第8話 転生少年とスライム事件



 入信者の名前を聞く以外にも庭に植えた新しい花やヨゼフ自身の生活がどうなのかを聞いていく。

 何が手掛かりになるかわからないからメモは欠かさずに取っておく。


 そうして、事情を聞き終えると教会から出たところで二人と話し合う。


「手掛かりになりそうなものはありませんでしたね」

「うん、そうだね。話だけじゃどうにもわからないね」


 二人はそう言って考えるような仕草をした。その意見には俺も同意である。メモは取ったものの、これといった原因のようなものはなかった。


「スライムの発生場所って水場やじめじめした日陰だろ? 教会裏ってどうなってるのか見てみるか?」

「ええ、それがいいですね」


 話だけでは原因が分からず、スライムの発生源になっていると思われる教会裏へ移動した。


 教会裏は日陰になっている。教会裏にある森と教会に囲まれて日が届いてないようだ。

 じめじめしているのかと言われるとそんな気がするし、そうでもないかもしれない。


「わかんねぇな」


 これが正直な意見だ。俺が冒険者を経験した一年程度だけではわからない。


「そうだね……。これだけじゃわからないね。発生しそうだし、しなさそうだし……」

「近くに水場があれば話は別ですが……」


 シャルはそう言って森に足を踏み入れる。そして辺りを見回す。


「どうにも見つけられないですね。ここより深く入ればあるかもしれませんが、念のために装備と持ち物を確認した方がいいですね」


 シャルは戻ってくるとそう言った。


「装備って言っても……」


 俺の装備は片手剣に革の胸当てと道具も簡単な医療道具、魔法を使う際に使っている魔石が埋め込まれた指輪が五つ。あとは生活に必要そうなものだけだ。基本的には軽装備と言われる格好をしている。


 アリアは頭身の細い剣に銀色の胸当てと腰当て、脛当て、とパッと見は軽装備と重装備の中間。むしろ、神速の剣士と呼ばれるには重そうな格好をしている。


 シャルは白のフード付きローブ。足元まで長さがあるので内側に何を装備しているのかわからない。しかし、身長より少し小さな杖を持っているので、魔法使いか僧侶のどちらかなのは見た目でわかる。そうでなければ不審者だ。これが聖女聖女……はんっ!


「バカにする視線を向けるのはやめてくれませんか?」

「してましぇーん」


 頭を殴られて身体を地面に埋められた。……アリアさーん、笑ってないで助けてくださーい!


