第15話 すべての不幸の始まり
そう言った後、園田さんは、どこかしらソワソワしながら、視線が迷っていたが、しばらくして、決心がついたのか、私を見つめると
「あの頃の私は、まさにどうかしていたわ…」
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私は、間違いなく、特別な存在なんだ。
お母さんも私が小さい頃から言っていた。
ー玲、あなたは特別なエリートよ。他の人みたいな平凡な人とは違うの。だから、あなたは、小学時代から色々と賞をもらってきたのよ。それを自覚して、日ごろから落ち着いて優雅に過ごしなさい。-
たしかに、私はコンクールでいくつも賞をもらったけど、いまいちお母さんの言う事がよく分からなかった。
エリート?優雅?どんな風に過ごせばいいのお母さん…と聞きたかったけど、お母さんはそんなこと聞くときっとがっかりすると思ってあえて聞かないで黙っていた。
小学時代、クラスメイトをお家に呼んで遊ぼうとすると、それを見たお母さんは、私のクラスメイトを見るなり、みんなの前で
ー玲、あなたは特別なのよ!こんな子たちと一緒に遊んでしまうと、汚れてしまうわ!いい!こんな子たちと一緒に遊んじゃ駄目よ!-
と、顔を真っ赤にして私に怒鳴った。
私は内心
ーああ、エリートってこんな普通の友達と遊んじゃいけないんだー
とお母さんの言葉の意味を理解した。
そして、私は、中流階級以下の人と関わらないようにして、社長の息子とか、代議員の娘とかしか関わらないようになった。
そうやっていくと、いくつもの賞をもらって全校生徒の前で表彰されていく姿を見られると、自然に私の周りにはいつの間にか何人かの所謂上流階級の友達が周りにいつもいるようになった。
その友達の言動や行動から、エリートの振る舞いを習った。
ボロボロのスニーカーを履いている子を見ては鼻で笑って
毎日同じ服を着ている子を見ては、まるでごみを見る様な目で扱った。
そして、私が、コンクールで賞を取るたびに、周りの友達は
ーさすが玲ちゃんね。生い立ちがいいと何もかも違うわー
ー玲ちゃん。今度、私のお誕生日会で演奏してくれないかしら?きっとお父様やお母さまも喜んでくれるはずだわー
私は、演奏の依頼の度にお母さんに演奏してもいいのか許可を訊くと
ーああ、あのお宅の子ならやってもいいわ。お家が建設会社の社長のお宅だからー
ーその子は、ダメ!ただの平のサラリーマンのお宅じゃない!そんな人に向かって話してもダメよ!ー
私は、そんな風に、だんだんと話していい人悪い人が判ってきた。
そして、私は、そんな小学時代を経て、間違った人格が形成されていった。
恐らくお母さんはお父さんが県議会議員だから、風評を意識したつもりなんだろうけど、当時の子供の私には何もわからかった。ある意味私が演奏をするお宅はある意味ブルジョアジー、上流階級の証となった。
そして、私は、中学へと上がった。中学の先輩たちも小学時代の影響か、自然と私を特別に扱った。ましてや、吹奏楽部の先輩なんて、まるで私が部長の様な扱いで、中学校一年から敬うように、恐れるように、腫れ物に触るように扱った。
そんな中、まるで私をエリートと扱わない様な、怖いもの知らずの男子が目の前に現れた。
ーおお、お前が天才児と言われた園田玲か、前にテレビ見たことあるけど、本物か、すげー!ー
と、物おじしないように話しかけてくると、私の友達が
ー誰に向かって口を聞いてるの。あっちに行きなさいよ、園田さんに馬鹿が、感染るわー
と、追い払おうとするとその子は、キッと睨んで
ー俺は、お前に話してるんじゃねぇ、園田に話しかけてるんだー
と言いつつ、中学生らしからぬ巨体でありながら、それに似合わず人懐っこい満面の笑顔で手を差し出してくると、私はどうするべきか、周りの友達に視線を送って意見を求めているつもりだったけど、友達は、別の解釈をしたらしく
ーそうですわ。園田さん、そんな人と関わらないいいですわ。さあ、あんな奴おいて行きましょうー
と、私の手を友達が引いてその場から去った。後方からは
ー後で、演奏聴かせてくれよな!ー
と、私は、今までにない人に興味がわいて、後ろを振り返ると、彼は右手の親指を立てて
ー俺は、村上秋生!よろしくな!ー
言った後、両手をブンブン振りながら私たちを送っていた。
友達は、信じられないわ、かなり頭がおかしいわね、きっとああいった人が人を殺す様になるのよ、などなど言っていて、私は純粋に、村上君は頭がおかしくて、将来人を殺すような人なんだと理解した。
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「それが、村上君と私との出会いね。」
と園田さんは、ため息の様な声を出しつつ語って、また少しレモンティーを啜った。
私は、二人の話を聞き終わって、肝心の話を聞かなければならないと思い
「それで、村上君と園田さんと吉田君の間に何があったの?」
吉田君は、今でも思い出したくないのか
「それは、中学2年の冬で、吹奏楽部内で演奏が上手い人を組んでアンサンブルをやることになって、僕の中学校初の全国大会金賞を狙うために、部内のテストでインストラクターのプロの作曲家の先生が個人個人の演奏を聴いて決めることになって僕がトランペット、彼女がピアノ伴奏、そして、村上君がチューバで演奏することになったんだ」
そして、しばらくの沈黙の後、吉田君は重い口を開くと
「それが、すべての不幸の始まりだったんだ…」
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