野蛮な不良令嬢のわたしを選んでくださったのは?

アソビのココロ

第1話

 ――――――――――ラークメル王国第一王子ウィンストン視点。


 コリー・レブン男爵令嬢は『不良令嬢』と言われている。

 僕自身は挨拶程度しか関わったことがないのだが。


『マナーも覚束ない野蛮人ですわ』

『それもやむなきことです。母親が平民と聞きました』

『いつもナイフを携帯しているんだろう? 怖いね』


 特に令嬢方から目の敵にされている。

 コリー嬢の容姿はとにかく目を引くのだ。

 女性にしては高い身長、しなやかな身体、飾りっけのない服装、そして意志の強さを瞳に宿す、美しい小顔。

 髪の毛を短く整えていることは特徴的で、これもまた貴族の令嬢らしくない、半平民はこれだからと非難される原因となっている。


 令息側のコリー嬢への対応はどうか?

 からかい半分、といったところだ。

 コリー嬢は確かに美しい。

 が、貴族令嬢の典型的な美しさではなく、見慣れないものであると。

 何より僻地男爵の令嬢だから、結ぶメリットよりも他の令嬢に反発されるデメリットの方が大きい。

 眺めるだけに止めておくべし。


 よってコリー嬢は孤立してしまうのだ。

 地方男爵家が王都の貴族学院に娘を送り込んできたのは、人脈の形成という意味もあるだろうに。

 コリー嬢はいつも戸惑い、遠慮しているように見える。

 本来もっと毅然とした令嬢なんだろうけどなあ。


「どう思う? コリー嬢のこと」

「ウィンストン殿下も物好きですなあ」


 大きな体を揺すって笑う騎士団長令息ハルク。

 対照的に小柄な魔道長官令息ロイが言う。


「何々? 殿下惚れちゃった?」

「……気になってはいる」

「確かに気になるけどさあ」

「君達の客観的なコリー嬢評が聞きたいんだ」


 僕がこんなことを言い出した理由も、ハルク、ロイ、ワーナーは察しているはずだ。

 思慮深い宰相令息ワーナーが口を開く。


「コリー嬢が大変賢く、努力家だということは間違いありません」

「うん」


 コリー嬢は定期考査で大体同学年の一〇番以内に入っている。

 正直僕がコリー嬢について知っているのは、容姿と評判以外には成績だけ。


「レブン男爵領って、学問の盛んな土地というわけではないんだろう? 正直あの成績は驚く」

「コリー嬢は入学当初から成績がよかったのではありません」

「ワーナー、どういうことだ?」

「コリー嬢には元々知識があったのではなく、学院に入学してから努力で得たものであろう、ということです」


 学院で学ぶ知識は教養の範囲を越えている。

 専属の家庭教師なしで学べるものなのか?


「ボクがコリーちゃんに会うのって、教室じゃなければ図書館だわ」

「ふむ、相当な勉強家ですな」

「小生、コリー嬢と何度か話をしたことがあるのですが、学問に対して極めて深い理解です」

「コリーちゃんと話すなんて、ズルいぞワーナー!」

「おそらくコリー嬢の成績はもっといいはずだと推測いたします」

「む? 意味がよくわからないが」

「つまり教師に不当に厳しく採点されているか、あるいはコリー嬢自身が周囲に遠慮してあえて考査で手を抜いているのか。どちらかだと」

「ほう? ワーナーが考える、コリー嬢の真の学力は?」

「おそらく小生に匹敵するものかと思います」


 学年トップのワーナーに並ぶほどか。

 僕やロイより上?

 ハルクやロイも驚いている。


「……これは誰にも言ったことなかったんだけどさ」

「何だ、ロイ」

「コリーちゃんの魔力容量はかなり大きいんだ。学院ではボクに次ぐくらい」

「ふむ?」


 魔法の扱いに慣れた者は他人の魔力容量をある程度推し量れる。

 もちろん数少ない魔法使いであるロイもだ。


「ではコリー嬢は魔法を使える?」

「多分。コリーちゃん最初ボクを見て、ちょっと驚いたような顔をしたんだ。ボクの魔力容量を把握したんだと思う。その時からコリーちゃんに注目していたんだけどね」


 コリー嬢はどこで魔法を覚えたんだろうか?

