第14話 かつての彼らの間にいた彼…

「かけがえのない曲…」


私は、誰に言うともなく呟いていた。


そんな、呆気に取られていた私を見て、吉田君は、私だけおいていかれているのを気づいたのか、どこか、寂しい瞳で私を見つめて


「創君、これから時間があるかな?これから、僕たちの中学での話をしたいんだけど…」


と、辛そうな口調で言葉を紡ぎだした。


私は、そんな辛そうな吉田君を励ますように明るい口調で


「うん、大丈夫だよ。それに僕たちの演奏するには知っておく必要があるんでしょ?」


その時、私と吉田君の会話の間に園田さんが申し訳ないように


「できれば、私も、一緒にいたいんだけど…ダメかな?」


私は、吉田君の意志を確認するように視線を送ると、吉田君も何かの区切りがついたのか、真剣な表情で頷くと


「むしろ、そのほうがありがたい。多分、僕からの視点で話すと多分かなり偏った話になると思うから…君も、君の視点で話したほうが、中立の創君には一番いいと僕は思う。」


園田さんは、深々と吉田君に頭を下げると、ただ一言


「ありがとう…」


と呟いた。


私たちは、部長たちと音楽室を後にすると、学校を出ながら、近くのファミレスへ行くことに話が決まった。


私たちは、ファミレスへ着くと、一番奥の窓側のテーブル席へと案内されて座った。


私たちは、とりあえずドリンクバーを頼むと各々、飲み物をとって席に着いたけど、静寂がしばらく支配していた。


その間、吉田君と園田さんは、何か今までの中学の出来事を思い返すかのように、何か深く考え込んでいるみたいだった。


そして、おもむろに吉田君がゆっくりとした口調で語り始めた。


「創君、村上君は僕の中学の親友だったんだ。中学校1年のクラスの中で知り合いのいない僕に、明るい闊達な村上君が、独り本を読んでいた僕に声をかけてきたのが始まりだったんだ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーねえ?君、その本面白い?ー


彼は、大柄な体をした人で屈託のない笑顔で僕に語り掛けてきた。僕は、基本的に引っ込み思案な性格だったのと、彼があまりにも僕の体型からかけ離れくらい大きかったので、ちょっと怖気づきながら


ーうん、なかなか面白いと思うよ…ー


と答えると、彼は食い入るように僕の読んでる本の表紙を見ると


ー宮本 輝 の青が散るかぁ~俺も読んだけど、青春っていいなって思う。まぁ、今の俺たちがその青春真っ只中なんだけどなー


と彼は一人、豪快に笑った後


キラキラした笑顔で僕を見つめてきて、一言


ー君も、青春してみない?きっと君も青が散るの燎平に負けないくらいすんげーものになるよ、保証する、おっと、ごめん自己紹介が遅れた。俺は村上秋生、よろしくな!ー


と、彼は大きな手を僕に差し出してにんまりと笑った。


僕は、今までの人生で初めてのタイプの人と出会って、半分驚きながらも、なんとなく彼は、きっと信じられる人だと雰囲気で信じられた。


僕も、応えるように精一杯の笑顔で


ー僕は、健。吉田 健よろしくお願いしますー


そんな、僕を村上君は背中をバンバン叩きながら


ーもう、俺たち友達だろ、水臭いこと言うなよ。健。ー


あ、はは、と豪快に笑った。


そんな、村上君の笑い声につられるように僕もいつの間にか大きな声で笑っていた。


しばらく、二人で笑った後


ーところで、健。部活決まったか?ー


当時の僕は、どこにも入る気はなかったので、首を左右に振ると村上君は

ぐいっと僕に顔を近づけると


ーなら、放課後、俺に付き合ってくれよー


と、迫ってきたので僕は、ただ首を縦に振ると、それで満足したのか村上君は、それじゃ、約束な!と言って、自分の席へと戻っていった。


そして、放課後、巨体の村上君がのしのしと僕の所へ来ると


ー健、実は、もしよければ入ってほしい部活があるんだー


僕は、村上君の体からにして体育会系と思って


ー僕は、運動ができないよー


と、申し訳ないように言うと、そんな僕の背中を再びバンバンと叩いて豪快な笑顔で


ー大丈夫だ!きっと健に合うと思うぜー


と言った。僕は、一体どんなところに連れていかれるのか、かなり不安な気持ちいっぱいで付いていくと、三階の音楽室へと着いた。音楽室からは、色々な楽器の音色が、防音の扉の外からも漏れ聞こえてきた。


そして、村上君は、一気に扉を開けると大きな声で


ー先輩!新入部員を連れてきました!!-


楽器の音に負けじと叫んでいた。


ーえ?新入部員?僕が?ー


と、狼狽えていると、先輩方が集まって


ー初心者なの?ー


ー何か判る楽器ある?-


と言われて、一瞬、天空の城ラピュタのワンシーン、パズーがトランペットを吹く光景が頭に浮かんで


ートランペットならわかりますー


と、僕が言うと、村上君は頭を直角に下げて大きな声で


ー貴重な男子部員です!俺からもこいつにペットを任せてくれませんか?-


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーと、しばらく、しゃべりっぱなしだった吉田君は、コーラーを一気に飲み干すと懐かしそうな口調で


「これが、村上君と僕との出会いと、トランペットの始まりだったんだ。」


そして、吉田君は、横目で園田さんを見つめると


「吹奏楽って意外と縦社会なんだけど、その部の中に唯一例外があったんだそれが、彼女だったんだよ。」


と、こぼす様に言った。園田さんは、今度は自分が語る出番と判ってか言いづらそうに


「あの頃の私はバカだったわ。」


と、本人も言いたくなさそうに歯切れ悪く言葉が漏れてきた。

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