17 対面
Side:真司
引き篭もり生活を続ける俺は朝日を浴びて目を覚ます。
今日でもう6日目となる。
今日一日我慢したらそろそろ一度王都まで行こうと思っている。
髪色を良くある金色に変え、深いローブを被り街中を少しぶらつく予定だ。明日は俺の話が噂になっていないかの確認ができればそれで良いと思っている。
今のところギルドのお姉さんに付けている
いつもの様にミーヤから出してもらって朝食をゆっくりと食べ始める。
今日のスープはネクサスで買ったやつかな?暫く食べつけた王都の味とは少し違うのでそれがまた新鮮に感じた。ゆったりとした時間が流れてゆく。今日も室内での修行だ。少しであるが武具に魔力を纏わせることにも成功している。
魔道武器である棍の方が魔力が通りやすいことも理解した。時間が有り余っているので色々試すことができた、魔力も確実に上がり一番高い能力値となった。そのせいかは分からないが、ミーヤも力が上がった気がすると言っていた。
やはり魔王と言うからには魔力を中心に鍛える必要があるのかもしれない。今日も頑張ってみよう。
そんな静寂は、かろうじてドアとしての役割をしている板を蹴破る音と共に消え去った。俺はすぐに臨戦態勢を取って身構えた。飲んでいたスープを盛大にひっくり返しながら……
「おい女!食事中に踏み込むなんて、常識ないのか?」
「俺はエステマ。勇者だ!魔王が常識を語るなんて、面白い冗談だね!」
勇者……だと……
「どうして勇者がこんなことをする!」
「変なことを聞くな?俺は勇者だ!勇者は魔王を狩る者だろ?」
「そう、だな……」
やっぱり戦うしかないのか……そうは思うが勇者の持つ剣からは強い光が漏れ出ていた。この時点で敵いそうにないことだけは分かる。俺にはこの場をどう逃げるしか考えられなかった……
「ニャー(魔王様!)」
俺はミーヤから投げられた棍を受け取るとそれをエステマに向けて身構えた。何とか隙をついてこの小屋から出たい。背後の板ならぶち破れるだろうか?そのまま逃げ切ることはできるだろうか。
考えがまとまらない。目の前の勇者が少し剣を上げ身構えるその姿を見ただけで戦い慣れていることが伺える。どう考えても勝てないのは分かってはいるが……逃げることすら難しいのだから困ってしまうな。
「真理ちゃんは元気だぞ」
「えっ?」
突然そのエステマと名乗った女勇者の口から、真理の名が呼ばれたような気がして動きが止まる。
そして次の瞬間には俺はエステマに足を横から蹴られ、無様にも倒れ込んだ。仰向けに転がされた俺の肩を足で強く踏まれ動けなくなってしまう。
ミーヤはその拍子に俺から離れたが、エステマを睨みつけ飛び掛かるチャンスを窺っているように見えた。そしてエステマの剣先が俺の首筋にスッと押し当てられる。
「お前は真理ちゃんを助ける気はあるのか?」
「やっぱり真理って言ったな!どういうことだ!何でお前の口から真理の名が出てくるんだ!」
「いいから答えろよ!」
その瞬間、肩をさらに強く踏まれる。この女の目には『答えなきゃ殺す』という殺気すら籠っているかもしれない。正直かなり怖い……
「当たり前だ……真理は絶対俺が助け出す!」
「じゃあここを今すぐ引き払え。俺が討ち漏らして逃げられたことにしてやる!」
エステマはそう言いながら俺の肩から足をどけ、少し後ろに下がった。
何を言っているんだ?俺は体を起こしながら確認する。
「どういう……事だ?」
「ったく!お前はバカみたいに派手に動き過ぎなんだよ!今は地道に、そうだなー、もっと西、エラシスにある魔窟でレベル上げでもしていろよ。今はまだ目立つのはダメだ!分かったな!」
何を言っているのかいまいち理解できなかった。こいつは俺の敵だろ?
