第2話 出会いそして始まり

私たちは、廊下に掲示されたクラス分けの表を見ると、吉田君と私は、同じ1年B組だった。

吉田君は、私の肩に手を置いて、満面の笑みで


「創君、同じクラスだね。一年よろしくね。」


私は、かつての親友と同じクラスだというので、不安が勝っていた新入生生活が心なしか安堵する思いだった。緊張と不安で強張っていた私の顔も、この事実にいつの間にか笑顔に変わって


「吉田君、こちらこそよろしくね。」


と笑顔で返していた。


そして、仲良く二人で1年B組のクラスへと足を運んだ。


教室の黒板に掲示された席順を見ると、さすがに私たちは隣の席にとはならなかった。


私は、教室の中央で、吉田君は窓側の後方の席だった。


私は、席に座ると、ゆっくりと周りを見回した。


同じ出身の中学なのか、すでにいくつのグループが何組が出来上がっていた。


そのグループの中にある人に私の視線が釘付けになった。


小柄で、ショートヘアの笑顔がとても素敵な女子がまるで、夏の太陽の下のひまわりの様に輝いて見えた。その娘を見ていると自分でも、鼓動が早くなるのが嫌でも自覚できた。


「るくん…創君。」


私が我に返ると、吉田君が隣に立って、声をかけていた。


私は、まるで人生で一番恥ずかしい所とを見られた気がして、顔が真っ赤になるのがわかった。


吉田君は、私の視線の先を見ると


「あの娘が、気になるの?」


私は、吉田君の視線から逃げるように顔を背けると


「な、何でもないよ。」


吉田君は、笑いながら


「創君は相変わらずわかりやすいなぁ。そこのところは昔のまんまだ。」


私の心の手の内は、完全に見透かされているのを実感した。そして、私は最大の抗議の視線を吉田君に送った。吉田君は、私の肩に手を回して、顔を近づけると、急に真剣な表情で


「あの娘は、園田玲。僕と同じ中学でクラリネットの天才と言われているんだ。なんでも、親が、地元の大企業の社長で、県議会議員もやっているんだ。ほら、ローカル番組とかで見たことあるでしょ。園田県議会議員って。その人が親。玲は、昔から英才教育を受けて3歳からピアノ、バイオリン、クラリネットとやってその上、才能まであるから、中学1年からすでにクラリネットのソロのコンクールで全国優勝するくらいなんだ。ただ、あまり大きな声で言えないけど、プライドが高くて、気に入らいない人は、何でも社会的に殺すと言われているみたいだよ。僕も、中学で同級生や先生が学校に急に来なくなるのを何人か見たよ。人の恋路に土足で踏むのは、はなはだ心苦しいけど、僕は彼女をお勧めしない。」


私は、それを聞いてまるで自分が馬鹿にされ、けなされているかのような気分になって。きっと、吉田君を睨むと


「それは、あくまでも噂でしょ。絶対彼女を妬んだに違いないよ。僕は、あんなに無邪気に笑う娘が、そんなに酷いことするなんて思えないよ。」


吉田君は、頭を左右に振りながら


「信じるか、信じないかは、創君の自由だけど。僕は、忠告はしたよ。僕は、創君にはもっと普通の娘に惹かれて欲しいと心の底から思うよ。」


私は、視線を吉田君から園田さんに視線を送ると、彼女とふっと視線があった。


その時、彼女は、言葉にできないくらい暖かい微笑みを私に送った。私は再び顔を真っ赤にして、視線を外した。


「ねえ、君。名前何て言うの?」


隣にいたと思った吉田君はおらず、まさかの園田さんが僕の隣に立っていて、声をかけていた。


自分でも、心拍数や脈拍が上がってくるのが判る。


「僕は藤村。藤村創です。」


園田さんは、人差し指を自分の頬に指しながらしばらく考えた様子で


「ふじむら つくる?漢字でなんて書くの?」


私は、園田さんと仲良くなれる絶好の機会と覚えて。机から白紙のルーズリーフを出すと


「苗字は島崎藤村の藤村で、名前は創造の創と書くよ。ほら、これが僕の名前。」


と、自分の名前を書いた。園田さんは、私の書いた名前を見て


「創君だね。わかったわ。ありがとう。それでも、創君って字が綺麗ね。私、こんな風に書けないもの。もしかして、創君って頭いいの?」


私は、沸点に達した頭を左右に振ると


「そんな、大したことないよ。いや、本当に。」


園田さんは、私の耳に顔を近づけて、囁くように


「私、頭がいい男の人好きだなぁ。それと、もしよかったら、放課後音楽室に来てもらえないかしら。話したいことがあるの。」


私は、まさかの連続で、頭の中が完全にキャパシティーオーバーで発熱してしまっていた。私は、ただ頭を縦に振ると、園田さんは甘い声で


「それじゃあ、待ってるわ。」


と、言ってグループの中へ帰っていった。私の頭の中には、園田さんに存在を認めてもらった事実と、さらにその上に、個人的に話があるということで、まさに宙を飛ぶ思いになった。私の高校生活は、まさに明るい希望に満ちて前途洋々に見えた。私は分からなかったのだ。そのことが、その後の高校生活にどういう波紋が広がってしまうかという事を。

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