16 真眼

16 真眼


Side:真司


王都の南に拠点を作り、毎日順調に依頼をこなしてゆく。


資金も順調に増えている。

時折ミーヤは貴族の屋敷を廻って分からない程度に資金をパクってくるので、正直どれだけの資金があるか不明だ。だがこの世界の武具、特に魔道武具と呼ばれる何らかの特殊能力を付与した武具は信じられないぐらい高い。

資金はいくらあっても良いのだ。


俺も眷属用を増やす際に使っている棍とは別に、炎を噴き出すことのできる長剣や雷を飛ばすことのできる槍を買い魔窟などでは少しづつ練習はしている。使いこなせばきっと城に乗り込む時にも役立つだろう。

影鼠かげねずみなどを使って収集した情報では、王の傍にはアレックスと言うかなり強い騎士がいるって話だ。俺の邪魔をするならそう言った人間も排除しなくてはならないだろう……


俺に人を殺すことが出来るだろうか……

いや、真理を助ける為なら躊躇してはならない。相手は俺を殺そうとしているのだから……


「ニャー(魔王様!今日はどうします?)」

「そうだな、どうするか……」

朝食を終えた俺にミーヤが今日の予定を確認する。


ここ最近はさらにレベルを上げるため、依頼をこなしながらも王都の魔窟に潜り修業もしていた。


最初は中級から上級の冒険者がが籠るというオーガとオークがいるエリアで力を試していた。一応は目立たぬように夜間に潜ってはレベルを上げることができた。そしてすぐにそのエリアでは物足りなというのが実感できた。


この程度の魔物ではかなりレベルが上がりづらくなっているのでさらに深く潜るようにした。すると次第に毒々しい魔物が出るエリアに到達し、何度か毒を受けたがその度にミーヤが毒消しのポーションを出してくれた。

アッポのジュースとちゃんぽんして飲んでいるとは言え、激マズは変わらない。なるべくなら飲みたくはないんだよな……


そんなこともあり徐々に雷を発生させる槍、雷槍らいそうを多用するようになってしまった。雷撃で距離を取って戦えるのは楽なのだが、使いすぎると魔力の枯渇で気絶しそうになるので気を付けねばと思っていた。

それ以来は毒を受ける事はほぼ無くなり、討伐に関してもかなり楽に狩れるようになったため、さらに深く潜予定である。成長速度上昇の恩恵で能力値もグングン増え、それなりに順調に思える。


依頼の方でも各地で魔物討伐を繰り返し、確実に眷属を増やしていた。依頼自体は楽なものが多かったのだが、兜というカブトムシの大きい奴を5体討伐する依頼にはかなり苦労した。


王都の北東の林に住み着いた虫の駆除という日本でも有りえそうな依頼だが、この世界で冒険者に回ってくる依頼であれば虫のような魔物なのだろう。

兜で虫とくればもうそれはカブトムシだよな?そう思って少しの期待を胸に依頼の地へ赴いたのだが、そこには大木に群がって樹液を貪っている1m超えの見た目だけはカブトムシという魔物だった。


名前は兜で良いらしい。


俺が棍を受け取り攻撃の意思を見せると「ジジジ」と音をたて、次の瞬間には5体が一斉にこちらにんできた。飛んできたのではない。んできたのだ……

大きな体の背中の羽を広げ、こちらへ真っすぐとんできたそれらを棍で弾く。かろうじて斜めに受け流すことで弾き飛ばされそうになりながらも、その攻撃からは回避していた。両手がかなり痛い……


気を取り直して兜の方へと振り向くと、ドシドシと長い足を動かしてこちらに振り向いていた……やっぱり飛ばないんだな……


その少し気持ちの悪い動きにげんなりとしながらも、んできた兜を何度も躱しながら、その細い足を目掛けてひたすら攻撃を叩き込む。5体の兜が代わる代わるに突進してくるので直撃しそうになることも多々あった。