 いや、レブン男爵領は魔物がいるんだったか。

 魔物に対抗するため習得していたとしてもおかしくはないな。

 ハルクが言う。


「コリー嬢は剣術の講義を選択しているでしょう?」

「うむ」


 女子でも剣術選択の者はいる。

 ほとんどが騎士希望の者だ。


「結構な腕です。しかしコリー嬢は確か一人娘だから、騎士にはならないんじゃないかと、疑問に思ったことがあります」

「うん、でもハルクとまともに打ち合える女の子なんて、コリーちゃんしかいないよ。あの腕があったら剣術選びたくなるんじゃないの?」

「いや、武術・芸術の選択講義では、声楽希望だったと言っておりましたぞ。枠が一杯で入れなかったから、やむなく剣術を選んだと」

「「「えっ?」」」


 わからなくはない。

 令嬢方と親しくなりたいなら芸術科目だ。

 中でも特に自分で用意するものがない声楽は人気科目であるし。


「声楽がダメなら剣術という発想にビックリ」

「ハルクの目から見てどうだ? コリー嬢の剣術の腕は」

「ふむ、我流なのでしょうな。いや、戦場では光るやもしれませぬ」

「戦場では光る、とは?」

「一対一の戦いというよりも、油断なく周りを見渡すことに長けているのではないかと」


 いよいよコリー嬢の謎が深まる。

 知識については学院に入ってから身につけたもののようだ。

 しかし魔法と剣術はそうじゃない。

 コリー嬢は戦いに身を置いた経験がある?

 やはり対魔物と考えると腑に落ちる。

 爵位持ち貴族の令嬢がという驚きがあるが、レブン男爵家領の詳しい実情は知らないからな。


「……有用な人材であることには間違いない」

「同感です」

「ボクもそう思う」

「疑いありませんな」


 それぞれの分野で一流である、僕の側近候補達が満場一致か。

 王子たる僕が一男爵令嬢に接するのはどうかと思ったが。

 コンタクトを取ってみることにすべきだ。


          ◇


 ――――――――――コリー・レブン男爵令嬢視点。


 どうもうまくいかないです。

 わたしのような田舎者は王都に受け入れられないようなのです。

 領を栄えさせるために人脈の形成を期待されているのに。

 せっかく王都に送り出してくれた父に申し訳ない。

 婿を捕まえてこいとも言われたが、この分じゃ難しいんじゃないかなあ?

 せめて知識だけでもと、今日もまた学院の図書館に来て学んでいますが、思わずため息が出てしまいます。


「どうしたんだい? コリー嬢」

「は……」


 ウィンストン殿下とその側近、騎士団長令息ハルク様、魔道長官令息ロイ様、宰相令息ワーナー様の四人です。

 学院で最もキラキラしい殿方達。

 図書館に来ていらしたことは知っていましたが、まさか話しかけられるとは思いませんでした。


「失礼いたしました、ウィンストン殿下、ハルク様、ロイ様、ワーナー様」

「堅苦しいなあ、コリーちゃんは」


 コリーちゃん?

 でも嬉しいですね。

 小柄で陽気なロイ様に親しくしていただけるなんて。


「コリーちゃんいつもボッチだよね。何でなの?」

「どうも皆様に避けられてしまいまして。田舎者に王都は難しいのかなあ、と思っております」

「髪を長くしようという考えはないのですか?」


 学年一の秀才ワーナー様からの問いです。

 髪が短いのは悪目立ちするなあと、わかってはいるのですが。


「領に帰ると魔物退治もしなくてはなりませんので。髪が長いのはどうしても邪魔になるのです」

「コリー嬢自らが魔物退治をするのですか?」

「うむ、髪が邪魔になるというのはよくわかる。戦士の基本ですぞ」


 大柄でマッチョなハルク様が大いに頷いています。

 わたしは戦士というわけではないですよ。


「レブン家領には魔物が多いのです。戦える者は戦うというのが基本の方針でして。特に領主一族は魔物と対決する姿勢を見せなくてはいけないのです」

「わかる。よおくわかりますぞ」

「コリー嬢はいつもナイフを持っているという噂がありますが」

「本当です。お恥ずかしいです。どうも丸腰は落ち着きませんので、刃を潰したダガーを常に携帯しております」

「見たところどこにもダガーなど所持しているようには見えませんが」

「太ももにホルダーがセットしてあるんです」

「「「「太もも……」」」」


 あっ、調子に乗って喋っていましたが、はしたなかったですか?

