第4話 家出少女とギルドマスター



 眠ることも諦めてシャルと一緒に冒険者ギルドへやってきた。


 ホワイトタウンの冒険者ギルド。冒険者にとってのはじまりの街、ホワイトタウン。そこの冒険者ギルドは初心者から教習者まで幅広い層の人がいる。


 ギルドの建物へ入ればモヒカンやスキンヘッドの世紀末みたいな猛者がいれば、紺色ローブの女の子や銀色の鎧に身を包んだ女の子もいる。つまり、女の子らしい女の子がいる。


 それに比べて隣にいる彼女は……身長はともかくちんまりしている。


「ん? 何かムカつく気配がしますね」


 どんな気配だよ。そういう種類のス◯ウターでも付けてんのか。昆布で戦闘力を測っちゃうような特別性なのか。そうするとお前の戦闘力は低そうだよな。残念だが、あのスカ◯ターは女の子をO(オッパイ)で測っている。


「何がムカつく気配だよ。カルシウム足りてるのかよ」

「かるしうむ? 一体、なんの話ですか」

「あいあい。……この世界ってカタカナ語使えないのか」


 そもそも五大栄養素って発見されてないのか? 異世界って中世ヨーロッパを舞台にした作品が多いし、この世界もそんな雰囲気がある。

 俺も栄養素が発見された時期なんて知らないし、ぶっちゃけ興味もないから、行き当たりばったりな会話になってしまう。


「あなた、たまに意味のわからないこと言いますよね。バカにされている気分です」

「あー、ごめぇんね」


 犬系な人物が如く謝罪するとシャルに杖で頬を突かれジトっと睨まられる。


「そのまんま俺の妄言だからいいんだよ」

「頭の病気でしょうか。心配です」

「煽るのは一流だな」


 シャルがため息を吐き出し俺が睨み返す。それを見て彼女は満足したようで、そのまま受付に向かった。


「おー来たか、二人とも」


 受付でオリバーが俺のことを待っていたのか、手元にある資料を読むのをやめて視線をこちらへ向けた。


「叔父さん。依頼をください」

「叔父さんではなく、お兄さんと呼びなさい、シャル。それよりも先に質問がありそうな奴がいるから、あとでだ」

「……そういうところは気持ち悪いですよね。……わかりました」


 俺以外にも辛辣なところを初めて見た。そもそも俺とオリバー以外に会話しているところを見かけたのが少ない。案外、誰に対しても辛辣なのかもな。


「それでユウリは何が聞きたいんだ?」


 ニヤニヤとオリバーは俺を揶揄うかのように笑う。


「緊急依頼で護衛とか意味わからないんだけど。お前が元貴族っていうのも初耳だし、それとシャルの依頼報酬金ってどうしてるんだよ」


 とりあえず、聞きたいことをまるっと聞き出してみる。


「盛りだくさんだな。まずは依頼報酬金は俺が代わりに積み立ててる」

「つまり、返却しようとしたお金をオリバーが貯めてるのか?」

「そうだ。報酬金を安くして次も安くしろと依頼者に言われたら堪らないからな」


 オリバーが遠い目をしてお腹を押さえている。あれは既に依頼者から問い合わせが絶えないようだ。


「そしたら緊急依頼については?」

「あーそれか。それはな」


 遠い目をしていたオリバーが楽しそうに俺を見る。


「単純にお前をギルドから追い払えるからな。ダラけられると邪魔じゃんか」

「俺がいない方が平和とでも言いたいのか!?」

「そりゃあ仕事の邪魔が無くなれば平和だろ」

「薄情もの!」

「逆の立場なら邪魔するユウリの方が薄情に思えるけどな」


 オリバーはそう言って大きく息を吐いた。仕方ないからしくしくと泣いたふりをしたが無視される。


「あともう一つ質問あったな。……俺が貴族だった話は聞いて面白いか?」


 オリバーはつまらなそうな顔して俺に聞いてくる。あまり聞かれたくない話題なのは理解しているが、どうにも知らないと納得できないような気がする。


「面白いかじゃなくて気になるから聞くだけだ。嫌なら話さなくてもいいけど」

「いや、別にいいよ。けど、期待に添えるかわからないぞ」


 そういうとオリバーはぽつぽつと話し始めた。


 オリバーは旧名リオン・シュバリエと言い、シュバリエという貴族の家で三人兄弟の真ん中だったそうだ。

 そのうち家名を継いだのは弟で、兄とオリバーは離縁して平民と結婚したそうだ。

 兄は駆け落ちで知らぬ間にいなくなり、オリバー自身は父親に婚姻について物申して正式に離縁を言い渡されたそうだ。


「つまり、シュバリエ家は弟に継がせて、オリバーは好きな人と結婚するために勝手にしたってことであってるか?」

「まあ、そういうことだな! 兄さんは駆け落ちで突然消えたから俺も後腐れないぞ!」


 兄二人が好き勝手にすると残された弟は苦労しただろうなぁ。可哀想に、と拝みそうになる。


「そうするとシャルはオリバーの弟の娘ってことか?」

「そうだなぁ。家系図上はそうだろうな」


 ……家系図上は? 混み合った話でもあるのだろうか。


「私はオリバー叔父さんの兄の子供ですが、わけあってシオン叔父さんに引き取られました」

「ふーん」


 オリバーの言葉に付け足すようにシャルが説明する。シャルの言うシオンというのがオリバー弟のようだ。


 それにしても、わけあって、ねぇ……。聞いていいのかもわからないから興味があっても聞けない。コミュ力の神様ならパピプペポとか言えば聞き出せるんだろうな。


「とりあえず、オリバー兄の娘がシャルで、わけあってオリバー弟が引き取ったってことでいいか?」

「それであってる」


 俺の理解があっていることで、ある程度のわけあり事情に察しがつく。


 おそらくシャルの両親は亡くなり、オリバー弟のシオンが彼女を引き取ったのだろう。

 深く追求するのも野暮というものなので話を聞くのはやめることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る