それでも攻撃の手を止めずに足を叩き続けていると、1体の兜の左前の足がバキリと音を立ててヒビが入ったように見えた。その個体はヨロヨロとしながら俺の方に向き直る。

そしてこちらを警戒して見ている中の1体が再び「ジジジ」と鳴くと5体ともがこちらに向き直って様子を窺うように攻撃は停止された。


「ジジジ(魔王様……降伏します。如何様にでも使ってください……)」

先頭に移動した兜がそう言って頭を下げる。


「ふう。わかった。よろしくな」

「ジジジ(はい)」

そして5体がそろって頭を下げているのでミーヤ経由でポーションを支給した。蓋を開けると長い舌を出してペロリとそれを舐めている。俺はタオルで流れ出る汗を拭いていた。本当に疲れた。


一口舐めると5体全員が舐めるのをやめ、周りを窺っているようだ。


「いや飲んどけよ。足結構ボロボロだろ」

「ジジジ(うっ……は、はい……)」

そんなにか……まあ本当に不味いからな。


「ところで、お前たちは飛べないのか?」

「ジジジ(はい。私たちは魔力が少ないのでこの大きな体を浮かせる程の事はできません)」

やはり魔物は魔力で飛ぶ感じなのか。背中の羽でも飛べそうに見えるが、どうやらそう簡単なことでは無い様だ。


以前ミーヤに竜種は魔力で空を飛ぶという話は聞いていたので納得はできる。この世界のカブトムシ、いや兜という魔物は体の中まで筋肉で物量があって背中の羽では飛べないという事なんだな、きっと。


まあそんな感じで苦労もあった。

あの時は多分1時間以上は戦っていたからな。


他にも村の近くに縄張りを作って村人の侵入を拒んでいた髑髏蛇どくろへびつがいが2体いてそれを棍でねじ伏せた。

近くの森には2体の岩猿が畑を荒らしているというので、近場だったこともありこっそりと連れてきていた最初に眷属化した岩猿と、殴り合いの死闘を経て眷属化することができた。

魔窟にも出てきたワイルドボアが畑を荒らすと言うのでその巣に行ってみると、魔窟とは比べ物にならないほど大きな奴が5体で突進攻撃を繰り出してきたと言う依頼もあった。

何度かぶっ叩いてもびくともしなかったので、最終的には棍を全力で脳天に叩き込み1体を倒し切ったところで残りの4対が眷属となった。中々のパワーだったので惜しいことをしたなと思っている。


他にも村の水源となる池にいる厄介者の鉄砲魚という魔物が、池に近づく人達にレーザーのような水を噴出して攻撃してくるため駆除してほしいという依頼を受けたが、雷槍らいそうで痺れさせ、簡単にその全てを眷属にすることができた。

一緒には連れてはいけないので大人しくするようには命じていたが、大量に眷属化したので素早さが向上した気がする。


鉄砲魚の様に一緒に連れては行けない眷属であっても、俺の力は確実に上がっている。ステータスの能力値には表れない部分のため、万が一に本当の能力値がばれても警戒されることも減るだろう。

その為、謝って他の冒険者に討伐されないように今後は大人しくしているように指示はしておいた。倒されてしまえば俺の能力値まで下がってしまうからな。


「ニャー(魔王様?)」

「あ、ああ……」

色々と思案していると目の前まで移動してきたミーヤがこちらを見つめていた。可愛い奴だ。


「すまんすまん。今日は集めてある素材を換金してまた魔道具屋にでも顔を出すかな?何か掘り出し物があればいいのだが……」

こうして今日の予定が決定した。


その際に影鼠かげねずみから「チュー(魔王様、普段はいないギルドマスターがギルド滞在中です。警戒を)」という報告を受けた。迷ったのだが結局は警戒しつつもギルドまで足を運ぶことになった。


魔窟に潜った際に回収していた魔石や、蛇と猿の皮、蜘蛛糸といった戦利品をギルドに提出する予定だ。もしギルドマスターと何かがあれば今の拠点を移動させてもいいだろう。そうも思っていた。


ギルドに入るとカウンターにはいつものお姉さんがいる。その隣には髭面の体格の良い爺さんが居るのが見えた。この爺さんがギルドマスターなのだろう。俺が入るなりこちらをジッと見ていた。


その時、影鼠かげねずみが俺の影から出て俺の体を伝って耳元までたどり着く。そして「チュー(魔王様、お逃げ下さい)」と小声で言ってきた。

どうするべきか……


だが俺はすでにそのじいさんと目が合っている。いつものお姉さんも手を振って俺の来るのを待っている。これは……行かない方が不審がられるのではないだろうか……そう思った俺はカウンターまで足を勧めた。


