18 始祖

Side:リザ


真理様が遂に『解放』を覚えた。

あの憎き王が本当に望むスキル……


『すべての束縛からの解放』


王は何から解放されたいのだろうか……


書庫を漁っても見たが『解放』なんてスキルの情報は何もなかった。本当は今すぐ使って隷属の首輪が外れるかの確認をしてみたい。だがそれには警戒も必要だと考えた。あのバカ王に首輪が外れたことがばれた場合どうなるのか……

まずは真理様にもっと強くなってホーリーライトを覚え、そして万全の状態で使って頂こうと考えていた。それで隷属が解けるならマリア様もきっと……


私はベットに腰掛けながら10年ほど前、まだ幼かった時のマリア様との日々を思い出していた。


男爵家に生まれた私は、12才になり城に召し仕えることとなった。

非常に名誉な事だと両親が喜んだのを覚えている。


そして覚束おぼつかない私が最初に仕えることとなったのは、丁度その日に召喚されたというマリア様だ。長い黒髪が美しくまるでお姫様のようなとても綺麗な女性……

その黒い瞳に見つめられるとそのままフラフラと引き寄せられてしまいそうに思えた。今考えれば幼い私はすぐにその姿に魅せられ、まるで実の姉のように思えて懐いてしまったのだと思う。


何も知らない異世界に突然呼ばれたというのに落ち着いているように見えたが、その首にはあの忌まわしい首輪が嵌まっていた。この人を守りたい……私は幼心に愛情にも似た感情を芽生えさせ毎日必死でお仕えした。


連日の厳しい修行。先代の王宮魔導士、つまりあのドロウンズの父はマリア様に丁寧に魔力の使い方から強化方法などを説明されていた。その成果もあってマリア様はどんどん魔力を高めていった。


毎日朝から晩まで続く修行の日々。

そんな大変なはずのマリア様は私に本当に優しかった。


私はその愛情を返すために精一杯尽くそうと努力したが、はたしてその愛情に見合うだけのお世話をできていたのだろうか?……今でもそう考えてしまう。


そして一年ほどが経ち、遂に念願のホーリーライトを覚えた。

これで世界は救われ、マリア様も自由になれる!


そう信じていたのに……


王はマリア様に「他には何か覚えなかったのか?『解放』は?覚えたのだろ?もう一度スキル欄を確認せい!」とイライラした様子で問い詰めていた。

そして『解放』を覚えていない事を知ると……


「無能に用は無い!さっさと死ね!」

そう言い放った。


何が何だか分からなかった。

だが実際に私の目の前でマリア様が苦しんでいる事だけは分かる。


「おい!さっさとそいつを処分しろ!」

その王の言葉に兵たちが動きだしマリア様を連れていこうとするので慌ててそれに割り込んだ。そして震える唇を動かして……


「マリア様は私が……処分します!」

周りは驚いていた。


「あんなにべったりと懐いていたのに……」

「可愛がってもらったんじゃなかったのか?」

「酷い女だな!」

そんな声が聞こえた。


だが王は笑っていた。


「そうかそうか!リザと言ったな。この役立たずの処分はお前にまかせた!」

何がそんなにおかしいのだろうか。私は歯を食いしばって泣くのを堪えた。そしてマリア様を支えながら震える声で「お任せください!」そう返事を返して城を出た……


マリア様は『自己修復』というスキルを持っている。

だからなのか苦しみながらもまだ命が繋がっている。だけどこれが何時まで耐えられるのか分からない。マリア様の体力はいつまで持つのだろう。体力は残っていても魔力は?500程度まで上がっているはずのマリア様の魔力。


普通では考えられない高い数値だがそれも無限ではない……


私は街の教会までなんとかマリア様を支えながら訪れることができた。しかし隷属の首輪はやはり所有者以外は解けないと言われた。


「リザちゃん。もういいの。私はリザちゃんと過ごした楽しい日々があった。だから幸せな気持ちで逝けるのよ」

私はマリア様を抱きしめて泣いた。


それを見ていた神父様がある情報をくれた。

本当かは分からないが勇者様が首輪を解くことができたという話を聞いたこと、そして今この王都の冒険者ギルドの近くに滞在しているということを。


私はすでに限界を迎えている足を必死で動かしその宿を尋ねると、その宿の女将さんがすぐに取り次いでくれた。その勇者は女性だった。


「俺は……無理だ。もうできねーよ」

弱気な勇者様の話を聞くと今までの成功率は半分程度だと言う。最後に失敗した人の恨みが籠った顔を今も夢に見るのだとか。


「どうせ私はもうすぐ死ぬのよ?失敗しても恨んだりしないわ。むしろ感謝します。だからお願いします」

もう辛くてしゃべることもままならないはずのマリア様が必死に勇者様にお願いしていた。


「でもよ……」

「これ以上リザちゃんの重荷になりたくないの。分かるでしょ?」

真っすぐにその勇者様を見つめるマリア様。重荷だなんて思ってないのに……


「重荷になんて思ってません!」

反論する私を優しく抱きしめ震える手で頭を撫でてくれる。私はまた声をあげて泣いてしまう。


「分かった。外に出よう」

その言葉と共に私の代わりにマリア様を支え宿の外に出る勇者様。


宿の近くにある開けた場でそれは行われた。


「いくぞ!本当にいいんだな!」

「大丈夫よ。あ、ちょっとだけ待ってね」


そう言うとマリア様は私を呼ぶとまた抱きしめてくれた。


「今までありがとう。リザちゃん、大好き」

「私も、私もです!」

人間の涙は枯れることが無いのだと知った。


しばらくしてマリア様は私を離すと「危ないから離れていてね」と言われ、邪魔にならないようにと距離を取った。そして両手を胸の前で強く握り締め、必死で神様に成功を祈った。


