第9話 転生少年と事件解決



 スライムを倒しながら森の中を探索する。シャルのサポートにアリアの正確な攻撃、俺はその攻撃漏らしを対応して進んでいく。


 まあ、俺はほとんど何もしてないんだけどね!


 とは言っても数が多い。俺らがやってきたとしても村人だけでこの数のスライムを倒すのは難しいとは思う。


 つまりは討伐の人材が必要なのだ。おそらく農民の村人がスライムを倒すには力不足。イノブウの時と同様にギルドに依頼を出して討伐してもらうのが良いだろう。


 森の中を探査し終えて教会裏へと戻ってくる。


「特にスライムの発生源になりそうな場所はありませんでしたね。数が多くて手一杯だったというのもあって見落としはあるかもしれませんが、可能性はほとんど低いと思います」


 シャルの言う通り、森の中にはスライムが自然発生しそうか条件を満たす場所はなかった。こうなってくると、とうとうスライムが現れる原因がわからなくなってしまった。


「お手上げだな。しばらく様子見だな」

「賛成かなー。とりあえず、今日は宿に戻ろう」


 俺の言葉にアリアが賛同して宿に戻ることになった。


 このまま原因不明で報告してもいいが、スライムが出現し続けているので、下手に村から離れることもできない。


 討伐できる人がいなくなってしまうから、その討伐する役割を俺らが担って数日が経った。


 宿でぐうたらと眠っているとシャルが部屋の中に入ってきた。


「スライム討伐の続きに行きますか」

「面倒くさい」


 いつしか思わずこんな言葉が溢れていた。スライム討伐を始めて五日目だ。シャルはなんで毎日同じような生活に飽きないだろうか。


 飽きてお金に余裕ができれば仕事なんて休むものだ。この仕事中はお金なんて入ってこないけれど……。

 だから、シャルのように愚直に働き、さっさと終わらせるのは間違っていないのだが、面倒なものは面倒なのだ。


「んじゃ、早速教会へ行こう!」

「……ほんの数時間に一度だけスライムが現れるだけだぞ?」

「それでも全力を尽くすことには事足りませんよね」


 テンションの高いアリアにじと目のシャルへ大きく息を吐き出す。


 全力を尽くす。とても苦手な言葉だ。一生懸命になれば、なんでも願い事が叶うなんて妄想の域でしかない。現実はいつだって叶うことしか叶えないし、全力であることは疲れる。


「現状は何も変わらずに教会と宿屋の往復を繰り返しているだけだ」

「それでも困っている人のためになんでもやらなければ……」

「そうだな。でも、今回の依頼は原因を特定することだろ?」

「そうですが手がかりは何も見つけられてませんよ」


 原因を特定するための手がかりはこの五日間で何も得られていない。教会裏の森がスライムの自然発生する条件を満たしてない。


「それなら今の情報だけで推論立てるしかないだろうなぁ」

「その情報も大したものじゃないですよ」


 俺の言葉にシャルがそう言って眉間にシワを寄せた。


 この五日間、スライムは毎日現れていた。森の中を掃討したと思われる数を倒している。それにも関わらず出現し続けていた。


 やはり、森の中でスライムが発生する原因がある。新しく生まれるスライムがいるということだ。


 スライムは森の中、教会裏、礼拝堂とさまざまな場所で発見されている。それぞれの場所でスライムの発生条件を満たしそうなところはあるが、日没間際など限定的な条件になり、多くの数が発生するとは思えない。


 だから、シャルが大した情報がないというのもわかる。しかし、一つだけ可能性がありえる。


「なあ、村人の名簿とかってどっかで貰えたりするのか?」

「村人の名簿ですか? ……住人名簿なら村長に聞いた方がいいかもしれないですが、だいたいは公民館や役所のような場所で管理していると思います。ですが、それを何に使うのですか?」