「まあ、生活品もまだ持ち歩いているので一度村長から借りた宿へ向かいますか」

「あの埋まってるんですけど」

「そうだね! 賛成かな」

「埋まってまーす」

「では、行きますか」

「うん!」

「置いていく流れだと思ったよっ!!」


 俺を置いて二人は宿へと向かい始めた。一人取り残されて穴から出ていけるかと言えば問題ない。……時間をかければ。


 置いてかれてから自力で抜け出し、全速力で二人を追いかける。宿まで来ると二人にようやく追いつき、彼女らは必要な荷物を整えている最中だった。


 俺も生活品を宿に置いて教会裏の森へ必要な荷物を確認した。


「これでいいか」


 特に整えるものもなかったので簡単な荷物の確認をして終えた。


 荷物の確認を終えて宿の前に行くとシャルとアリアが待っており、どうやら一番最後になってしまったようだ。まあ、埋められていた時間を考えれば当然だな。


「遅いねぇ、ユウリ」


 アリアがニヤニヤしながら言ってくる。彼女はわかってて言っているのだとすぐさまわかった。


「では、行きますか」


 シャルの言葉で教会裏へ再び向かい始めた。


 スライムの生態については、おそらく俺よりも魔王討伐で冒険していた彼女らの方が詳しいだろう。


「なぁ、教会裏の森に水場がなければ、原因って何かわかるのか?」

「……そんな見てもないことを考えても仕方ないでしょ」


 俺が訊ねるとシャルはそう言って呆れた。


「んなもん、見てなくても予想ぐらいは立てるだろ。……んで、水場もない、あのじめじめぐらいではスライムは発生しなさそう。それ以外では何か原因って思いつくのか?」


 呆れるシャルに俺は不快げに見ると彼女は考えるように顎に手を当てた。


「特に思いつかないですね」


 考えて答えた彼女に俺も困る。原因特定が依頼の内容だ。それなのに原因として思い当たることが見つからない。やはり、この依頼は時間がかかるかもしれない。


「スライムってぐにゅぐにゅしてて戦いにくいよねぇー」


 アリアが目を細くして口を尖らせた。剣士から見たら斬ると再生するスライムは面倒だろう。とは言っても、打撃系の攻撃も効きづらい。


「スライムは魔法攻撃が有効ですからね。アリアは戦いにくいですよね」

「そうなんだよ! スライムには核があるとは言っても分かりにくいし! それにうまくいかないと増えるし!」


 スライムは核を斬られると再生せずに消滅する。しかし、核のない部分は斬られると新しい核を作って再生する。つまり、スライムは核を斬らなければ分裂して増えていく。


 スライムってRPGだと初期に出てくる魔物で弱いはずなのに現実で出てくると意外と強い。攻撃しても再生するし、下手に攻撃すれば分裂して増える。


 魔法攻撃ならばスライムの身体部分に直接ダメージを与えて消失させるので再生することも分裂して増えることもない。


「まあ、シャルに魔法攻撃を……」


 そこまで言い淀んで思い出す。シャルは攻撃全般ができない。俺も一応剣士職なので倒すことができない。


「私は魔法攻撃をできないですよ」

「そうだった」


 シャルはじとっと俺を見る。アリアは困ったように頭に手を当てた。


「……なら、俺がやるよ」


 俺の持ち物には魔石が埋め込まれた指輪を持っている。つまり、魔法攻撃ができないわけではない。


「え、できるの?」


 アリアが疑問系で聞いてきたが、俺は何も言わずに頷いた。


 宿から出て数十分して教会裏に戻る。


「では、行きましょうか」


 シャルの一言で森の中へと入っていった。


 周りを警戒しながら森の中を進んでいく。ぶっちゃけ、教会裏の小さな森なので魔物が出てくること自体が変なことかもしれない。


「今まで教会近くに魔物が出ていたと思うか?」


 俺は二人に訊ねる。俺自身、魔物が出ていたとは思えない。


「うーん? スライムが出てきたとは言っても他の魔物はわからないんじゃない?」

「そうだな。俺もそこは事実として不十分だ」


 アリアの言葉に俺自身の見解を答えていく。


「でも、今までも魔物が出てきたことがないんじゃないか? そこはギルドに聞いて調べる必要はあるけど、村の中にある教会だ。村はずれなら現れるかもしれないけど、村の中心地からほとんどはずれてないんだぜ。魔物が出ていたとは思えない」


 そもそも魔物は人間の管理していない土地から発見されることが多い。魔物の発生源は魔力の集まり方や発生条件の達成やら色々な理由がある。


 いくらか条件があると言っても人間が管理している土地で発生することはあまりない。だから、この教会にはスライム以外に魔物が発生したことはなかったのではないのかと思っている。


「たしかに村の中に魔物が発生したことないかも!」

「あくまで前例がないだけですよね。とはいえ言い当て妙なのが否定できないですね。おかしなことがおかしなことになっているというのには賛成できます」


 シャルとアリアが同意してくれると同時に目の前に魔物が現れる。噂をすればなんとやら、まさにスライムが八匹ほど現れたのだ。


 それをシャルは魔法のバインドで動きを止めてアリアがスライムの核を斬りつけて倒す。……いや、核が分かりづらくて倒しにくいとか嘘だっただろ。


 それでも倒しきれないスライムがアリアに向かう。それを俺は剣で弾き飛ばす。追い討ちに反応したアリアが核を斬りつけて倒すと八匹なんてすぐに倒し終えた。


 ……いや、正確に倒しすぎじゃない? シャルの束縛魔法も正確だけど、アリアの剣捌きも正確にスライムの核を斬りつけている。


 これが勇者一行の力なのか。


 そんな力の差を見せつけられている気がする。そもそも、魔法攻撃なんて必要ないじゃないんか。

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