第35話 でも、これで終わりじゃない
「~~高校吹奏楽部」
私たちの審査発表だ。この瞬間、すべてがスローモーションに感じた。ナレーションの女性がわざとじらしているんじゃないかと、思ってしまうくらいだ。
「・・・」
「ゴールド!金賞!」
その瞬間、私たちは、歓喜の叫びを上げた。部員同士ハグをしたり、喜びのあまり楽譜を空にばら撒いてしまうくらいだった。そんな中、珠洲先生だけは、いたって冷静で、かえって浮いてしまうくらい落ち着いていた。
私は、あまりにも落ち着いているので珠洲先生に
「先生、金賞ですよ。嬉しくないのですか?」
と言うと、珠洲先生は、一瞬困った顔をした後、穏やかな口調で
「藤村君、金賞を取った学校が何校あるかわかるかい?」
と言うと、私は、言葉の意図が判らず、何の気もなしに
「僕たちで3校目だと思います。」
と言うと、珠洲先生は、大きく頷いて、真剣なまなざしで
「おそらく、僕の見立てだと、金賞は4校になると思う。何かおかしいと思わないかい?」
私は、先生の意味をくみ取ろうと考え込むと、隣にいた吉田君が会話に入ってきて
「先生は、ダメ金の可能性もあると思っているんですか?」
ダメ金?なんで、この場に金魚の話が出てくるんだろう?さらに深く考えていると私の考えを読んだ吉田君は落ち着いた口調でゆっくりと
「ダメ金とはね。金賞だけど、次のコンクールの代表に選ばれない金賞のことなんだ。だから、ダメ(代表に選ばれない)金賞のことなんだ。」
私は、初めて、金賞をとれば、もれなく次のステージに上がれると思っていて、浮かれていたのに、まさかの落とし穴があるとは思ってもみなかった。私は、焦った口調で
「それじゃあ、金賞取ったって何も意味がないじゃないですか!」
と、席から立って珠洲先生に詰め寄ると、珠洲先生は、少し困った顔をしながらも、落ち着くようにジェスチャーを送ると
「僕は、今回のコンクールの最優秀賞は僕たちだと信じている。でもね…音楽の難しい所は、聞き手の感性によって思いっきりに左右されてしまう事なんだ。今回の審査員は、僕たちが明るく楽しく演奏したことを快く思わない先生もいるかもしれない。陸上とか、スポーツとかなら計測やスコアで誰が見ても納得しなくてはならないけど、音楽に関しては必ずしもそうじゃない。そこが、難しくて、また楽しい所なんだけどね。」
と、私に向かってにっこりと微笑んだ。珠洲先生の笑みは、やはり審査員の評価が未知数なだけに、どこか不安が混じった影があるものだった。
そして、各校の審査発表が終わり、先生の言った通り金賞が4校となった。県大会の切符は2校、私たちの学校が選ばれるか否か、緊張した目で、ステージを見つめていた。
おもむろに審査員の先生方の代表がステージの中央に立つと今回のコンクールの各校の演奏の総評を言った。
そして、ついに時は来た。
~~それでは、今大会の県大会代表校を発表したいと思います。」
その、一言の瞬間、時が止まったのではないかと疑ってしまうくらいの静寂が突然現れた。
――― そして
~~~~高校吹奏楽部と―――――高校吹奏楽部になります。」
私たちは、自分たちの聞き間違いでないかと、疑って、歓声を上げる前に自分たちの顔を見合わせて、夢か幻なんじゃないかと確認してしまう次第だった。そんな中、先陣を切って部長が
「うぉぉ!!やったぁ!」
と声を発信た瞬間、私たちも後に続いて、歓声を盛大に上げて今回の勝利を喜んだ。部員の中にはあまりにも喜びすぎて泣き出してしまう人までいるくらいだ。そんな、興奮の絶頂期の中、ナレーションの女性が、落ち着いた口調で
「表彰式を行います、各校の代表の方は、舞台袖までお越しください。」
を言った瞬間、部長は飛び上がって、私たちにガッツポーズを見せると
「者ども行ってくるぜ。しっかり目に焼き付けておけよ。」
と、似合わない2枚目のつもりのセリフを吐いたが、いつの間にか副部長が、そっと、部長の隣にくると
「彩、忘れものよ。」
と、にっこりした顔で、禿げたかつらと口ひげを部長に手渡した。部長は喜々としながら、かつらと髭を装備しようとしたが、そんな部長を副部長が脳天にチョップを入れると
「彩、まじめにボケないの。他校の生徒笑っているわよ。そこは、あなた突っ込むところよ。」
と、副部長は腕組みしながら渋い顔で頭を左右に振っていた。そんなことも、理解できていないのか、部長は、至極当然の様に
「恵子。わが校の校長の様に堂々と表彰しにいきなさい。という意味じゃないの?」
と、思考が明後日の方に向かっているので副部長は部長を思いっきり蹴り上げて、鬼の形相で
「いいから、行ってこいや、ワレ、ワレラの恥晒したら、どうなるかわかってるんやろな。ヌシ容赦なく海に沈めるで。」
といつも通り部長に対して恫喝したが、心なしか嬉しそうだ。うん、多分そんな気がした。
― そして 表彰式が終わり 会場外にて ー
珠洲先生は、部員一同を集めて安心した様な朗らかな顔で
「みんな、お疲れ様、よく頑張ったよ。
―でも、これで終わりじゃない。-
本当の本番は次だよ。行くよ次のステージへ。」
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