「やあ。君が真司君だね」

俺はとっさにギルドから走り出していた。


大声で呼び止める声がしたが止まるわけにはいかない。俺はここではコーガと名乗っていたからな。俺を匿ってくれたりするならあんな公衆の面前で名前を呼んだりはしないだろう。

しかしなぜバレた……


背後を追う数人の冒険者を振り切るように足に力を籠めながら遠回りしながら拠点を目指す。当然ながら追跡者たちを振り切ったのを確認した後、なんとか拠点へと戻ることができた。


影鼠かげねずみが再び顔を出す。


「チュー(あの男は心眼持ちのようです。魔王様がギルドに入る直前、魔王様の提出した成果を訝しんでおり、本当のステータスが見てやろうと話しておりました!)」

「はあ、はあ、なるほど……そういう、ことか……」

おれは息を切らしながらも影鼠かげねずみの説明を聞いて納得をした。魔道具ではなくそう言うスキルもあるんだな。油断できないなと思った。もう少し遅く着ていれば影鼠かげねずみの警告も間に合ったのかも……


しかし今更後悔しても遅い。今はどうしたら良い?暫くの間ここでゆっくりした方が良いのか?それともまた髪色とかを変えて行けば大丈夫だろうか……結局悩んだ末に、俺は数日程度は引き篭もることを選択した。

俺は少し急ぎすぎたかもしれない。派手に動けば警戒されるのは道理だろう。これで俺が姿を変えて冒険者として活動していた事がバレてしまった。きっと姿を変えても何らかの対策がされる可能性がある。


俺は拠点に引きこもることを眷属たちに伝える。


「よし、今は俺が移動するのも目立ってしまうだろう。お前たちは深い森に潜伏してくれ。影鼠かげねずみはいつも通りそれぞれの影に潜んで何かあれば連絡を頼むな」

そう指示すると眷属たちがそれぞれ肯定の返事を返す。


そして影鼠かげねずみを潜ませ同族ごとに森深くを目指し移動を開始してゆく。この南の森林地帯はそれなりに広い。あまり冒険者も立ち入らない場所だからなんとかなるだろう。

そう思いながらも俺は拠点に作った小さな小屋へと入っていった。


「ミーヤ。俺は暫くここに篭るから、食料とか頼むな」

「ニャー(もちろんです魔王様!)」

引き篭もっても生活できてしまう相棒に感謝する。


「しかし、そうなると暇になるな。スマホが恋しい」

この世界に来て森に飛ばされた直後の黒狼との戦闘語、すぐに破壊されていることに気づいた自分のスマホを思い出しため息をついた。


「ニャー(魔王様!お暇でしたら室内でも体内の魔力を意識しながら動かすことで魔力を上昇できます!魔王様は少し魔力が少ないようですので……あっ、いや、別にそれが悪いという訳ではないのですよ?)」

「はは。ありがとうミーヤ。そうだな、こんな機会がないと魔力は中々上がりそうに無いからな」

焦るミーヤの頭を撫でる。


「そうだ、ついでに普通の長剣出してくれ」

「ニャー(ではこちらを……)」

俺は思い付きではあるが長剣を握り締めながら、さっそく言われた通り体内の魔力を感じることから始めてみた。以外とすんなり魔力を感じることに成功したので今度はその魔力を全身に動かしたりしてみる。


「それなりにできるようだな」

「ニャー(さすがです魔王様!)」

心地よいヨイショを感じながらも長剣を握り締める手に魔力を流すイメージをする。そしてさらに先、長剣の先まで自分の魔力を巡らせるようさらにイメージを膨らませる。


どうやらそんなに簡単では無いようだ。

その日から俺は時間の許す限りその修行を行いながら、一刻も早く真理を助け出したいと焦ってしまう気持ちを強引に押さえ込んでいた。


結局、その修行の日々は6日程続くことになる。

早く真理に会いたい……


――――――

真司 ジョブ:魔王

力280 硬320 速345 魔385

パッシブスキル 『異世界語』『神の加護』『魔軍』

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