第13話 白兎少女とスライム娘
宿屋の部屋の中。目の前には長い白髪に赤い瞳。二つ名から『脱兎の如く』なんて言葉が思い浮かぶ。
私はうさぎさんなんだよぉぉお!? 寂しいと!! 4んじゃうんだよぉぉお!!? うわぁああああああああああ!!!
そんなことはない。そんな言葉は似合わない。そんな人ではない。
アリア・アークはウサギのような容姿で寂しがりというよりも一人でも大丈夫なタイプだ。むしろ、テンションなんて吹き飛ぶほどのテンションだ。
そんな女の子にスライム娘に捕まってからの一連の流れを説明した。魔物は危険、というような言葉を言いそうであったがしかめっ面した後に悩ましげな表情をした。
「難しい話はできないけど、リリム・ミリアムさんが悪い人じゃないのはわかった。あ、人って呼ばずにスライムって呼んだ方がいいのかな」
「さあな。どっちでもいいんじゃね?」
わりとどうでもいいことに悩んでいた。
「それで、そのリリムさんはどこにいるの?」
アリアはキョロキョロと周りを見回すように話す。パッと見ではこの場にいない。
とは言っても、再び剣に化けてもらっているリリムはこの場にいると言ってもいい。
俺は剣を床に置くと少し離れる。
「リリム、元に戻っていいぞ」
俺がそう言えばリリムが人間の姿に戻る。戻る途中の水が人間のシルエットになるところが魔法少女の変身シーンを思わせてセクシーだ。まあ、変身後に洋服を纏っても首元が緩いから視線は釘付けなんだけどな。
「あ、あの……、視線が……」
「ああ、悪いな」
リリムが身を捩らせて困った表情をする。
「はぁー。叩きますか?」
「やだなぁ、シャルさん。身体的教育なんてハレンチっ!」
「そんなこと考えているあなたがハレンチなんです!」
「ふげっ!!」
そう言われて杖で殴られる。埋められはしなかったが身体が吹き飛んで床を転がった。
「あはは、ユウリはいつも通りだね。……それにしても、やっぱり剣がリリムさんだったんだね」
「なんだよ、察してたのかよ」
俺は床に転がったままリリムの存在に気が付いていたアリアに話しかける。残念ながら頬が痛くて床に擦り付けたままなのでアリアの顔は見れていない。
「でも、この胸の大きさかー。ユウリが魅力されるのもわかるかも」
「ひゃあ! あ、あの……ひんっ!」
リリムの声の高い声が聞こえて来る。
「何が起きて、うがぁぁぁ!!」
全力で振り返ろうとしたら俺の頬をシャルの杖がぐりぐりと突き刺して来る。
「や、やぁっ! く、くすぐったいっ!」
「えへへ、いいじゃんいいじゃん。女の子同士だよ!」
「アリア、そういうのはこの男がいないところでやってください」
何がっ! 何が起きてるんだよぉぉぉおお!!!
「見たら怒りますからね」
「ふざけるなぁぁ、金髪ぅぅぅ!!」
「人を髪色で呼ばないでください」
「くそがぁぁぁっ!!!」
✳︎✳︎✳︎
次の日になり、目が覚めれば俺は簀巻きになって床で転がっていた。
……何故?
