[パイロット版]追放された最弱テイマーは最強すぎる「モンスター図鑑」で無双する(仮)

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話 その追放されたテイマーは……


 僕の名前はティム・ナリアガル。

 冒険者パーティ【金色の闇】でテイマーをやっている。

 僕たちは今日も無事にクエストを終え、街への帰路を辿っていた。

 

 もう3時間も馬車に揺られていて、お尻も痛くなってきたころ。

 パーティリーダーのサイアック・ハツメルスはいつにもまして不機嫌だった。

 今日のクエストは思ったよりも苦戦して、ポーション代で赤字になってしまったからだ。


「なーんで俺がこんなに頑張ってるのに、もっと上手くいかねえんだろうなぁ? おかしいだろ。俺はめちゃくちゃ強いのによぉ! 誰かさんが足を引っ張ってるからなんじゃねえの?」


 サイアックはまるで僕のことだと言わんばかりに、こちらをにらみつける。

 たしかに僕はテイマーとしてまだまだ未熟だし、肩身が狭い。

 僕を不憫に思ったのか、回復術師のアリシア・コーカイスがサイアックのことをとがめる。


「ちょっと、そういうのやめなって」


 しかしその一言はサイアックにとっては火に油だったようだ。

 

「はぁ? 事実だろ、ティムが足を引っ張ってるのはよぉ。だいたい、なんなんだよ。テイマーっていうから期待したのに、その雑魚モンスターたちはよぉ!」


 サイアックは、僕の後ろにずらりと並ぶ仲間モンスターたちをにらみつけた。

 仲間のゴブリンたちは申し訳なさそうに肩を落とす。

 ごめんね、みんな。

 僕が不甲斐ないばっかりに……。


「もっとたくさん強いモンスターとかテイムできねえの?」

「それは……僕の魔力が少ないから、無理だね……」

「はぁ……つっかえねぇなぁ」

「ごめん……」


 モンスターをテイムするには、そのモンスター以上の魔力が必要なのだ。

 もしくはモンスターごとに設定されたテイム条件を満たす必要がある。


 僕がテイムしているのは全部で4体。

 スライムのリルムとゴブリンが3体だ。

 まあリルムはスライムとはいっても、普通のスライムとはちょっと違うんだけど……。


「てかそのスライムくびにしろよ。どうせ使えねえんだからさぁ」

 

 サイアックがリルムに厳しい目を向けると、リルムは委縮して僕の後ろに引っ込んだ。

 リルムは戦闘能力は皆無だけど、いくらなんでもその言い方は酷いと思う。

 怖いけど、僕は言い返す。


「だ、ダメだよ……。この子は大事な子なんだ」

「ふん、しょせんただのスライムだろ」


 サイアックにとってはそうかもしれないけど、僕にとってリルムは最初にできた友達なんだ。


「ゴブリンも雑魚のくせに無駄に食費はかかるしよぉ。いらねぇって、こんな小さくてキメェ緑のオッサン。こんなの弱すぎて肉壁にしかなんねえだろ」


 言いながら、サイアックはゴブリンのことを蹴る。

 ゴブリンは明らかに嫌がってる。

 こんなの酷すぎる。


「や、やめろよ……。嫌がってるじゃないか」

「はぁ? なに言っちゃってんの? お前、アホなの? モンスターなんかただの駒だろ? それに嫌がるとか、マジで言ってんのか? せめてストレスの捌け口にでもならねえとマジで無能だからな」

 

 サイアックは僕のいうことを無視して、さらにゴブリンに暴力を振るう。

 こんなの、いくらなんでも許されることじゃない。

 ゴブリンたちの主として、僕は黙っていられない。

 この子たちは僕が守ってやらないと。


「やめろって!!!!」


 怖いけど、僕は精一杯大きな声で、サイアックに立ち向かった。

 するとサイアックの表情が一変する。


「は? なに? お前。弱いくせにマジになんなって。はぁ~ダルいわぁ。そういうの、いいから。これで俺がお前を殴ったら、冒険者ギルドに訴えるとか言うんだろ? 自分じゃなんもできねえくせにな」