「どういうことだ?お前は俺を討伐しに来た勇者だろ?」
「そうだよ!お前が派手に動いて居場所がバレた!だから俺に討伐命令が出た。だが俺で良かったんだぞ。軍か何かが動いてお前に何かあれば俺がリザに殺される!」
「意味が分かんねーよ!」
「リザってのはお前の愛しの真理ちゃんの侍女だよ。そして今も大事に真理ちゃんを守ってる」
「へっ?」
俺は思っても見なかった返答に体の力が抜けた。それを見たエステマは少しだけ笑った気がした。
「まだ準備が整っていない。時期にバカ王は動くだろう。その時に動けるように今は強くなっておけ。真理ちゃんはリザが必ず守る。怖いのはあの王が自暴自棄になって真理ちゃんに死ねと命じることだ!」
俺はごちゃごちゃの頭の中、何が最善なのかを考えた。
「信じても……いいんだな」
「ああ。もう一つ安心できる材料をやろうか?リザはお前より強いからな。というか俺よりも強い。だから少しは安心して修行に励め!」
「わかった」
俺は大人しくうなずいた。
「あとこれ、持ってけ」
そう言って腰の袋から出した銀色の道具を俺に投げつけた。
「これは?」
「俺につながる通信具だ。何かある時は俺から連絡するからな。変なタイミングで俺に連絡して国の奴らにばれでもしたら、その時は本当に俺がぶっ殺さなきゃいけなくなっちゃうからな!」
「分かった。ありがとう」
エステマが背中を向けさっき破壊したドアだった場所を通って出ていくのを見送った。
その姿が視えなくなってから俺はゆっくりと立ち上がり深いため息をついた。やっと生き残れたと実感ができた。本気で死ぬかと思った。黒狼ほどではないがかなりのプレッシャーを感じていたのだ。
あれが、勇者か……
「ニャー(魔王様ー!怖かったですー!)」
脱力した俺の顔にミーヤが飛びつきペロペロと舐め始める。
そのニーヤを顔から剥ぐと
「
「ニャー(そうですね。例の黒狼がいるエリアの西側も森が続いています。その先が先ほどの女が言っていたエラシスです!そこなら大丈夫かと……)」
「なるほどな。という事だ、他の奴らに伝えて目立たぬように移動しろと言っておいてくれ」
「チュー(かしこまりました!)」
そして俺はミーヤをいつもの様に肩に乗せ小屋を出る。小屋の中には特に何も無いからな。早々にここを出なくてはならない。きっとエステマの報告を聞いて他にも討伐隊なんかが出されるのだろう。
俺はミーヤにナビを頼みながらも西側の街、エラシスを目指して歩き出した。もちろんあの森の中までは入らない。今でも黒狼と戦って勝てる気はしないからな……眷属たちにも注意を促しておかなきゃな。
そう思って再度、
「よし!西に向かおう」
「ニャー(はい!魔王様!)」
俺は林エリアを通って西を目指した。
エステマが言っていたエラシス……そこなら安全にレベルが上げられるだろうか?若干の不安を胸に歩き続けていた。
Side:真理
私は布団の中で少し目が冴え考えていた。
解放を覚えたあの日、城に帰ったリザが私に教えてくれたのは、この『解放』というスキルこそが本当に王が欲しているスキルなのだと教えてくれた。そして先代の聖女はそれを覚えなかったために不要と判断され……
そう言ったリザの顔はとても悲しそうだった。
最後の言葉を濁していたがおそらく殺されたのだろう。そんな悲しい顔を私に見せたリザは『解放』をまだ使わず秘密にしておこうと言っていた。今はホーリーライトを覚えるまで修行に耐えてほしいのだと……
『解放』のスキル説明には『すべての束縛からの解放』と書いてあることを説明した時にも、グッと唇を噛みしめ何かを我慢している表情を見せていた。
そのスキルの説明文を見た時、明らかに隷属の首輪から解放されそうに思える文面だったので使ってみたかったのだが、そんな表情を見せたリザが「今はまだ……来たるべき時がくるまでご辛抱を……」と深く頭をさげられた。
そこまでされたら信じるしかない。
私はリザに従い『解放』のことは今はまだ忘れるようにして必死に修行を頑張ることを誓った。その私に「ありがとうございます」とお礼を言いながら優しく抱きしめてくれたリザ……
やっぱり信じて良かったと思うことができた。
王が本当に欲しいものを知っていて、それを隠すというリザは味方なんだと実感できる。それが私を篭絡するための嘘であればもう私は騙されても諦める。その時は潔く死んでやる。
そう思いながらもリザは絶対に私を裏切らない……
そんな確信めいたものを感じた。
そして今日、もっと嬉しいこともあった。
リザは勇者とも連絡を取り合っているというのは以前から聞いていた。
そしてその勇者から真司に会ったと連絡が来たそうだ。元気にレベル上げに励んでいるのだと……私は嬉しくて涙が止まらなかった。今はまだ目立たぬようにエラシスという西の街で修業するよう促したという。
なんでも王都の魔窟にも籠っていてそれで派手に素材を狩りまくってバレたのだとか……もしかしたら私とすれ違ったりしてたのだろうか……でもそれなら絶対分かるはず!それだけは自信がある。
真司が近くにいて私の真司レーダーが反応しないはずはない。
きっと私の居ない時間帯に篭っていたのだろう。
一目で良いから会いたかったな……
真司に国から討伐依頼が出たため、勇者が安全な西の魔窟を紹介して速やかに移動するように促したので当分は大丈夫であろう、そう言われたのでリザには勇者様にはお礼を伝えてほしいと言っておいた。
「それにしても王都で目立つ程に素材をって……真司は私の様にリザのような助けもないハズ。それでもそんなに強くなったなんて……やっぱり凄いな」
私は真司が逞しくなって魔物をバシバシと倒していく姿を想像し、顔が熱くなるのを感じた。逞しくなった真司……早く会いたい……
私はさらに修行を頑張る目標が増えた気がした。早くホーリーライトを覚えて首輪を外して真司と……
今夜は寝られないかもしれない。
それではイケない、寝不足では修行に支障がでてしまう。そう思いつつ布団をかぶり寝るために目をつぶる私だった。
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