昨日の記憶を思い返せば、宿で二部屋だけしか取ってなかったため、女の子が一人だけ俺の部屋に来ることになり、俺は簀巻きにされたのだった。
一体、誰が来たのだろうか。
そう思い、無理やり立ち上がってベッドの上を見れば、無防備に目を瞑り、金糸の髪を枕の上に広げているシャルの姿があった。
「はぁー。こうやっておとなしいと可愛いんだけどなー」
思わず口からこぼれる。立っているといつ倒れてもおかしくないので座り込む。布団が薄いからなのか座ることは難しくない。
そうやってじっとシャルの寝顔を見ていると、彼女の目がぱちりと開いた。……目が合う。
そして、上半身だけ起き上がると大きくあくびをして目を擦った。再び目が合う。不思議そうに首を傾げた。首を傾げた時に結んでいない彼女の髪が揺れて日差しに反射してきらめく。
「ああ、そういえば、私がお邪魔したのでしたね」
思い出したようで顎に手を当ててこちらを見た。
「おかげさまで、あんたが起きるまでこの格好だ」
「?」
「そこで疑問そうにされると不安になるだろ! え、俺の簀巻きを解いてくれないのか?」
「私を襲う可能性がありますよね?」
「どうしても疑うならそうするかもな」
俺が睨みつけると彼女は得意げな表情になり、俺の簀巻きにしてきる紐を解き始めた。
「そんなことできるのですか? 意外と小心者なあなたから襲われる想像ができませんね」
「……ずいぶんとなめられている。でも、事実もあるから否定ができない」
「認めてしまうのですか?」
彼女は鼻で笑う。その姿は俺の背中の紐を解いているので見えない。
「さて、解き終わりましたよ」
「お、サンキュー」
俺は簀巻きに使われていた布団を剥がして歩こうとしてつまづく。まだ足が縄で縛られていたのだ。
そのまま倒れ込む時にシャルを巻き込まずに済めばよかったものの、彼女が何故か手助けをしようとして巻き込んでしまう。
バタバタッと音がして、シャルの上に俺が被さった。
床に散らばる金糸の髪の毛。その中心にある整った顔立ち。紺碧の瞳にぷっくり膨らんだ唇。すっと通った鼻にわずかに赤く色づく頬。
……顔が近い。
両手の力を抜けば、そのままぶつかる。彼女の両手に力を入れれば、より近づく。
そんな距離感だった。
だから、恥ずかしげな彼女が綺麗だと、さらにわかった。
「……邪魔です」
「……わりぃ」
ラブコメディの神様もたまには仕事をする。
……しかし、きちんと謝り、退こうと思う。そう思った瞬間には部屋の扉が慌ただしく開き、二人の女の子が入ってきていた。
「シャル! 大丈夫!?」
「シャルさん! 大丈夫ですか!?」
シャルを心配する声が二つ。簀巻きにされた俺の心配はないようだ。普段のおこないかなぁ。
「ユウリ! 大胆すぎるよ!」
「やっぱり、そういうのって早すぎると思います!」
二人の言葉に謝るタイミングを見失ってしまった。シャルも呆れたように大きく首を振っており、俺はシャルから離れた。そして、足についた紐を解くと、勘違いしている二人に弁明なしでシャルに話しかける。
「悪いな、シャル。足にも紐が巻きついてたわ」
「いえ、気にしないでください。私も付けたことを忘れてました」
お互いに言葉数少なめに謝罪すると顔を合わせることなく、朝の準備を始める。
それを見ていたアリアが目を輝かせる。
「もう一線越えてからの朝みたいだね! 私の知らない時に何かあった!?」
「何もねぇよ!」
アリアの言っているもう一線ってなんだよ。どの一線も踏み越えてないんだよ。
「……大人な対応。むしろ、それが自然としたエ◯チ後の朝なの?」
「直接的過ぎるだろっ! もっと包み隠してくれっ! それに、そんなことしてないっ!」
それがさっきの一線の話じゃないのかよ。リリムが察してないだけなのか!?
「私はイチャイチャ後ソムリエだけど、まだまだ実力が足りないみたいだね」
「そんなソムリエは不必要だ!」
悔しそうなアリアにそもそもそんなことする必要がないと伝えるが伝わっただろうか。
「たしかに扉の前までは匂いがしてたのに。イチャイチャの香り……」
「どんな匂いだ。朝まで二人にして楽しんでたのはアリアだろ」
「おもちゃ箱開ける感覚に似てる!」
「人をおもちゃ扱いしないでくれ」
気を取り戻したアリアが意気揚々と話すが、俺はそれをじと目で睨みながら答えた。
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