厳しい現実
僕の小学校では、先生方が自由研究の審査をおこない、優秀な数作品は全校生徒の前で発表することになっていた。僕は自信満々だったので、もしかしたら自分が選ばれるかもしれない、と思っていた。緊張して何も話せなくなったらどうしよう、などと考えていた。
我ながら、おめでたかったと思う。『水島漫画をパクった漫画家X』というテーマに興味をもつ生徒など、一人もいなかったのである。僕は完璧に、需要と供給を読み違えていた。
少し考えればわかることだ。子供たちは野球よりサッカーが好きだったし、小学生が読む漫画といえば、『ドラえもん』『ワンピース』『名探偵コナン』などに限られているのだから。
『水島漫画をパクった漫画家X』の反応は、
極めつけは、優等生の男子だった。「パクリって盗作ってことだよね。だけど、コミックスの発売が先というだけじゃ完璧な証明にはならない。だって、二人の漫画家が同じ野球選手の写真をモデルにした可能性があるわけでしょ」
確かに、その通りである。例えば、里中智の投球フォームは元阪急の足立光宏、藤村甲子園の投球フォームは元巨人の高橋一三投手をモデルにしているらしい。漫画家Xの描いた投手Cが里中ではなく足立光宏、投手Eが甲子園ではなく高橋一三を参考にしている可能性は否定できない。
漫画家Xのパクリを確信しているのに、僕は何も言い返せなかった。類似ページの指摘だけではパクリの証拠にならない。その可能性を突きつけられたからだ。僕の研究資料には、完全なパクリだと断言できる証拠が欠けていた。
せめて、漫画家Xの担当編集者に問い合わせるなり、水島新司に手紙を書いて質問を投げかけるなり、小学生にもできることをしておけばよかった。何も返答がなかったとしても、そこまでパクリを追及しておけば、優等生男子に反論ができたと思う。
総括すると、『水島漫画をパクった漫画家X』の反省点は二つだ。需要と供給を読み間違えないこと。リサーチは納得できるまで行うこと。自由研究は大失敗に終わったが、これらを学べたことはよかった。
だから、 僕にとっては黒歴史であり、創作の原点でもある。
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