第3話
セバスの剣術指導を受け始めて十日が経過した。
学園以外の時間は全て剣術に当てている。
十日足らずとはいえ、かなりの成長を遂げている実感があった。
……流石はロベリア・グリーズレットだ。
ロベリアには才能がある。
ゲーム内でもロベリアは主人公に負けず劣らずの性能をしていたからな。
おかげで最近は、余裕が生まれてきた。
当初はセバスの指導についていくので精一杯だったが……これなら、そろそろ魔法の訓練に取り組んでもいいかもしれない。
魔法の訓練にも、セバスみたいな指導役を付ける方が手っ取り早いよな。
訓練が終わった後、セバスが話し掛けてきた。
「そういえば……ロベリア様は魔法も使えるのでしたね。まともな師匠はいるのでしょうか。宜しければ私の知人を紹介いたしますが……」
紹介はありがたいが……現段階でルークの適正魔法を会得してるキャラはほぼ存在しないんだよな。
物語後半にやっと出てきた記憶がある程度だ。
現状で知っている限りだと彼ぐらいしかいない。
「いや伝手はあるんだが……断られる可能性が高くてな。そのときに頼んでいいか」
「承知いたしました。候補を挙げておきます」
セバスが恭しく頭を下げる。
彼の瞳には、興味の色が揺らいでいた。
「それにしても……ロベリア様の魔法指南役とは興味深い。お聞きしても?」
「構わない。アレンに頼もうと思っている」
俺の言葉にセバスは首を傾げた。
「アレン……そのような名前の使い手がいたでしょうか。浅慮で申し訳ありません。どのような人物なのか教えて頂けたらと……」
「ああ悪い。説明が足りなかったな」
そりゃあ知っているわけがない。
アレンはこの世界における主人公の名前で……。
「俺のクラスメイトだ」
「く、クラスメイトですか。それはまた……大胆なことをなさいますね」
めっちゃオブラートに包んでんな。
まあ正直なところ、元騎士団長からしたら学園の生徒なんて赤子同然か。
アレンに魔法を教わるといったが、特段彼も魔法に秀でているわけではない。
物語後半には化物みたいなステータスになるものの、現段階でのアレンは甘く見積もって中の下ほどの実力だろう。
それでも彼から魔法を教わりたかった。
理由は、ロベリアとアレンの適性魔法にある。
ロベリアの適性魔法は闇魔法。
ロベリアは闇魔法に関して天才ともいえる才能を持っている。ゲームでもロベリアが闇魔法を覚え始めたら手に負えなくなっていた。
一方でアレンは光魔法を操る。
光魔法は主にバフ---己や味方の強化を得意としている。相手を弱体化させる闇魔法とは真反対の性能で、まさしく主人公用の魔法といえるだろう。
しかし……使う魔法が異なっているのに何を教わるというのか。
ロベリアとアレンとで適性魔法は、まったくの正反対だが……聞くところによると、光魔法と闇魔法の使用感はかなり似通っているらしい。
ゲーム内では元々一つの魔法だったと説明されていた。関係してるのかもな。
俺はアレンに魔法の感触を教えて欲しかった。
現段階で闇魔法の使い手はほぼいない。
なら使用感が似ている光魔法の使い手---アレンに教えを乞おうと考えたわけだ。
それに……ここはゲームであり現実。
コマンド一つで魔法が出る世界とは違う。取っ掛かりさえ掴めないまま闇魔法に時間を費やしても、無為になる気がしてならなかった。
翌日の学園で、俺はアレンに魔法指導の話を持ち掛けた。
「え……今なんて?」
アレンが動揺を隠せない様子で聞き返してくる。
「俺に魔法を教えて欲しいんだ」
「ぼ、僕がロベリア君に……魔法を?」
ふと周囲から攻撃的な視線を感じた。
クラスメイトがアレンとの会話を監視していた。
『……おい。なんだよあれ』
『どんな風の吹き回しだ?大丈夫かアレンのやつ』
『……また下らない嫌がらせでも考えたんだろ。関わるのも面倒くさい』
まあ……プラスの感情は持たれないわな。
ゲームプレイ中に突然ロベリアがアレンに「魔法を教えて欲しい」なんて言い始めたら、俺もクラスメイトと同じ感想を抱くと思う。
正直に言うが、ロベリア・グリーズレットはゴミクズみたいな悪役貴族だ。
身分を笠にして周囲を見下しまくり……貴族以外は人間ではないと、何処ぞの平みたいなことを平気で言っちゃうようなキャラだ。
ロベリアはアレンを毛嫌いしていた。
アレンの才能に嫉妬していたのか、平民であることを口実に嫌がらせをする。我ながら本当にしょうもない人間性だと思う。
そんなやつがクラスにいたらどうなる?
まあ……当然。全員から嫌われるに決まってる。
微妙に偉い立場の人間なので無理やり止めたりできないのがワンポイントだ。
一方でアレンは性格が良いので、平民であろうと周囲から好かれている。
クラスメイトはアレンの味方だ。
そんなクラスの状況で、つい昨日までアレンを見下していたゴミクズが、魔法を教えて欲しいと張本人に頼んでいる。
まずい……自分でもわけがわからないよ。
「……ロベリア。あなた今度は何のつもり?」
厳しい表情を浮かべて、女子生徒が二人の間に割り込んできた。
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