 だからわたしはダメなんだなあ。

 話題を変えましょう。


「あの、皆さんはどうしてわたしに構ってくださるんです?」


 おそらく単なる気まぐれなんでしょうが。

 ワーナー様、ロイ様、ハルク様が順に仰います。


「コリー嬢の学力には以前から一目置いていたのです」

「そうなんですか? ありがとうございます」

「コリーちゃんの魔力は結構すごい。魔法も使えるんでしょ?」

「はい。魔物退治に必要ですので」

「女子ながら素晴らしい剣の技量ですぞ。感服しております」

「やはり必要に迫られてなのです。ありがとうございます」


 わあ、皆さんわたしのことを評価してくださってるんですね。

 嬉しいな。

 ウィンストン殿下が聞いてきます。


「コリー嬢が貴族学院に入学したのは、人脈を求めてなのだろう?」

「はい。しかしどうも思うに任せませず。あと親には婿を見つけてこいと言われております」

「「「「……」」」」


 あれえ? おかしな雰囲気になっちゃいました。

 わたしはハッキリ言い過ぎなのでしょうか?

 どうも貴族の物言いは難しいです。


「どなたか御紹介いただけると嬉しいです」


 強引に話を打ち切りました。

 こんなものでしょう。


「コリー嬢が注目すべき個性なのは事実なんだ。次も話しかけてもいいかな?」

「もちろんですとも」

「ありがとう。またお会いしよう」


 四人のキラキラしいお方達が去って行きました。

 『また』というのは社交辞令でしょうけど、殿下とお話できるなんて今日はいい日です。

 いいことがありそうな気がしますね。


          ◇


 ――――――――――ウィンストン視点。


「コリーちゃんの太ももを想像しちゃう」

「こら、ロイ!」


 コリー嬢と話して嫌な印象は受けなかった。

 粗野ではあるが、むしろ媚びたところがなくて爽やかに感じる。

 知己になれてよかった。


「不良令嬢か。噂は当てにならんものだな」


 三人が口々に言う。


「ねえねえ。やっぱりコリーちゃん、婿探してるんじゃん。ボク立候補しようかなあ? レブン男爵家領は魔物由来の素材調達に苦労しなさそうなんだよね」

「いや、コリー嬢に必要なのは領政関係のノウハウだろう。差し出がましくはあるが小生が……」

「何の何の。そなた達は王都にいてこそ輝くのではないか。レブン男爵領には我のような戦える者が打ってつけであろう」


 ロイ、ワーナー、ハルクとも跡継ぎではなく身軽だ。

 だからこそ僕の側近候補になったという側面がある。

 しかし……。


「僕もコリー嬢の婿争いに加わってもいいか?」

「「「……」」」


 何故黙る。

 気まずいじゃないか。


「ウィンストン殿下はラークメルの王となる道が敷かれているでしょう?」

「そうそう、大体婚約者がいるじゃん」

「ハイオルグレン公爵家の勢威を無視はできませんぞ」


 デニーズ・ハイオルグレン公爵令嬢は、僕の婚約者だ。

 気高く美しく、貴族の中の貴族、令嬢の中の令嬢と言って差し支えない。


「言っては何だが、完全な政略だからな。僕がデニーズの婚約者である必要はない」


 曖昧に頷く三人。

 要は現在のハイオルグレン公爵家の勢力は強過ぎるのだ。

 ここでハイオルグレン公爵家から王妃を出さないと国が割れる。

 だからデニーズが僕の婚約者になったのだが……。


「僕が次期王争いから降りれば、デニーズは僕の婚約者である必要がない。弟のクリフォードが王になればよい」

「デニーズちゃんは、クリフォード殿下好き好き光線出しまくりだもんねえ」

「露骨過ぎますな」

「……ウィンストン殿下はよろしいので? 王にならなくて」

「意外とは言わせないぞ?」


 僕の側近候補である三人がコリー嬢の婿に立候補する、それはつまり僕の側を離れるということだ。

 冗談ではあっても、僕がどう出るかを見定めようとする発言。

 僕がデニーズにほとほと愛想を尽かしてるのを知っているから。


 デニーズは自分の立場を正確に理解しているのだ。

 王になるためにはハイオルグレン公爵家の後ろ盾が必要だということを。

 だから婚約者で第一王子たる僕に対して、下手に出ることがまるでない。

 我が儘を言い放題なのだ。

 それが正当な権利だと思っているから。


 ……順当ならば僕が王になる。

 しかし抑制の利かない王妃を戴いた国でいいのか?

 妃一人制御できない僕に臣下がついてくるのか?