「っく…………」

「おいおい、震えてんじゃねえか」


 たしかに、僕はなにもできない。

 こうして震えながらも声を上げることしかできない。

 僕は無力だ……。

 大切な仲間モンスターたちを、ろくに守ってやることもできないなんて。


「あー、もういいわ。なんか萎えた。お前、もうクビでいいよ」

「え……?」

「いやだから、もう追放だって言ってんの。きこえなかった? 前からさぁ、言おうとは思ってたんだよね。お前明らかに無能だし? 足引っ張ってるし? 必要ねえじゃん。なぁ? レディもそう思うだろ?」


 サイアックは魔法使いのレディ・ボーゲンに同意を求めた。

 レディはサイアックの太鼓持ちのような存在だ。


「そうよね~、私も前から思ってたのよ。ティムの実力じゃ、ちょ~っと一緒にやっていくのは厳しいかなぁって。まあ、仕方ないよね。これが持つものと持たざるものの差? 才能ってやつかしら? まあ、雑魚には雑魚にお似合いの生き方ってもんがあるから、ドブさらいでもしてお金稼げばいいんじゃない?」

「だってよ。ほらな~みんなそう思ってんだよ。やっぱ」


 まったく、ひどい言いようだ。

 一応、僕はこれでもみんなのことは大事な仲間だと思っていたのに……。

 もしかしたら、そう思っていたのは僕だけだったのかもしれない。


「おい、ネガエル。てめえはどう思うよ?」


 次にサイアックが意見を求めたのは、ネガエル・クロマークという男だ。

 ネガエルは大きな盾を持ったタンク職の大男だ。


「俺もサイアックの意見に賛成だ。正直、せっかく稼いだ金がゴブリンの飯代に消えるのは納得いかねぇ。それに、ティムみてぇなナヨナヨした弱い男は嫌いだ」

「だよな~。俺も嫌いだわ」


 みんな、僕のことずっとそんなふうに思っていただなんて。

 

「アリシアも文句ねえよなぁ?」

「ふん……好きにすれば?」

「よっしゃ。じゃあ、そういうことで。ティム、お前はパーティを追放だ。もう二度とその汚ねえ面みせるなよ? まあ、お前一人じゃ冒険者なんか続けられないから、田舎に帰るしかねえだろうけど」


 サイアックはそう言うと馬車をストップさせた。

 僕は馬車から突き落とされるように降ろされる。

 ゴブリンたちもサイアックに蹴飛ばされて、馬車から放り出される。

 馬車の中から、サイアックが最低限の荷物を投げてよこした。

 去り際に、アリシアが僕にたずねる。


「ティム、あんたはそれでいいわけ?」

「……仕方ないよ。僕が弱いのがいけないんだ」

「相変わらずなのね……。そういう情けないとこ、昔から嫌いだったのよ」

「そっか……ごめん……」


 はは、まさか幼馴染のアリシアにまで嫌われてたなんてね。

 ほんと、僕ってどうしようもないな。

 

「じゃあな~! 街まではまだ5時間ほどあるけど、てめぇは歩いて戻ることだな! まあ、途中でモンスターに食われて死ぬのが落ちだろうけどよぉ!」


 去り行く馬車から、サイアックがそんな普通に僕を煽る。

 馬車はあっというまに行ってしまった。

 僕は一人、草原に取り残される。

 

「はぁ……これからいったい、どうすればいいんだ……。ごめんね、リルム。ゴブイチ、ゴブニ、ゴブサン」


 僕はリルムの頭をそっと撫でた。


「きゅ~ん」


 リルムが心配そうな声を出す。


「はは、心配しなくても僕は大丈夫だよ。なんとか……するしかない!」


 僕は街に向けてゆっくりと歩き出した。




――――――――――――――――

仲間


 ・スライム? リルム

 ・ゴブリン  ゴブイチ

        ゴブニ

        ゴブサン

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