第11話 相容れないアンサンブル

ーそして、入部して1か月ほどたったある日のことー


私たち1年生30名弱が全員、急遽放課後の午後四時に音楽室に来るようにと連絡が下った。


私たちは、音楽室に座って、みな口々に、一体何事かと囁きあっていた。


私に至っては、何か嫌な予感がしてたまらないのだが、敢えて黙って事の様子をうかがっていた。時計を見ながら、そろそろ時間だなぁと思うとー


― バ ン ―


と盛大な音を立てて、まるで王様の行進の様に部長、副部長など吹奏楽部運営人が次々と入ってきて、部長は黒板を背に私たちの前に立つと、余程大事な話なのだろう、あの部長が仁王立ちとなって今までにないくらい真剣な表情で私たち1年生をゆっくりと見渡して、しばらく、無言で何かを考えているみたいだった。そして、威厳のあるバリトンボイスでついに口を開いた。


「え~、あ~、本日はお日柄もよく~あ~。」


副部長は、鋭い眼光を部長に向けると、手元にあった楽譜を部長に投げつけるともう、おなじみとしか言えないがドスの利いた低い声で


「彩、お得意の校長の真似はいいから、早く始めんかい、ワレ。バラシて山に埋めるぞ、コラ。」


と、脅しているが、まさに馬耳東風だろう、一体何回この光景を1か月繰り返しているのやらと、私は半分呆れながら眺めていると。


部長は、お決まりの笑いながら舌を出して


「えへへ、テヘペロ。」


と言うのが、早いか副部長は目の前に立っている譜面台を手にもって、今まさに投げつけようとしてるのを、部長は確認するとサッと手元にあるタクト手にもってバットを持つように構えると


「こい、恵子、場外ホームランを打ってやるっ!めざせ大リーガーって…これじゃ無理じゃないの!タンマ、タンマ、代わりのバット持ってくるから…。」


と、言い終わらないうちに、譜面台は部長の顔をニアミスして派手な音を立てて、黒板にぶつかった。そんな副部長は、今までかつてないくらい殺意の波動を放ちながら般若の形相で


「ワレ、ツギ、コロスゾ、コラ。」


と、私たちは、自分たちにもとばっちりが来て命がないんじゃないかと、心身共に縮み上がりながら、様子を見守っていると。部長は頭をボリボリ搔きながら、さも面倒そうに


「あんまり、柄じゃないんだけどなぁ…。」


と、小声で呟くのが早いか、今度は部長の脛にパーカッションのスティックが直撃していた。部長は、痛い、痛いよ~恵子~と言っているが、副部長は、もはや何も言わず、ただ睨んでいる。


ー私たちは、思った、次やらかしたら、部長は必ず殺されるー


部長もそれを悟ったのか、急にまじめな顔をして


「みんな、急に集まってもらってごめんね。実は、二か月後に、うちの部の定期演奏会が行われる予定なのは知ってると思うけど、そのプログラムの中に、新入部員だけで、3~4人一組でアンサンブルをやるように考えてるんだけどね。ちなみにこれは、うちの部の伝統イベントだから、私も、恵子もやったのよ、あの時の私はもう、ぴちぴちのイケイケでね…」


と、話が脱線し始めようとする瞬間、副部長は思いっきり足元の椅子を蹴飛ばした。


― ガーン ゴト ゴト ー


一瞬、静寂がその場を支配した。部長は、転がる椅子を眺めながら顔が真っ青になりながらコホンと咳払いをした。そして、ひきつった笑顔で私たちに視線を向けると


「こ、これから、そのアンサンブルのメンバー表を配ります、これは、各パートリーダーとの話し合いの上に、一番互いの成長のために必要だと思われるメンバーで構成してるので、反論は受け付けません。」


と、ロボットの様に棒読みで話した後、部長は、副部長の顔色を伺う視線を送ると、副部長は渋い顔で睨んでいた。及第点ではないが、物が飛んでこないので、赤点ではないらしい。副部長は、私たちに顔を向けると急に天使の様な笑顔で


「これから、プリントを配るからそこのメンバー同士でのミーティングを行ってもらいます、仲良く、よく話し合って、いい演奏ができるように、考えてね。」


その時、園田さんはサッと手を挙げて


「パートや選曲は、決められているのですか?」


と言うのを、副部長が聞くと、頷きながら


「完全に自由に自分たちで決めていいわ。音楽と言うのは、互いに全体が協力しあいながら、しなくてはならないの。その第一ステップと考えて欲しいわ。」


そして、私は、アンサンブルのメンバーが書かれた、プリントを見ると

1班 ・・・

2班 ・・・

3班 ・・・

4班 園田玲 吉田健 藤村創

5班

・・・


と書かれていた。その時、園田さん顔色を伺うと、ぱあっと明るい表情が出ていて私は、ホッと安心しながら、また、吉田君を探ってみると、園田さんとは真逆に吉田君らしくない暗く沈んだ表情で何も言わず、プリントをただ黙って眺めているみたいだった。


私は、恐らく部の運営が、敢えてわざと園田さんと吉田君を組ませたのだと実感した。そして、私にこの二人の仲を何とかしろと言う暗黙の命令が出されていると理解した。そうでもないと、昨日今日楽器を触ったばっかりの初心者が、中学の全国レベルの奏者と同じアンサンブルなんて考えられないのだから…


私は、宙を見つめながら、アンサンブルで、この二人をどうすればいいのか、呆然と途方に暮れてしまった。

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