第16話 あの後、私たちは…
吉田君は重い口を開くと、後悔の念が含まれるように
「ある冬の日、僕たちはアンサンブルをやるという事で、地元のマクドナルドでハンバーガーとか、食べながら打合せしようととなったんだ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー健、冬のマックはグラコロ一択だろ、なに普通にチーズバーガー頼んでるだよー
村上君は僕を小突いた。そして、終始無言の彼女は、マックの店内を物珍しそうにきょろきょろ見回していた。
そんな、彼女をからかうように村上君は、彼女の頭をガシガシ撫でて
ー玲、お前、もしかしてマックに来るの初めてか?ー
彼女は、視線を店内を舐めるように見ながら黙って首を縦に振った。
そんな彼女の答えに村上君は、まるで希少種の生命体を発見したかのような興奮した口調で
ーすげー!中学二年でマック初なんて初めて聞いたぜ!ど田舎の小学生ですら行ったことあると思うぜ!ー
と、村上君はニコニコしながらからかうつもりなのか冗談半分に
ー玲、お前はちっこいから、大きくなるためにはビッグマックだ。いいか、これからマックに行くたびにビッグマック頼むんだぞー
と、言われて彼女はコクコクと視線を泳がせながら頷いた。
そして、僕たちは、各々、バーガーとドリンクとポテトを持ってガラス張りの窓側の席に着いた。
僕は、外に視線を送ると、もう、冬なので外は暗くなって、なんだかちらほら雪が舞っていた。
村上君は、思いっきりグラコロにかぶりつくと、幸せな顔をして
ーやっぱり、これよ、これー
と言い、そんな、村上君と裏腹に彼女は目の前にたたずんでいるビッグマックにどう挑戦しようかと悩んでいるのか、黙って見つめていた。
村上君は、手に着いたソースをぺろぺろ舐めながら
ー玲、いいか食べ方を教えてやる。それには、歯が大事なんだ。いいか、俺が歯を見るから、口を大きく開けろー
と言われて、彼女は、素直にいう事を聞いて、恐らく歯医者でいつも行われているのだろう、口をあーんと開けた。
その瞬間、村上君は思いっきりビッグマックを彼女の口に突っ込んだ。
彼女は、まさかの展開に目を白黒させているのを見て、村上君は、諭すように
ーいいか、玲。これがビッグマックの食べ方だ。これから、ビッグマックを食べるときは必ず同じ様に食べるんだぞー
と言うと、彼女は、恐らく今までの人生でやったことのない食べ方なのだろう、目元が笑って大きく首を縦に振った。
そんな、こんなで、各々食事を済ませて、本題の課題曲選びの話になった。
僕は、音楽歴は2年しかないけど、トランペットとチューバのピアノ伴奏という曲には何も思い浮かばず、不安目で二人に視線を送ると、吉田君は何か秘策があるのか
ー実は、俺こう見えても、映画やアニメのテーマ曲を耳コピして編曲するのが好きなんだ、それで…ー
と言って、村上君は鞄をガサゴソ手を突っ込んで、ある楽譜を取り出した。
ーこれは、俺が話題の映画だと聞くから映画館で見て、見た瞬間感動して上映期間中何回も足を運んで、メモりながら耳コピした曲なんだ。ー
と、村上君はテーブルにドンと楽譜を置いた。
僕と彼女がその楽譜を覗き込むと
ー紅の豚のテーマーとタイトルが書いてあった。のちにサントラに帰らざる日々とタイトルされる曲だ。
村上君は、どこか恥ずかしいのか、それとも興奮してるのか、顔を紅潮させながら
ーこれで、全国金賞とったらすごくないか!それに、パートもペットとチューバとピアノと完璧!これでやろうぜ!ー
僕は、特に反対するつもりがないので、視線を彼女に向けると彼女も異論がないのか静かに頷いていた。
僕たちの同意を得たので満足したのか、それとも、自分が編曲された曲が演奏される嬉しいのか、興奮した口調で
ーよし!決まりだ!前祝として、ゲーセン行かないか!-
と村上君が言うと、僕は腕時計を見ると夜八時を回るか回らないかだったので申し訳ないと思いつつ
ー村上君、ごめん、これから塾なんだー
と言うと、村上君は気を悪くした様子がなく笑顔で
ーなら、健、この楽譜後でコンビニとかで人数分コピーしといてくれー
と、言われて、受け取って僕は楽譜を鞄にしまって、二人と別れて塾へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と、吉田君がそこまで語ると、黙って園田さんを見つめて、静寂がその場を支配した。
そして、吉田君は、苦々しそうに口を開くと
「結局、僕たち三人でアンサンブルを組んでコンクールに出場することはなかった。なぜなら、村上君は翌日から、学校に来なくなった。その時、いろんな噂が流れた。お金持ちの令嬢を拉致したとか、恐喝したとか、彼の性格から見て考えられない噂がクラスどころか、学校中に広まった。しばらくして、村上君は、村上君のお母さんと無理心中したというニュースが新聞やローカル番組が流れた。その時、村上君は母子家庭だと初めて分かった。」
と吉田君は一通り語り終えると、睨むように園田さんに視線を送ると
「あとは、この人に真相をこの場で言ってもらう、それで納得しないと、一緒に演奏何てムリだ。」
園田さんは、俯いたまま、本人も言いづらそうに
「あの後、私たちは・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます