ダイダラデウス

スピルZ

異世界怪獣カドックリ 登場

第1話 「ユニークな転移と主人公を期待する読者の失望」

 SFSIDとは発達障がいの一種です。この症候群は、社会性の障害や他者とのコミュニケーション能力に障害・困難が生じたり、無駄な長考などがあります。

 SFSIDは人生早期から認められる脳の働き方の違いによって起こるもので、親の子育てが原因となるわけではありません。


    ◇


 まただ。しまったまたやってしまった。

 もう10回目だ10回目のバイトクビだ。

 コンビニから始まって今度は工場でもダメだったもう無理だ働けるわけない。

なんでいつもこうなるんだ。

 ……いやこうなるかあのクソ野郎共たちは努力が足りないとか、やる気がないとか言うけど違う絶対に違う。

 病気だからだ。

 SFSIDとかいう忌まわしい病気だからだ。

 知能が低いのも俺がトロいのもこんな遺伝子とかDNAとかよくわからない理由で脳が正常じゃないからだ。

 死ね!死ね!死ねよ!あいつら全員死ね!

 ……いや流石に死ねというのは良くないな。

 そもそも俺が出来損ないなのが悪いんだから……悪いと思う……

 そうだ海に行こう!

 冬の時期は小学生の時から嫌なことがあったらずっとそこに逃げてた。

 風が気持ちの良くて、広くて、知り合いも少ないから。

 17時、周りはすっかり夕焼け色で、浜辺での人は遠くに2、3人いる程度、海は1人でサーフィンを楽しんでる人が1人多分みんな健常者だと思う。

 こうして見ると革ジャンの中にパーカーそして下はデニムと自分は海にいる服装ではないと気付く……まあいいどうせ俺のことなんて誰も見てくれない。

 外見も内面も誰も見てくれない。

 そりゃそうだ自分でも驚くくらい頭が悪くて性格も悪いその割に大柄でデブ、そしてSFSID

いい所なんてない。

 このバイトクビになったら親に追い出される……もう生きる価値もない。

 なんでこうなったんだろう。

 何が悪かったんたろう。

 立てる気力すら無くなって来る……一旦横になろう……

 叫びたくなる。

 今、ここで自分が泣いて叫べば誰か助けに来てくれるとかそういうことは絶対にないのに、誰か来そうな気がして来ちゃう。

 そのくらいダメなんだもう無理なんだ。

 生きている理由が思い付かない。


「俺が……その悪いんですか……過去から悪かったんですか……アレは……知ってたけど……その……あの時は……いや……」


 ダメだ。

 もっといい感じに言葉を出力できるはずなのに!全然ダメ!アホが語彙力がないんだよバーカ!そんなダサい叫びならするなよ!


「でも……俺は……!俺は……!俺は……!」


 ……こんな汚い海で泣きじゃくり倒れている俺は何をどう生きたかったんだろう?


「おや?君ちょっといいかい?」


 泣いてなんとも恥ずかしく、誰かに見られたら死にたい姿をしている自分の前に、見知らぬ女に声をかけられた。

 正にサラリーマン……いや社長が着ているようなビジネススーツに金髪の長髪、髪型は詳しくないけど下の髪が複雑にくねくねしててすごい高級そうに感じる。

 いやくねくねって表現だと高級感ないけどくねくねだよねこれ。そしてとんでもない程美人だ。


「いや……その……」


 うまく喋れよ俺!


「フフ……貴方……全てを変えたくない?イイコト知ってるの私に付いて来てくれる?」


 髪が風に靡き片方の手を腰に当て、もう片方は俺に手を差し伸べている。

 間違いないこの女、詐欺だ。

 そうじゃなくても何かしら俺に犯罪をさせる気だ!間違いない!

 ……でも一興かもしれない。

 もう俺にやることなんてない。何も無くなった……だったらこの女の人を襲ってせめて気持ち良くなって自分を終わらせたい……だから!