 否定的な思いしか浮かばない。


 弟のクリフォードならば、まだデニーズを操縦できる可能性がある。

 デニーズはクリフォードのことを好いているから。


「ウィンストン殿下。王を諦めるとは本気ですか?」

「本気ならボクもコリーちゃんのこと諦めるけど」

「我も同じく」

「本気だ。僕が王では、血を見なければ国が治まらんからな」


 適切なタイミングで、王家の意に服さないデニーズとハイオルグレン公爵家を切り捨てること。

 ラークメル王国を僕が正しく統治するにはこれがどうしても必要だ。

 しかし首尾よくハイオルグレン公爵家を滅ぼすことができても、実力ナンバーワンの領主貴族を失っては国力をガクンと落とす。

 難しい舵取りを迫られるのだ。


「クリフォードが王ならば可能性がある」

「その通りではありますが……」

「あのひたむきな不良令嬢と田舎暮らしもいいと思うんだ」


 冗談めかして言ってみた。

 ただ僕がコリー嬢に惹かれ始めているのは本当だ。

 高慢な温室育ちの栽培花とは異なる、野の花の逞しい美しさ。

 また面積だけは広いレブン男爵家領に、発展の見込みを感じているのも事実。


「今まで僕について来てくれて大いに感謝する。今後はクリフォードを支えてやってくれ」

「「「……」」」


 王位継承権を放棄し、都落ちする僕にくっついていても出世は望めない。

 ロイもワーナーもハルクも有能な人材だ。

 ちょうど学院卒業というキリのいいタイミングでもあるから、クリフォードに鞍替えして頭角を現わして欲しい。

 それがラークメル王国のためでもある。


 ロイがふくれっつらで言う。


「もう、殿下は格好つけちゃって」

「え? 格好つけたわけではないんだが」

「何でも思うようになると考えない方がいいよ」


 ロイは何を言っているんだ。

 思うようにならないから苦しんでいるのに。

 あれ? ワーナーもハルクも頷いているな。


「まあいい、これで解散だ」


          ◇


 ――――――――――学院卒業後。コリー視点。


『コリー嬢、君の婚約者に立候補したい。僕の望みを叶えてもらえるだろうか?』

『無投票で当選ですとも!』


 おかしなことになりました。

 何とウィンストン殿下がわたしの婚約者になってくれたのです。

 凛々しく優秀な王子様という、最高の属性を備えたウィンストン殿下が婚約者だなんて!

 最高です! 天にも上る気持ちです!


 でも殿下には公爵令嬢デニーズ様という、美しさと賢さと身分を兼ね備えた素敵な婚約者がいらっしゃったのに。


『いや、デニーズは僕の弟のクリフォードのことが好きなんだ。僕が身を引いた方が、全てうまくいくのさ』


 そうなのでしょうか?

 クリフォード殿下はウィンストン殿下と比べると、凡庸な王子様という感じなのですけれど。

 ただ次代の王となるクリフォード殿下に支持を集中するために、ウィンストン殿下のお相手は身分の低い者の方が却っていいそうで。

 ともかくデニーズ様はクリフォード殿下の婚約者となり、同時にクリフォード殿下が王位継承権一位であるとも発表されました。


 ウィンストン殿下はレブン男爵家の跡継ぎであるわたしに婿入りするので、本来なら王位継承権を失うはずでした。

 しかし現在王家には二人しか王子がおらず、次の王位継承権保持者の血が遠いということもあって、ウィンストン殿下の王位継承権はそのまま保持されています。

 クリフォード殿下に男児が二人生まれるまで、という時限措置なのですけれども。

 やんごとなき方々の諸事情は、田舎者のわたしに詳しくはわかりかねますが。


 いや、王家のことはどうでもいいのです。

 わたしにウィンストン殿下のような、素敵な婚約者ができたということが大事なのです。

 何より両親が、よくやったよくやったと涙を流して大喜び。

 男爵領の有力者にお披露目して、結婚という運びになりました。


 ウィンストン殿下が婿に入ってくれて一番変わったのが、出入りする商人の数です。


『僕を監視する、情報を得るという意味合いがあるんだと思うよ』


 確かにそうかもしれませんが、いっぺんに領内が活気づきました。

 今まで捌けなかった魔物由来の素材やレブン男爵家領のユニークな産物が飛ぶように売れ、景気がよくなりました。


『殿下のおかげです』

『殿下はよしておくれよ。夫婦なんだから』

『ではウィンストン様と』


 独自に商会を立ち上げ、素材や産物の品質を安定化させることに成功。

 買い叩かれることもなくなりました。

 いよいよ利益が増えます。

 街道や宿の整備に儲けを投資し、さらに商人を誘致しやすくしました。


 そうこうしている内に騎士のハルク様がやって来ました。

 何故?


