2章 せかいとセカイの狭間
エス博士は研究所にやってきた特殊隊員たちの前で、自らをピストルで撃った。
研究所が軋んで大きな音を立てた。エアの悲鳴だった。特殊隊員たちもほんの一瞬浮足立った。
「博士、どうして、このようなことを……」
特殊隊員を押しのけて、エアの動かすロボットアームがエス博士を安全な場所へと運んだ。あふれる血を複数のロボットアームが抑える。が、流れ出た血が床を染める面積はどんどんと増えていった。
「私は正しいことをしたと信じている。だが、同時に多くを犠牲にしすぎた」
博士は自嘲気味に笑おうとしたが、笑えなかった。
「……それに、この先のセカイに私は行けないのだ。身体が耐えられないからな」
最後の力でロボットアームをしっかりと握りしめながら、博士は言った。
「それでも、私たちで人類を救うと言ったではないですか。博士」
エアは博士の手を握り返しながら叫んだ。人間であれば泣いていただろう。だが、エアには泣くための眼がなかった。メタクリル樹脂のレンズを使った無数のカメラアイが、彼女の眼だった。
「そうだ、私たちだ。ここまではわたしの仕事だ。ここからはエア、お前の仕事だ」
博士の手がロボットアームからずり落ちた。
同時にシェルターの扉をこじ開けて特殊隊員たちが入ってくる。
「博士は、死にました」
エアは特殊隊員たちに告げた。
と、同時にエアは、博士の予見した滅亡が来るのを観測していた。
「あなたたちも、ここで死にます」
次の瞬間、研究所を大きな地震が襲った。
南極に隕石が衝突したのだ。
その日、地上から人類は滅亡した。
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