第22話 ローマの祭り

そして、副部長はゆっくりと私たち見渡すと、ゆっくりと威厳のある口調で


「課題曲は五月の風で決まったわ。あとは自由曲ね。だれか、希望する曲がある人は挙手願えるかしら。」


と、その場にいたみんなは、互いの様子を見ながら、だれか希望する曲がある人いるのか探っていた。


しばらく、静寂が続いたとき途端に破るものがいた。


「はい、はい、は~い!」


と、さっきまで灰になっていた、部長が威勢よく手を挙げていた。


多分、本人の頭の中ではアマゾンの沼でピラニアに捕食されることからの逃避もあったかもしれない、異様なくらいのハイテンションだった。


副部長は、舌打ちをしつつ、部員の手前をあってか、しぶしぶ部長を指して


「彩、何かあるのかしら?もし、これがサザンのエロティカセブン何て言ったら、私、あなたには明日が来ないようにするから覚悟してね。」


と、恐ろしいくらいの笑顔と優しい口調で応えていた。


私は、毎度副部長の応えに戦慄が走るのだが、今回部長も、自分の推薦曲に自信があるのか、ガサゴソと鞄から一枚のCDを出して


「とりあえず、聴いてみて、きっとカッコイイって思うから!」


と言って、自信満々にゆっくりと歩いて、CDプレイヤーのトレイにCDを載せて再生ボタンを押した。


~~~♪


一通り聴いた後、副部長が呆れた顔で、部長を見つめながら


「彩、あなた、また、バースタインのキャンディード序曲を勧めたの?1年の頃も、2年の頃も却下されて懲りないわね。」


そんな、呆れた副部長の態度にかなりご不満なのか、顔を膨らませて、最大の抗議の意思を見せて、大きな声で


「みんな、この曲で、全国行きましょう!」


と言ったが、副部長は、私たちに向かって冷静な口調で


「キャンディード序曲はいい曲なのは判るわ、でもね。審査員の先生方は、カジュアルな曲は受けが良くないのよ、もし、仲良しクラブなら選んでいいけど全国狙うならなしよ。」


そんな、副部長の審査に部長はがっくり肩を落として、またしても教室の隅で灰に戻っていた。


重い空気の中、次は吉田君がおずおずと周りの人に気を遣うかのように手を挙げて


「もし、良ければ、この曲はダメでしょうか?」


と言って、吉田君は、音楽室の資料棚から一枚のCD取り出して、再生ボタンを押した。


~~~♪♪


副部長は、曲を頷きながら聴いて、吉田君を見つめながら


「なかなか、いい曲ね。一体この曲は何かしら?」


と、吉田君は手ごたえが良くて認めてもらったのが嬉しいのか、明るい口調で


「グスタブ・ホルスト作 吹奏楽のための第二組曲 です。カジュアルな曲の中にも、聴き手を飽きさせない構成できっといい演奏ができると思います。」


と、吉田君の説明を聞きながら副部長は、黒板にホルスト第二と大きく書いた。


そして、またしても、ゆっくりと私たち一人ひとりの瞳を見つめながら、確認するかのように


「ほかに意見がないかしら?ないなら、この曲にするけど…」


と、副部長が言い終わらないうちに、園田さんが威勢よく手を挙げつつ一枚のCDを掲げて


「私は、きっとこの曲をみんなで演奏するだけでも、間違いなく全国に行けるくらい凄い曲だと、確信してます。」


副部長は、半分疑うような視線を園田さんに送ると


「演奏するだけでも、全国に行けるって曲で間違いないのかしら?」


園田さんは、そんな副部長の疑いを意にもかけない自信に満ちた口調で


「間違いなくです、聴いてくだされば判ります。」


と、園田さんはその全国に行ける曲が録音されたCDを再生した。


~~~♪♬


音楽室にいた一同はその曲を聴いた瞬間面を食らった。今まで、キャンディード序曲やホルスト第二みたいに、判りやすい、演奏しやすい曲とはかけ離れて、プロですら完璧に演奏するのは無理なんでないだろうか?と思うくらい難易度がかなり高い曲が流れてきた。


隣にいた、吉田君ですら、思わず


「このペットまじか、こんなに高い音出せる自信ないよ…」


と呟きが聞こえてきた。そんな物おじしている部員を前に園田さんはみんなの前に立って鼓舞するように大きな声で


「この部では、将来プロを夢見て日々練習している人もいると思います。なら、なおのこと、この曲が完璧に演奏できれば、きっと夢が現実になる可能性が大きく秘められている曲だと思います。それくらい、この曲を完璧に演奏できる楽団はいないのです。きっとコンクールでこの曲を演奏すれば大学や楽団から注目されるのは間違いないと私は思います。」


と、園田さんの透き通った声が音楽室の中で響いた。


しばらく沈黙が続いた後、灰になっていたはずの部長がいつの間にか園田さんの隣に立って


「私たちの目標は、全国金賞!かならず普門館の床を剝ぎ取って持ち帰る!そのために私たちは、今まで演奏してきたじゃない!普通の人ができないことをやらないと金賞何てムリなの判っているでしょ!」


その部長の一声でみんな、背中を推されたのか、大きな拍手が起きて、この難曲を演奏することが満場一致で決まった。


そして、その一通りを眺めていた副部長が、園田さんに


「聞きそびれてごめんなさい、この難曲の曲名は何かしら?」


その問いに、園田さんは、自信満々に笑顔で


「レスピーギ作 ローマの祭り です。」

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