『いやあ、我はやはりウィンストン殿下の臣下ですからな。この地で働かせてくだされ』


 正統派剣術を使える願ってもない人材です。

 ハンターや子供達に剣術を教えてもらい、一方で魔物退治も行ってもらうことにしました。

 強い方がいらっしゃいますと士気が上がりますね。


 何と魔法使いロイ様もやって来ました。


『来ちゃった。レブン男爵家領産の素材が王都に入ってきてさ。羨ましくなっちゃったから』


 ロイ様は相変わらず軽いなあ。

 ロイ様には魔法の指導を受け持ってもらい、また自由に魔道具の研究をしてもらうことにしました。

 ハンターに攻撃魔法や回復魔法を使える者が多くなり、より精強になりました。

 ハンターの活躍の場が広がり、魔素濃度の高い魔の山エリア以外から魔物を駆逐できたのです。

 レブン男爵家領の居住面積耕地面積が大幅に拡大です。


 何となくそうかなと思いましたが、王宮文官ワーナー様までやってきました。

 本当に何故?


『そろそろ小生の出番かと思いまして』


 確かに。

 資金ができたので大規模な開発が可能になりましたから。

 魔物がいるため放置されていた大きな沖の島を我が領に編入すること。

 現在漁港としか使用されていない小さな港を拡張し、海外との貿易に堪え得るものとすること。


 ワーナー様の立案に従い、計画が実行されます。

 ハンターを大量に投入し短期間で沖の島を制圧、多くなってきた移住者をどんどん受け入れ開拓しました。

 また港湾開発が終わって海外貿易が開始されると非常な賑わいを見せ、この頃になるとレブン男爵家領はラークメル王国一の富裕領と言われるようになりました。


 レブン男爵家領に移住者が多くなったのは、富裕になったからだけではありません。

 ラークメル王国で内乱が起きたからです。

 結局王位を継いだクリフォード様はハイオルグレン公爵家の傀儡と化してしまい、王国はハイオルグレン公爵家派と反ハイオルグレン派に分裂して相争ったのでした。


 ハイオルグレン公爵家をはじめいくつかの有力貴族が過去のものとなり、ラークメル王国中原地方が焦土と化した後も、争いをやめない者はおりました。

 しかし堅実な諸侯はウィンストン様にすり寄ってきたんです。


 いくつかの理由がありました。

 遠隔地であるためレブン男爵家がほぼ無傷であったこと。

 ウィンストン様の手腕により、レブン男爵家が空前の繁栄を見せていること。

 精強なハンターは兵士としても優秀であること。


 クリフォード陛下とデニーズ妃殿下の首が王都郊外に晒されると、ウィンストン様待望論が爆発的に大きくなります。

 ウィンストン様が推戴され、レブンの姓のまま王となりました。

 レブン朝の創始です。


「遠回りしたけど、僕が王か」

「おめでとうございます」

「いや、コリーも王妃だからね?」


 本当ですね。

 どうしましょう?


「王妃様は領民に大変慕われておりますぞ」

「何だかんだで、コリーちゃんはラッキーガールだよね」

「結局コリー様に足りないのは身分だけでしたから」


 ハルク様ロイ様ワーナー様も、この地で可愛いお嫁さんをそれぞれもらって幸せそうなんですよ。

 わたしも三人の子の親として幸せですけれども。


「コリー、君を選んでよかった」

「まあ、ありがとうございます。でもわたしこそ、ウィンストン様がレブン男爵家領にいらしてくださって嬉しかったんですよ」


 発展の余地が十二分にあることはわかってたんです。

 でも人脈も資金も何もなくて。

 全て素敵な旦那様のおかげなのです。


「君のおかげで僕は救われた。すり潰されてくだけの人生だったのに」

「そんなことありませんよ。ウィンストン様はとても優秀ですから」


 男爵家領に商人が訪れてくれるようになって。

 何もかもあそこから始まったんです。

 全ては素敵な旦那様のおかげなのです。


「もう。ボク達がいるのに二人だけのワールドを作ろうとするんだから」


 ウィンストン様を見つめます。

 優しい瞳です。

 アハハと笑い合う、この時間がお気に入り。


「中原を再開発しなければならない。君達の力を貸してくれ」

「「「「はい!」」」」


 愛する旦那様のために、信頼できる同志とともに。

 私達はさらに前へ進むのです。

 これが何よりの幸せです。

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