 シャルが不思議そうに首を傾げる。アリアも予想が立っていないのだろう。俺の顔を眺めているだけだ。


「スライムっていうのは変幻自在。何でも大きくできちゃうんだぜ」

「一体、なんの話ですか……」


 シャルは大きくため息を吐いて、呆れた表情をしていた。


 この世界の住人である二人は気が付かないだろう。前世の記憶を持つ俺だからこそ気が付けることかもしれない。


 そもそも、そんな存在自体が存在しないかもしれない。


 でも、可能性がゼロでないのなら証明できるまで疑うまでだ。



 ✳︎✳︎✳︎



 教会の礼拝堂。信者にとって神聖な場所であり、神へ祈りを捧げる場所でもある。


 いくつもの長椅子が一定間隔に並べられて、そこに座って祈りを捧げるのだ。名前を呼ばれれば祭壇の前で祈りを捧げることが許可されて主神ニケへ願いを伝えることができる。


 それが誰かを救うための祈りであれ、自分を断罪するための祈りであれ。


 主神ニケ。各属性魔法を生み出した神を生み出した神である。つまりは創造主であり、最高神だ。


 最高神へ祈りを捧げる舞台として礼拝堂は最も適した場所になっている。


 村の教会。礼拝堂の祭壇の前。祈りを捧げるひとりの信者の姿がある。


 水色の髪の毛に目尻は柔らげに下がり、両膝を地面につけて祈る姿はとても美しくて似合っていた。


「神様への祈りは十分か?」


 礼拝堂の入り口から俺は水色の彼女へ近づく。彼女は声に驚いたように祈りをやめて振り返った。


「あ、すみません。替わりますね」


 俺を信者だと勘違いした彼女は順番を替るために立ち上がった。


「別に祈りに来たわけじゃないから替わらなくて大丈夫だ。俺はあんたに話があったんだ。リリム・ミリアムさん。……いや、スライム娘と呼んだ方がいいか?」

「……」


 俺の言葉にリリムは目を細めた。


「私が魔物だと言いたいのですか?」

「まあ、そうだな。あんたはこの村の住人とでも言いたいのか?」

「……そうです。私はこの村の人間です」

「嘘ならバレないようにするもんだぜ。……この村の住人名簿を調べた」


 俺の言葉にリリムは眉間にシワを寄せた。


「あんたの名前、なかったぞ」


 俺が村の住人名簿を調べた理由は半年前から増えた信者と名前を比べるためだった。


 情報不足でスライムの発生原因がわからなかった俺は、持っている情報だけでなんとかできないのか考えていた。


 その時に思い出したのは、半年前から熱心な信者が増えたこと、スライムが分裂して個体数を増やすこと、スライム娘は変幻自在だということだ。


 最後の情報は前世のくだらない記憶であり、そんな存在があるのかな程度であった。名簿を照らし合わせてリリム・ミリアムが住人ではないと浮上した結果、可能性としてスライム娘がいるのではないかと推測したのだ。


「あんたはこの村の住人ではない。他の村の住人だとしても熱心な信者になって、この村へ通ってくる必要なんてない。しかも、あんたが熱心に祈り始めてからスライム事件が発生している。全く無関係だとは思えないぜ」


 リリム・ミリアムがスライム娘なら彼女の分裂で新しいスライムが生まれて、それがさらに新しいスライムを生んで……。それを繰り返して数が増えていったのだろう。


 スライムを生み出すスライム娘という存在が実在するのかわからないが、推測するなら一番きれいに話が収まる。


 不安材料とすれば、スライム娘の存在をシャルやアリアは知らなかったことぐらいだ。


「あんたがスライム娘。スライム事件の原因だ」


 最高にクールな決め台詞を言って、リリムと真剣な表情で見つめ合う。


 一瞬。まばたきの一つでさえも長く感じるように時間が流れた。リリムは諦めたように大きく息を吐き出した。


「……そうです。私がスライム事件の原因です。スライム娘、と呼ぶのでしょうか? 擬態するスライムが私になります」


 リリムが目の奥を光らせて鋭く睨む。


「私がスライムだと知って、あなたは何がしたいのですか?」


 そう言ったリリムは肩の力を抜いたようにだらけさせた。その肩から伸びる腕が長くなっていき、地面へと接着する。


「スライムだって知っていて、することは決まっているだろう」


 ぶっちゃけ正解するとは思わなかったので、どうするのか決めてない。それでも雰囲気でカッコつけたままでいたい。


 リリムの地面に接着した腕は液体になり、水溜りとして大きく広がっていった。その液体は水色でぐにゅぐにゅしている。


 そして、スライム特有の体液がいくつかの節になってこちらへ飛んでくる。それを一つ一つ丁寧に交わしていく。


「大丈夫ですか!?」

「ユウリっ!!」


 背中から一緒に来ていた勇者一行の声が聞こえる。二人には入り口で待機してもらっていた。


「ぐっ! くそっ!」


 スライムの液体を交わしていたが数が多く、交わしきれなくなってリリムに捕まってしまう。


「そうなるなら、なんで一人で行くと言ったのですか!」


 シャルが怒ったような言葉で杖をリリムへ向けた。


「一人で犯人を追い詰めたらカッコいいからに決まってるだろ!!」

「死にたいんですか!? バカ!」


 ごもっともである。


 おかげさまで俺はスライムの体液で簀巻きにされてぶら下がっている。


「そもそも、あんただって了承しただろ!」

「そんなの、あなたが……自身満々だったからです!」


 シャルはそういって俺から目を逸らす。


 そういえば、『俺一人で行かせてくれ。あんたを危険な目に合わせたくない。俺はあんたの護衛だ。ちょっとは護衛らしいところを見せさせてくれ』とか言ってカッコつけたっけ。今となっては確実に死亡フラグでした。

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