第19話 俺が思ってたのと違うな
結局、俺と上野が動けるようになるまでには少し時間がかかった。なんとか廃墟から出てきた頃にはスマホが午前一時を示していて、ここから家に帰って風呂に入って寝なきゃいけないのかと思うと別の疲労が襲いかかってくる。
一方、上野は自分の命を狙う怪異がいなくなったこともあってか、疲労困憊ながらも顔色がよく、スッキリした表情を浮かべていた。
「神田先輩! この度は本当に本当にほんっとーにっ! ありがとうございました! 僕、多分先輩が声かけてくれなかったら冗談抜きで死んじゃってたと思います! まったく見ず知らずの僕に声をかけてくれて、助けてくれて、本当にありがとうございました!」
上野が深く深く頭を下げる。ここまでされるとなんだか照れ臭い気分だ。確かに人の命がかかっているのだと自分を奮い立たせてはいたが、正直、上野につきまとう怪異どもに腹が立ったという理由が大きいのだ。
「お前、もうこっくりさんを頼りにするのはやめとけよ」
照れ隠しも入って、少しぶっきらぼうな声になってしまった。それでも上野は気分を害した様子はなく、ニコニコと笑っている。
「はい! 今まで僕はなんでも相談しすぎてました。そしてなんでも言うことを聞きすぎてました。僕とこっくりさんは対等だって今日決めました! 舐められたら終わり、なんですもんね!」
「…………」
なんか違うな。
俺が思ってたのと違うな。
「……なんかあんま、伝わってねえな」
どうしようかな。化け物の末路とかやっぱり気を遣わないで今教えちまったほうがいいかな。
俺が途方に暮れている事なんて知らずに、上野が満面の笑みで手を差し出してきた。
人差し指の先端が、火傷で爛れている。もしかしたらこっくりさんの時にまた一〇円玉が熱を発したのだろうか。やっぱり関わり合いにならねぇほうがいいな、あのクソ腕虫。
「神田先輩! これからもよろしくお願いしますね!」
はぁー……。
「……ああ」
長いため息の後、俺は後輩の手を握り返した。
こっくりさんに関しては、後で説得しようと思う。細かく説明すればまあ、さすがに目が覚めるだろう。
――――――――――
・次回予告・
深夜に化け物を退けて以降すっかり神田に懐いてしまった後輩・上野は今日も元気に神田の教室にやってくる。
「気になってたことがあるんですけど、先輩の見た幽霊で印象に残ってるのはなんですか?」
初めて後輩に懐かれた神田は無下にも出来ずに、上野に昔遭った幽霊の話をする。
生垣を指差す黒い影。何も言わない動かない影の目的は解らない。
「それから何日も、幽霊は同じ場所に立っていた。立って、植え込みを指さし続けていた」
「僕だったら、多分見かけてすぐに覗き込みます」
「だろうな」
俺がそこを見て何かを見つけてやれば、この悲しげな姿の幽霊は消えられるのかもしれない。それは、幽霊が見える俺にしかできないことじゃないのか?
「……そこに、何かあるのか?」
次回
『指差し幽霊』
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