り様だった。

 完全に家が倒壊しており、木は折れ、石は崩れ瓦は完全に割れている。

 中には死体がその中に見えていた。

 道も洋館近くは整理されてたが、ここは酷く、小さな地割れや倒れた木の柱、石がチマチマあり、非常に歩きにくい。

 こういうのもSFSIDは苦手だ空間の把握が他と比べて弱いのだろうか木や石を避けながら進んだが二回も転びそうになった。

 クソ……常人なら絶対ここら辺はスイスイといけるだろうに……まあそもそもこんな所通らないか、というかまだ赤い山に着かないそろそろ○○山まで3キロみたいのに入ってもいいと思うんだけどな。

 その時聴いたことのあるような声がした。


「待って!」


 さっきの女の子だどうしたのだろう?

えっ待ってあれ馬車?すげぇ、なんて古いんだ。車もないとはいえ馬車でこっちに向かってくるなんて、リアルで見るとすごいなぁ……

あまりの迫力に呆気を取られるよ。

 さっきの洋館にいたイケメンで高身長のお兄さんが小さな女の子と手を繋ぎ馬車を一緒に降りる。だが彼女は降りた瞬間手を離し、俺のほうに向かってきた。


「え、あ、どうしましたか?」


 彼女は俺の腕を止めるように掴んでいた。

 あまりこのくらいの女の子の手を触ったことはないし、なんなら女性との関わりなんてバイトやコンビニの事務的なやり取りくらいしか知らなかったので少し驚く。

「あそこに行っちゃ駄目!」

 女の子が必死に叫ぶ。

 確かにそこまでマジなトーンで言われると流石にこのまま進むのは躊躇する。


「いや、ちょっととりあえず落ち着こう……ね?」


 すぐにお兄さんが駆け寄ってきた。


「丸間様、一体何故ここに来ようと?」

「いや、その、あそこに行けば帰れるかなって」

「はい?」

 どうやら聴こえなかったようだ。

 確かに自分の声が途中でモゴモゴしていた。

 彼女の表情を見て、自信を失くしてしまったからだ。

「あそこの赤い所行けば帰れるかなって」

「どういう理屈かわからない!!」

 彼女が腕を強引に引きながらそう言った。

 ……確かに自分でも何言ってるのかよくわかんないな。


「いやそのさ、あそこだけ道みたく山と山の間空いてるじゃん?あそこに通ってここを抜け出したらさもしかしたら俺の住む所に帰れるかもって」


「丸間様つまりあなたはここから出ていきたいと?」

「まあ、そうだけど」


 お兄さんは呆れたように溜め息をつく。


「丸間様あそこは今危険なのはわかるでしょう?」


 確かに死体や倒壊した家が沢山あった。なんかあったんだろうな心配かけたかな。

 この先に何があるのかはわからない。

 でもそろそろ人と話すのも疲れちゃったし、この異世界?因習村?田舎?みたいな所にもいたくない。

 話をどうにか切り上げよう。


「すいません心配かけちゃってわざわざ遠くから……でも大丈夫です。」

「まだ歩いて3kmくらいだよ!そんな速度で今日家に帰れるわけないじゃん!」


 彼女の言うことはごもっともである。


「いやそれは……そういうことじゃなくて」


 その時である。

 彼女が突然頭を抱え、うずくまる


「いやぁ!!駄目!!」


 彼女が強張った顔と瞳孔が異常なまでに開いている。

 かなり怖がってるように見える。


「えっあっそのっどうしたの!?」

「キナ様!」


 一体何が起きたんだ。


「えっとその子は……」

「キナ様です。」

「えっとキナさんは大丈夫なの?本当に…」

「説明する前にネメ様の所へ行かなくては」

「あ、はい」


 そうするとお兄さんはキナさんを持ち上げ、馬車に載せた。

 中には公園の椅子みたく長い椅子があり、そこに座らせ毛布で彼女を包む。

 俺はただそれをボーッと見ていた。

 何かしらしなきゃと思っていたが、何も思いつかないからだ。


「あなたも馬車に乗るんです!ここは危険でしょう!」

「ああ、はい!」


 そういえばそうだったここは危険だ。

 俺も馬車の中に入り、座る。

 馬を操る所といえばいいのだろうか、お兄さんはそこに乗り込み、掛け声と共に馬車が動き洋館の方向へ向かっていく。

 えっと……彼女の名前はなんだっけ?……お兄さんの名前も多分洋館にいた時に聴いたんだけど覚えてない。

 まるで、マラソンをした後のように、彼女はかなり息が上がっている。

 強張った顔も相変わらず続いており、こっちまで見ていて辛くなる。

 彼女にここまでさせるのは一体なんなのであろうか?病気なのか?トラウマ?

 考えても仕方のないことだが、どうしても考えてしまう。

 そういえば何故人力車ではなく馬車なのだろう?

 確かに馬のほうが移動手段としては早そうだし、壊れた家や石ころさえなければ平坦な道だから楽そうではあるけど世界観には合ってないような……ていうかなんでこの人たちだけ洋風なんだろう。

 まあそもそも車がないから考えるだけ無駄か。

 しばらくすると小さい子供と喋ってた場所に馬車を止めた。


「丸間様!キナ様を運んでくれますか?」

「あ、はい」


 あぁそうだキナって名前だった。

 だけど人ってどうやって運ぶんだ……?

 キナさんに近づくと目を閉じていた。

 気絶なのかな?それとも寝てるのか?気絶してたら無理に起こしてもダメだと思うからやはり自分で持ち上げるしかないか。

 とりあえず両手で持ち上げれば!重い!というか5年くらい人なんて触ったこともないし持ち上げるなんてもっての他だ。

 どうすればいいんだこれ……!


