悲しみの果てに~涙に濡れた足跡を辿って~

スカサハ ランサー

第1話 空から注ぐ春の陽光

私は、中央公園の真ん中にそびえ立つ、クリスマスのイルミネーションに飾られたもみの木の下、私の魂は間違いなく確かに死んだのだ。膝を地面につけた私に、空からはまるで心を白く染める様に、優しく粉雪が、降り積もっていた。


 ーそう、私、藤村創は、、、今までの自分の魂は間違いなく完璧に死んだのだー


 私は、生まれも育ちも雪国の片田舎で、特に街の外の人には、わざわざ観光に来る様な、魅力的な産業なり、名所などない様な地域だ。それでも、20世紀末のこの街には、最近コンビニが増え始めて、スーパーや本屋、ちょっとしたデパートらしきものもある様な田舎の割には、それなりに栄えていると思う。


 しかし、あまりにも、面白みがない街の性か、大抵の若者は、高校卒業とともに、街の外へと旅立って、必然的に街には高齢化社会が、喫緊の課題となっていた。


 私は、地元で進学で有名な県立高校の入学に成功した。


 そして、今、高校初日の朝、身支度をしながら、新しい学生生活に夢を膨らませていた。


 どことなく、違和感を感じる制服に腕を通すと、私は、少しだけ大人になった気がした。


 私は、朝食をとった後、必要な教材にぬけがないか、学生カバンの中身をチェックして、時計を見ると朝七時半を過ぎたころだった。


 そろそろ、出発しないと。私は、行ってきます。と言って、私は、中学からの相棒の自転車にまたがった。鞄には、中学時代の誕生日プレゼントでもらったCDプレイヤーを忍ばせて、自転車を運転しながら、槇原敬之の「君は誰と幸せなあくびをしますか」を聴きながら、学校へと走った。


 春の新緑が芽生え始めた田園風景を眺めながら、歌声がBGMとなって、まるで、ちょっとした映画の主人公のワンシーンの様な明るい希望に溢れたひと時だった。


 今年は暖冬で、今年の三月にはほとんど雪が消えていて、四月の朝には、道路の脇や田んぼには、新しい生命が一生懸命、地面から顔を出し始めていた。


 また、通学途中の公園には、桜の花が咲き始めていた。


 朝の陽光と、澄んだ空気。


 そして、どこまでも広がる青空。


 私は、今までの一生で一番生きている実感が心の奥底までに照らされていた。


 通学路の途中には、同じ制服に身を包んだ学生が、何人か見受けられた。


 これから、彼ら、彼女らと同じ学校で、二度と繰り返されない貴重な高校生活をともにすると思うと、私は、これまでにない親近感が湧いた。


 私は、住宅街の小高い丘の一等地に建った新しい学び舎に着いた。


 駐輪場に相棒を停めると、学生鞄を手に昇降口へと向かった。


 腕時計を見ると、だいたい午前八時過ぎ、高校生活初日から遅刻はないみたいだ。


 外履きを、靴箱に入れると、背後から声が飛んできた。


「もしかすると、創君?」


 私は、振り返ると背が高く、細身で色白で眼鏡をかけた好青年が手を振っていた。


 私は、一体彼は誰だろうと、頭の中で高速で検索をかけた。あの、色白で利発そうな人は・・・


「もしかすると、吉田君?」


 私が、そう発すると彼は、満面の笑みで


「そうだよ、吉田健。久しぶりだなぁ。だいたい四年ぶりくらいかな?俺が、小学校5年で転校したからなぁ。いや、本当に懐かしいよ。」


 吉田君は、私が、小学校5年の時に、親の都合で、県外へ転校していった。彼は私の無二の親友で、よく放課後、彼の家へ行って、一緒にゲームをしたりした本当に気の合う友達だった。


「吉田君も、この学校だったの?」


 吉田君は、頭を搔きながら


「俺の親、他の学校にしろって言ったけど、夢のために、無理やり、ここに入学したんだ。お陰で、アパート一人暮らしで、朝には、新聞配達だよ。」


 私は、頭に浮かんだ疑問を何のためらいもなく


「吉田君の夢って、何?」


 と、条件反射的に言ってしまった。


 吉田君は、芯の強そうな、硬い意思を持った眼差しで私の瞳を見つめて


「俺、プロのトランペット奏者になるのが夢なんだ。この高校の吹奏楽部は、全国大会の常連だし、いい評価を受ければ、特待生として大学まで行けると思ったんだ。そして、いずれプロになって、多くの人を感動させるトランペット奏者になるんだ。」


 私は、彼と離れ離れになった4年のうちに彼は、昔と違ってだいぶ変わったと思った。


 私と違って大人だ。


 自分の将来を目指して、進む確固たる意志を持っている。私にはないものだ。


 私は、何の目標もなくただただ流されるまま、高校に入学して、親からの援助を受けて勉強をする。


 しかし、吉田君は、夢のために、自分の意志でこの高校を選び、誰からの援助も受けず自分で生活をしてる。


 なんだか、私はあまりにも子供で恥ずかしくなった。


 そんな、私の心を知ってか、吉田君は、励ますように


「創君、また高校でもよろしくね。」


 私は、彼とのこの出会いによって、自分の人生が大きくまた、いびつに歪んでしまうとは思いもしなった。ただ、私と彼の空から注ぐ春の陽光が、ただただ、暖かくこの出会いを祝福してくれているように感じた。

 この時の私は、これからが、いかに裏切りと絶望に染まってしまうという苦難の道だと、まだ知りもしなかった。

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