「はい、や……やらせてください」


 二重の意味だ。


「ありがとう……では!」


 突然自分の身体が浮かび上がる。


「ふえっ?」


 そして後ろからだろうか?心臓らへんにとんでもないデカイ釘に刺されたか?いや刺されたな激痛が走った。

 あぁマジか……マジシャンで殺人鬼か……こんな所で……苦しく死ぬのか……あぁでもやっと終われる。

 苦痛だった、恥ずかしかった、でも……終われる。

…………………………………


    ◇


「やっと見つけた!最後のパーツ!」


    ◇


目が覚めた。

 天国かなと思ったけど天井が木造だ。

 病院?いや海の家かな?ベッドで寝てるということは浜辺から運ばれたんだと思う。

 とりあえず輪廻転生とかではないらしい。

 電気が点いているし、何より服装は変わらない。

 また……生きてしまった。

 恥の多い生涯とはよく言うが、今日昨日と人に迷惑をかけすぎだ。

 お金持ってないけどどうしよう。

 親が来るのは嫌だな文句しか言わないし……隣に女の子がいるし……


「あ!やっと目覚めた!」

「うわぁ!」


 突然でもない発言なのに、俺はすごく驚いてしまった。


「あ!ごめんごめん!驚かせるつもりは無かったんだ大丈夫だよ!ここは安全だから」


 確かに小学生ぐらい小柄で白とピンクが混ざった髪の女の子は安全だと思う。


「あ、男の人いるから呼んでくるね!」


 警戒されたと考えるのは早計か。

 そういって女の子は水だけ近くの机に置き、俺に一礼してバタンと出ていった。

 行儀がすごい良い子だ。

 誰もいないと再度確認し、胸にいつもしまっている薬を確かめる。

 SFSIDに症状を和らげる薬はないが、同じ発達障害であるADHDの薬であるストラテラを使えば、改善の見込みがあるかもしれないと3年前から医者に渡されて現在服用している。

 その後に3回バイトをクビになったのであまり意味のない行為だと思ってしまうが……

 まあとりあえず飲んでおくに越したことはない。飲んでないと心臓がバクバクするし……心臓がある……

 心臓がある!?マジかよあの時刺されたでしょ!?いやまあ生きてるってことはそういうことなんだけどちょっと胸を見よう……傷一つない……というか痩せてない?肉が削がれている?

 何があったんだ?

 そう驚いているとコンコンという音がした。

 ヤバい半裸は流石にダメだろ。

 とりあえずシャツとパーカーだけ着て……

 キィーと開いた扉には男だけがいた。イケメンでこれは…タキシードか?やはり女の子はいない警戒されてたのかも。


「すいませんキナ様がご迷惑をおかけして私は天斗アマトと言います。」


 あぁ……キナってあの子か。


「いえいえ大丈夫です もう全然さっき起きたばっかりなので」

「珍しいんですよキナ様が人を運んできたのはこんな状況だから何か知ってるのかもしれません」

 