「丸間様?」


 あんまりにも自分の行動は遅かった。

 キナさんを心配し、お兄さんがやってきた。


「あ、あの…本当に申し訳ないんですけど……」


 結局お兄さんが持ち上げてくれた。

 自分がすごい情けないよ。

 子供すら満足にどう持てばいいかわからない。

 自分の社会経験の少なさがここで改めて現れたように感じた。

 それに比べたらあのお兄さんはすごい。

 お姫様抱っこで彼女を介抱してる。

 イケメンだから様になるし、なによりエチケットを守っている。

 お兄さんは彼女を抱え、近くにある少し大きい家に行き、扉をガラガラと開いた。

 結局俺も付いてきてしまったがここにいて本当にいいのかな?


「ネメ様!テトラ様!突然のお願いで申し訳ございません キナ様を診察していただけませんでしょうか?」


 そうすると家の遠くからハイハイと声が聴こえてくる。……ついさっきの子供の声だ。


「ネメ様!」

「天斗さん、何度も何度も治療か……私は科学者なんだがね」


 愚痴をこぼすネメと呼ばれる少年恐らく治療や診察は初めてではないという口振りだ。


「まあいいやとりあえずキナちゃんをあそこのベッドに寝かせて」


 ネメという子供の命令通り天斗さんはキナさんをベッドに降ろす。そしてネメさんは彼女の目を指で開いてよく観察する。


「息はあるどうやら疲れたようだ。3日前の発作と同じか、どこに行ったんだ?」

「こちらの地点から西側におおよそ3kmほどの場所になります」

「あそこら辺に今近づくバカはいないはずだ」

「はい、丸間さんがその場にいらっしゃったため、急いで追いかけさせていただきましたそしたらキナ様が…」

「丸間ってお前の後ろにいる男のことか?」

「はい」

「おい、お前!」


 俺に呼びかけてきた。

 多分説教されるのだろう俺は知らなかっただけなのにいや言い訳しちゃダメだ悪いのは俺だ。


「あ、はい」

「お前な?この子の鎖骨らへんを見てみろ」


 そうして近づくと驚いたなんと鎖骨と鎖骨の間には目があったのだ。


「この目は覚族人の第三の目だこれは人によって様々な能力があるんだ。わかるか?」

「あ、はい」

「この子は未来視、つまりは未来が見える。あそこのぶっ壊れてる町は近い内にまた襲われる。それは彼女の予言だ。だからみんな近づかない。知ってることだろ?なんで近づいたんだよ!ただでさえ手が回らないのに!」

「いやその……」

「あ?」

「あ、その……いいえなんでもないです」


 キナという少女が未来を見れることを初めて知ったし襲われるってなんだ?

 だが、彼の露骨に不機嫌な顔を見てると何も言えなくなる。

 子供相手にビビるのはあまり良くないと思うけど性格なんだ仕方ない。

 

「丸間様は知らなかったのです。ここに初めて来たようでした」


 代わりに天斗さんが補足をしてくれた。

 ネメさんはふぅんと無視なのか少し納得したのかわからない表情だった。

 俺はただ申し訳ない表情だけしていた。


「うう…」


 その時キナさんが目覚めた。

 一番先に口を開いたのはやはり天斗さんだ。


「大丈夫ですか!?」

「ごめん……なさい……寝ちゃったみたいで……丸間君は……?」

「こちらに」

「え、俺?」


 最初に俺の名前が呼ばれた。

 驚くというより疑問が湧いた。

 彼女は俺について何か知ってるのだろうか?

 彼女の口から聴く言葉を聴く。


「良かった……私が寝てる間に死んでたらどうしようって」

「ああ、まぁ、その、あそこに行っちゃってごめんなさい。本当に知らなくて早く君の言うことを聴いてすぐ戻っていればこうはならなかったって思うと」

「いやいや、全然全然、丸間君は悪くないよ。私の、私のミスだから」


 くどいだろうが自分は情けない。

 小学生くらいの子供に私のミスと責任を取らせるのは失態だ。

 穴があったら入りたい。


「はい!治った!終わり!いいだろ?水飲んであそこに行かないと約束したら出てけ な?」


 ネメさんが邪魔するなとばかりに声を上げる。

 そんな言い方はないだろうと思ったが言わない。

 面倒臭いというのもあるが、頭が悪いからこういう小賢しい子供に口論だと負ける。


「はい、承知しました。いきましょうキナ様」

「うん」


 二人は全く意に介してなさそうで偉いな。

 科学者の家から出ていき馬車に乗り、動き出す。

 その時お礼を言ってないことを思い出したので、天斗さんに話しかける。


「あの……あ、あま……」

「天斗です」

「あ、すいません天斗さん。そのさっき自分の代わりにあの子供と話してくれたこと、ありがとうございます」

「いえいえ、人として当然ですよ丸間様」


 にっこりと天斗さんが答える。


「こっちは全然喋れなくて本当に失礼というか」

「丸間様、ネメ様は彼も言っていたように元は科学者です。あの襲撃の際、ここに住んでいた医者たちが潰されてから3日間、代わりに被害者の方の救助や治療、義足の作成等をしているのです。彼が苛立っている気持ち少しはわかってください」

「……わかりました」

 

 話していると洋館の馬車の置き場に着いた。

 結局また洋館に戻ってしまった。

 更に状況も悪くしてしまった。本当に申し訳ないと思う。

 行かなきゃ良かったなあ。 

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