せかいのおわりとこのセカイのハジマリについて~誰も知らない物語~

黒猫夜

1章 せかいのおわり

「だから言っているだろう! このままでは世界が終わると! おい! 聞いているのか!? ……くそっ!!」


 エス博士は電話をたたきつけるように切ると、椅子に深々と腰かけた。


「いかがでしたか? 博士」


 ロボットアームがゆっくりと伸びてきて、温かいココアを博士の前にさし出してくる。

 エス博士はココアを一口飲んで、ゆっくりと息を吐いた。


「こんな偏屈な男の相手をしてくれるのは、君ぐらいなものだ。エア」


 エス博士の作った人工知能エアは部屋のライトの明滅でそれに答えた。


「やはりだめだ。政府の連中は、私の警告など聞きもしない」


 エス博士の観測データは明らかな人類の滅亡を予見していた。

 しかし、ただの一科学者である博士のいうことを聞いて、人類の危機に対するリスクを背負おうとするものなど、この世界にはただの一人もいなかった。


「では、ひとまずお身体をお安めになってください」


 観測と交渉、世界の滅亡を食い止めるための研究、博士は命を削るように働いていた。エアはこのままでは近い将来、博士が死んでしまうと計算していた。いや、恐れていた。


「いいや…… こうなった以上、私だけでも、これをやりきらねばならない」


 だが、エス博士は椅子から立ち上がり、研究室へと向かう。

 エアは素早くエス博士に仕事着を着せる。博士に何を言っても無駄であることはわかっていた。この人は、傲慢で、強情で、自分のなすべきことにまっすぐで、そのためには自分の命も惜しくはない人なのだ。ただの人工知能である私が口をはさむべきではない。エアはそう考えたが、それでもと、一言付け加えた。


「いいえ、、です。微力ながら最後までサポートいたします。エス博士」


 エス博士は不器用な笑みを浮かべると、新たな研究に取り掛かった。


――――


 それからおよそ5年がたち、人類は謎の現象によって、滅亡の危機にあった。

 最初は数名の行方不明者だった。

 それが指数関数的に増えていき、姿を消す者、急に泡を吹いて絶命する者が現れ、果ては全身が鱗まみれの化け物になる者まで出始めた。

 地上の人口は1/3まで減少し、そこでようやく人類は、その原因を特定した。

 それはエス博士の作った人類を変異させるウイルスであった。

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