第8話

 僕---アレンが王国学園に入学して、すぐに有名になった人がいた。

 賢者様や剣聖様のように偉業を成して噂されているのではなく……あまりにも素行が悪いせいで悪名が広まっているらしい。


 曰く……その男子生徒は平民を過度に見下し、位が上の貴族には良い顔をする。

 聞くだけだと本当に最低な人だと思った。


 そんな彼の名前は……ロベリア・グリーズレットというらしい。

 学園で初めて見たとき、僕はロベリア君のことを美しいと感じた。

 サラサラの金髪に、すらっとした手足。中性的な美形といった顔で……とても噂の人物だとは思えなかったほどだ。


 僕はつい真相を突き止めたくなって……思わずロベリア君に話し掛けた。

 それが僕とロベリア君の最初の出会いだ。クラスメイトが集まっている教室で、彼は僕を睨みつけながらこう言った。


「平民如きが話し掛けてくるなあっ!」


 あ、噂は本当だったんだと理解した。


 そこからだ。僕はロベリア君から色々な嫌がらせを受けるようになった。

 どうやら教室内で悪い目立ち方をしたのが原因らしい。……たしかに原因の一端は僕が担っている。反抗することなく、嫌がらせを受け入れた。


 ロベリア君は僕が嫌いなんだろう。

 他の平民の子とは、少し異なる感情を向けられている気がした。僕は彼とも仲良くなりたかったけど……この調子じゃ無理そうだと感じていた。


 しかし……ある日のこと。ロベリア君から魔法を教えて欲しいと頼まれた。


 ……ど、どんな風の吹き回しなんだろう。

 ロベリア君は僕のことを嫌っていたんじゃなかったの?なんで急に魔法なんて。


 そんなことを考えていたから……最初は僕もティナと同じように疑っていた。

 新手の嫌がらせにしては大胆だと思ったけど、流石に何度もクラスメイトから忠告を受けていれば疑う心は生まれる。


 何を言われても断ろうと思った。

 ……でも、ロベリア君の誠心誠意の謝罪を見て僕は気持ちが変わった。人は生まれながらにして生き方が決まっているというが……僕はそうは思わない。努力して日々を過ごしていれば、ふとした切っ掛けで人は変われる。


 僕はロベリア君からの頼みを受けることにした。

 魔法を教えるのは授業を終わってから、放課後の数時間だ。ロベリア君はそれでも有難いと頭を下げた。彼は自分から変わろうとしていた。


 放課後のロベリア君はとても素直だった。

 貴族は立場が上にあるので他人からの教えを好かないと聞いた。ロベリア君はまるでそんなことはなく……真剣に僕の話を聞いてくれる。


 そうして一か月が経過する頃には……僕はロベリア君とかなり仲良くなっていた。

 まだ壁は感じるものの仕方ない部分もあると思う。以前に比べたらずっと良い。予定がないなら一緒に帰ることもあった。


 ……僕がこの学園に入った意義は、誰よりも強くなるためだ。

 平民で才能はないかもしれないけど……幼い頃に村が魔物に蹂躙されてから、僕は人々を魔物から助けるために強くなると誓った。


 だから、ロベリア君は良き隣人だった。


 クラスのみんなも良い人ばかりだけど……僕と同じ目線で強くなろうとする人は少ない。前には「そこまで必死に頑張る必要ないだろ。せっかく王国学園に入学したんだからさ。もっと楽しもうぜ」と諭されたこともある。


 並走してくれる人がいるのは幸せなことだ。

 ロベリア君は本気で強くなろうとしてくれている。あんまり闇魔法を見せてくれることはないけど……同じ志を持っているだけで充分だ。


 ロベリア君と仲良くなることにクラスのみんなは良い顔をしなかったけど……僕はロベリア君と仲良くなれて毎日が充実していた。


 しかし。


 そうやって……これからもそんな日々が続くのだと、僕は勘違いをしていた。魔物が蔓延る世界で安心なんてあるはずないのに。


 あれから三か月が経過した。僕とロベリア君が仲良くなっても教室の雰囲気とは全く関係がない……普段通りにざわざわしている。


 担任の先生が入室してくると、クラスメイトは談笑をやめて席に着いた。教壇に上がった先生に注目が集まる。普段は飄々としている先生のはずだが……今日に限っては何故か表情が暗かった。どうしたのだろう。


 先生は重苦しく声を発した。


「ロベリア・グリーズレットが死去したそうだ」


 ……は?














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