第2話 モンスター図鑑


 死にそうになりながらも、なんとか命からがら、僕は街までたどり着いた。

 正直、体力の限界だ。

 ゴブリンたちがいなかったら、どうにもならなかっただろう。


 ゴブニとゴブサンは街の近くの森に待機させ、ゴブイチだけを護身用に連れて歩く。

 リルムはポケットに入れて、街に入る。

 スライムは多少の大きさなら自由に変えられる。

 

 疲れていたので、とりあえず適当な宿をとって、部屋で休むことにした。


 

 10時間くらい寝ただろうか。

 

 

 起きてご飯を食べて、また寝て、ようやく疲れが取れた感じがした。


 それだけ心身ともに弱っていたのかな。

 仲間たちから見捨てられたという事実は、思ったよりも堪えているのかもしれないな。

 だけど、いつまでも落ち込んでもいられない。


「さて、これからどうするかなぁ……」


 僕はほとんど空になった財布を眺めて、ため息をつく。

 役立たずのテイマーの僕に与えられた報酬は、せいぜいその日の宿代と食費をなんとかまかなえる程度だった。

 一日クエストに行かなければ、資金も底をつくというもの。


 けど、僕一人になっちゃったし、どうやってお金を稼げばいいだろう。

 冒険者をやろうにも、すぐにパーティを組めるほど、僕は優秀じゃないし。

 もちろんソロで冒険者なんか、絶対に無理だ。


 僕にはなんの伝手も能力もない。

 けど、生きていくためには安定したお金が必要だ。

 とりあえずまとまったお金が手に入ればいいんだけど。


「もうこうなったら、これを売るしか……」


 僕は荷物から、一冊の古びた本を取り出す。

 その本は、もはや煤けて、なにが書いてあるかも読めなくなっている謎の本だ。

 故郷を旅立つときに、おじいちゃんがくれた本。


 もしものときには、この本が役に立つって言ってたけど……。

 たしか世界に一つしかないって言ってた。

 そんなに貴重な本なら、売ればそれなりになるかもしれない。

 でも、おじいちゃんがくれたものだし、売るのもなぁ……。


 しばらく僕が本を眺めて葛藤していると――。


「きゅいー!」

「あ……!」


 スライムのリルムが僕のポケットから飛びだして、本を持っていってしまった。

 リルムは好奇心旺盛で、普通のスライムとはちょっと違う。


「ちょっとリルム! それは大事な本だから、返して!」

「きゅいー?」


 すると、なんとリルムはその本を飲み込んで、溶かしてしまった。


「リルムーーーー!!!?」


 スライムはその肉体になんでも取り込んで溶かしてしまう性質がある。

 どうしよう……唯一の頼みの綱だったのに……。

 しかしその直後、リルムの身体から、一冊の本が飛び出してきた。


「きゅいー!」

「うわ……!? なに……!?」


 リルムの身体から出現した本は、さっきの古びたボロボロの本とは違う。

 一変して、すっかり綺麗になって、新品同然の立派な本が、そこにはあった。


「リルム……もしかして、綺麗にしてくれたの?」

「きゅいー!」

「わぁ……! ありがとう……!」


 一瞬、リルムがお腹空いて食べちゃったのかと思ったけど、違ったんだね。

 でもまさか、スライムが本を綺麗にする能力を持っているなんて、知らなかったよ。

 これで新品同様になったから、さらに高値で売れるかもしれない。

 

 僕は新しくなった本を手に取ってみた。

 するとそこには、見たこともない文字が書かれていることがわかった。

 今まではボロボロでなにも読めなかったけど、これなら……読める……!


 って……なんで!?

 なぜだろうか、見たこともない文字のはずなのに、なぜか読める。

 僕にはなぜか、それをスラスラと読むことができた。


 表紙には、こう書かれていた。


「モンスター……図鑑……?」


 僕は図鑑のページをパラパラとめくってみる。

 図鑑は1ページごとにいろんな種類のモンスターが書かれていて、その生態などが詳しく描かれている。

 まずモンスターの色や見た目が精細な絵で描かれていて、その下に生息地や、特殊スキルなどの情報が書かれていた。

 しかも、モンスターをテイムするための条件などまで書かれている。


「すごい……これって……全部本当のことなのか……!?」


 これだけ精細なモンスターに関する情報は、まだ誰にも知られていない。

 街で売ってるようなモンスター図鑑で、ここまで詳しいものは見たこともない。

 こんな情報、一流のテイマーでも、モンスター研究者でも、絶対に知らないようなことまで書かれている。


「いったい誰がこんなすごい本を書いたんだろう……」


 僕はしばらく夢中になってページをめくった。

 すると、気になるページを見つけた。


「これ……もしかしてリルム……?」


 そこにはリルムとそっくりなモンスターが描かれていた。

 普通のスライムは緑色だが、リルムは輝く透明なブルー。

 まるで透き通った水のような色をしている。

 こんなスライムは、リルムの他には見たことがなかった。

 けど、その図鑑にはリルムと同じ姿のモンスターがはっきりと書かれている。

 

 その名前は――。


「ゴッドスライム……?」



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