 えっあの子が運んでいたのか……重かっただろうに後でお礼言わなきゃな。


「ここは病院ですかね?」

「いえ、町の屋敷です」


 屋敷なんだ。病院じゃないからお金を払わなくて大丈夫なのかな……どうだろう。


「あ、そうなんですか……」


 俺は話が続かない頭が悪いからだ。


「天!ごめんごめん!お姉ちゃんと話してて」


 言葉に詰まって何かを言う前にキナって子が戻ってきた。


「私、心来キナって言うのよろしくね!」

「丸間、東究丸間とうきゅうまるまです。運んでくれたんだねありがとうございます」

「どういたしまして!!!」


 声がデカイのは苦手だ。

 でも子供が元気ならそれがいいかもしれない。

 それはともかくそろそろ出ていかないと、いや出ていきたい。


「すいません長居しちゃってそろそろ帰らないと」

「なんで?」

「えっ」


 彼女の発言と疑問の顔に呆気を取られる。

 だが理由はないわけではない。

 ずっと居るのは相手にも迷惑だし、何より他人と話すのはすごく疲れるからだ。


「こらキナ様!すいません」

「いえ……大丈夫です……」

「キナ様、そもそも勝手に人を連れ込むのは行けませんし彼にも帰る場所があります」


 そういえば帰りたいと自分で言ったな、別にそういうわけじゃないけど。

 時に自分の考えてることと発言がズレてることがある。

 これはSFSIDでも結構有名な症状らしく"喚語欠如かんごけつじょ"と言われてるらしい。

 この状況ならまだマシなほうで

 時には聴いてた内容が微妙にニュアンスが違う。

 大事な報告すら間違えることが多いのでSFSIDは大事な報連相が出来ない。

 いや出来ても完璧に説明するのが困難なのだ。


「丸間様?」

「あ、ごめんなさい」

「丸間様、扉まで案内します」

「あ、ありがとうございます」


 こうやってバカみたいに深く考えて、周りが見えなくなるのも病気の一種だ。

 脳が一個しかないのになんでみんなは平行して色んなことをやれるんだろう。

 部屋を出て広い廊下を渡るとそこそこ大きい扉が見えてきた。後ろには左右に分かれる両階段があり、ああここは洋館だったんだなとやっと気付く。

 まあ扉には玄関框があるから正式には和洋折衷館と言ったほうが正しいのかな。

 なんとも奇妙だ。

 だがこんな金持ちに看護してもらうという機会は中々ないだろう。

 そこそこ得をした気分だ。


「ありがとうございます。駅はどこら辺にありますかね?」

「エキ?」


 彼女はまたもや疑問の顔を浮かべた。


「えっと…」


 いや彼女だけじゃない執事のような男も疑問の顔になった。


「その……いや……なんでもないです」


 多分噛んだり声が小さかったりしたのだろうこの気まずい雰囲気は何度見ても苦手で堪らない。

 さっさと逃げよう、そうやって扉から出ていくガチャン!という音と小さくも冷たい風が外があることを感じさせてくれる。

 生きることからは解放されなかったが、なんとか自分の嫌な場所から開放された。はずだった。

 ここは……?どこだ……?洋館のデカイ扉の先には豪華な花園がある物だ。しかしそれらは全て枯れており、それらを守る城壁は崩れてある。

 一体これは……後ろを少し見てみるが特に

キナという少女や執事のような男は、特に何も変わってない幽霊を見たわけではないようだ。

 まあ手入れしてないのだろう。

 寒いしな……面倒臭いのでしょう俺には関係ない。

 そう思い扉を閉め、逃げるように花園を越える。

 そしてその先には道路があるはずだと、少し歩いたが無かった。

 というかここはどこだ。

 俺の知ってる町は少なくとも現代の家であろう二階建ての家やマンションはある。

 しかしここはどうだ。

 まるで歴史の教科書に載ってるような家が沢山ある。

博物館に来たのか?それにしては外は寒い。

 だがさっきも見たように電球はあった。

 田舎に来たのか?というか洋館だけ異様に浮いてない?

 いやでも田舎でも車くらいはあるはずだ。

 少し探すか。

 そう思って少し周りを見ながら歩いたが、車なんてものは何一つ無かった。

 そんなに発展してないのか?

 人がいる。

 着物を来た子供だ。

 話かけて見るか?怖いけど。


「あ、あ、あのすいません……」

 

 年に1回使うかどうかの勇気を今使っている。


「あぁん?誰だお前?」

「あ、ごめん…あのここはどこなのかな~って」


 なんだその言い方は俺はアホなのか?


「ここは江ノ世えのよだ」

「あ、えっ?そうなんですか?」

「そうだよなんだお前頭狂ってるのか?」


 確かにそこら辺の病気持ちだ。


 「あ、ごめ、ごめんなさいありがとうございます」


 情けない……俺は情けなさすぎる……

 周りには山が沢山聳え立っており、空は曇り空、まだ13時くらいであろうか、日は昇ってる……

 だが空には虹と同じなのか7色に輝く星のような物が浮かんでいる。

 なにこれ?異世界か?それともここ特有の気象の現象?

 正直やることがないというか家に帰りたい。

 脳が情報を拒んでいる。

 財布も持ってないし、薬は何かあった時に常備してるけど2日分しかなく、他人と話してかなり疲れてる。

 喉が乾いた……もう眠い。

 でも流石にここで寝るわけには……とりあえず帰ることが先決だ。

 ここは何があるのかわからないけどとりあえず山があるのは景色を見てわかる。

 あの真っ二つに割れてるように見える端っこ同士が赤いキラキラしてる山はなんだ…?

 周りは山に囲まれてると思ったが……あそこは不気味なまでに山と山の間が空いている。道なのかな?行ってみよう!

 そこを越えれば何かしらあるはずだ!

 間違いない!

 後は水だ先に水が先だな。

 水も確保しよう。

 薬の為にも命の為にも必要だ。早速山側に向かおう。


    ◇


 こうして彼はどんな世界なのかあまり理解せず、西の山へ進むことにした。

 その先に待っていること、そしてこの世界で出会った者たちが彼の人生を大きく変えることになるとは今はまだ誰も知らない。

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