第11話 判断が早い
「俺は神田雅弘。二年生だ。あー、信じられないと思うが、その……幽霊が見える」
「そうなんですね、すごいです! 信じますよ! 僕は
判断が早い。バカかってレベルで判断が早い。
皮肉か、面倒だからスルーしてるのかと思いきや、真っ直ぐにこっちを見てくる顔から負の感情は読み取れない。オカルト同好会に入るだけあっていまいち正気じゃないのかもしれない。
「気づいてるかもしれないけど、お前今相当マズい状況だぞ。左肩の手、それどうした?」
「あー……その、この手も……関係あるかも……しれないんですけど……」
「どういうことだ?」
肩に乗った手は関係あるどころか直接の原因にしか見えない。それがどうして言葉を濁す必要があるのか。本体が別にいるということか?
上野と名乗った新入生は、憔悴しきった顔を床に向けてしまった。
「僕、先日この辺りに引っ越してきまして……小さい頃この辺りに住んでたんです。だから懐かしくて、散歩がてら近所の廃墟に遊びにいって……あの、知ってますか? 四丁目の、幽霊が出るって噂の廃墟」
「ああ、昔殺人事件があったところだろ」
ニュースにもなってテレビに連日映しだれていたこともあったから知っている。四丁目のお化け屋敷。肝試しって奴か? それで厄介なのに目をつけられた? あいつら構ってくれる奴にすがりついてくるからな。それが面白半分でも半信半疑でも関係がない。世の中には「大人しくしてるのにちょっかい出すから怒る」とか考えてる奴もいるが、あれはただの悪質な承認欲求だ。たまにいるじゃん、あきらかにバカにしてくるような奴にも喜んで尻尾振るやつ。案外そういう奴のほうがヤバくてストーカーになったりするじゃん。アレ。
自分の眉間に皺がよる。この顔をすると大半の人間に引かれるわけだが、幸い上野は下を向いていたので、俺の不機嫌顔を見せずにすんだ。見ていたら逃げ出していたかも知れない。
「はい……あの、その、廃墟に遊びにいった日から、夜、お化けに付き纏われるようになって……」
「ふーん……」
上野の話によると、十一時三〇分を過ぎると素足で歩いているような、ペタペタという音が自分の部屋に近づいてくるということだった。昨日はとうとう窓に張り付いたらしいので、自分でも今日は部屋に入られるかも知れないと警戒していたらしい。
しかし、そうか。あの廃墟に行ったのか。
「惨殺事件があった場所なんかによく行こうと思えたな」
「いやー、その……昔よく遊んでたんで……」
「オカルト同好会に初日から入るくらいだから興味があったのかも知れないが、こういうこともあるから妙なところにホイホイ行ったりするなよ」
「えへへ……」
「本当にわかってんのかね……」
一〇年ほど前だったか、あの事件は。随分と惨たらしい殺し方だったらしく、報道番組は連日猟奇殺人事件として騒ぎ立てていた。
同時に、センセイが調査に乗り出した事件としても、俺の記憶に残っている。
直接の死因は撲殺だが、体を捻じ切られて細切れになった腕やら脚やらが現場に散らばっていたらしい。明らかに人間の力では不可能な所業。何せ骨ごと捻じり切られていたのだから、怪異絡みなのは確定だろう。だというのに、怪異の痕跡を発見できなかったのだと聞いた。
あの惨殺事件に関わった怪異が、上野に目をつけたのだろうか? こいつの左肩に乗る手はそいつの残滓か? だとしたら、なぜ一〇年もたった今動き出した? 言ってはなんだが、あの廃墟はセンセーショナルな殺人事件の現場ということで、上野以外にも肝試しを行っている連中は多い。だというのに、あそこで化け物にあったという話は聞いていない。話を聞かないのは単に俺の交友関係が狭いだけかも知れないが、何かあれば見える俺がその気配さえ察知できないということは、今まであの廃墟の肝試しで怪異に憑かれた奴はいないということだ。
「連絡先を教えてくれ。俺のセンセイにも一応相談してみるが、急には来れないだろうから、応急処置は俺がする」
「センセイ、ですか?」
「俺に幽霊どもの対処法を教えてくれた人だ」
「ああ、それは頼りになりそうです」
「あと、モノを見なきゃ判断できないから、夜様子を見に行ってもいいか?」
「あっ、はい。それはもう」
これで夜に外出する用事ができた。用事があるのは良いことだ。
化け物が出てくるのは十一時三〇分以降ということなので、余裕を持って一〇時くらいに顔を出せば問題ないだろう。
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