「じゃあ、お願いね」

「い、行くぞ!」

少し震える声で返事を返した勇者様は……持っていた聖剣を上から勢い良く振り下ろした……そして隷属の首輪はカチンと言う音と共に破壊された。


だがそれは完全ではなかった。


さらに苦しみだしたマリア様は駆け寄る私を抱きしめ「大丈夫」と何度も私に言っていたが何が大丈夫なのか……そう思いながら必死でマリア様の背中を撫で続けた。少しでも楽になってほしかったから。


しばらくするとマリア様が動かなくなってしまった。

女勇者様が「大丈夫だ」と言ってくれた。意識は無いが魔力が安定しているらしい。だがその勇者様の顔は死人の様に真っ青だった。そして私も多分その勇者様、エステマ様を憎悪の目で睨んでいたと思う。


そうしないと私の心が壊れてしまいそうだったから……


宿に戻ると勇者様はマリア様をベットに寝かせた。

こんな状態になるのは初めてだと言う勇者様に、マリア様が『自己回復』のスキルを持っていることを伝えると、これなら今は仮死状態で魔力ポーションなんかを様子を見ながら飲ませれば延命できるかもしれないことを聞く。


そして勇者様が責任をもって面倒を見るとも言ってくれた。

私はマリア様を勇者様に任せ宿を出た。


そしてその足で城にはもどらず王都のはずれの一角を訪ねた。子供のころから誰もが言われている立ち入り禁止地区。噂ではバンパイアが住んでいるというその場所へ私は震えながらも入っていった。

古ぼけた館のドアをノックするとドアは勝手に開いていく。私は吸い込まれるように中へと入っていった。そして薄暗いその中に一人の男が立っている。


「あなたが……バンパイア様ですか?」

「いかにも。吾輩がバンパイア、始祖となるバンパイアの王である!愚かな娘よ……吾輩に贄を捧げに来たのだな!」

両手を広げ大声でそう宣言した男。


悲鳴すら上げることができず体が硬直した。

でも本当に居たんだ!噂ではなかったんだ!そう言う喜びも少しだけ湧いては消えていった。生贄にされては意味がないのだ。


「どうした?ここはキャーとかイヤーとか無様に悲鳴を上げるところでは?」

想像していたのとは違う砕けたその言葉に恐怖が薄れたのを覚えている。だって顎に手を添え首を90度近く横に曲げているそのしぐさがとても面白かったから……


「なかなか肝の据わったお嬢ちゃんだ。何様なにようかな?」

「私を、バンパイアにしてください!」

何故なにゆえ?」

私は笑ってしまった。変わった人だと思った。私は今までのことを話した。


「あのバカ王が……いっちょ殺しておくか!」

「だめ!マリア様が死んじゃう!」

そのバンパイヤの言葉に必死で止めようと縋り付いた。


「そ、そうだな……お前、本当に肝が据わってるな。吾輩にそんなことを言うやつは初めてだ。良し!お前は俺の一番弟子だ!」

こうして私はバンパイアの始祖様の弟子となりその牙を受け入れた。


始祖様には真理様と同じ様に魔窟でレベルアップを手伝って頂いた。と言っても最下層の方でデーモンやドラゴンたちをひたすら殺し続けるのを震えながら見ていただけだったが……

しかも24時間フル稼働で狩り続け、1ヵ月もしない間に私も同じようにドラゴンを狩れるまでになってしまった。拳で……


眠気に負けて居眠りした間もレベルが上がり続けるのだからもう意味が分からないよね。でも始祖様はそんな私に驚き「若者の才能ヤヴァい!」と笑顔ではしゃいでいた。


修行を終えた私に、始祖様は「何かあればいつでも頼れ」と言ってくれた。私にも切り札ができたと思った。勇者様とどちらが強いかは分からないが少なくとも私よりは強い。

始祖様がドラゴンを狩る際は指先一つで瞬殺だったから……


それから勇者様の元に戻ると、マリア様はやはり安定されていると知り、ほっと胸を撫でおろしたのだ。寝ているマリア様を抱きしめ、そして城に戻ることを告げた。勇者様から通信具を頂き、何かあれば連絡をと言ってくれた。


私は城に戻るとその足で王の元を訪れ懇願した。

マリア様を贄にして私がバンパイアになったこと、強くなり聖女を育てる際に万が一にも命を落とさぬよう守ることができること、そして新たな聖女を育て王の願いを叶える手伝いをさせてほしいことを告げた。

その口が憎しみで震えないように……冷静に、冷静に……心を殺して王に跪いた。私の憎悪が見透かされないように……


王はまたあの時の様に笑って私にその任を与えた。

異世界の聖女様だ。この状況を覆せる者が現れるかもしれない。そう信じて私は聖女専属の侍女となった。そしてすぐに召喚されたイザベラ様に仕えることになったのだ。


◆◇◆◇◆


私は知らぬ間に頬に伝っていた涙を感じ慌ててそれをぬぐった。


そして深く息をはいて気持ちを落ち着かせる。悲しい過去は変えられない。でもマリア様はまだ生きている。真理様が『解放』を覚えたことで希望が見えてきた。


もうすぐ願いは叶う……

私はマリア様の優しい笑顔を思い出し唇を噛みしめた。


そして真理様も絶対に守って見せるのだと強く心に刻んた。


――――――

リザ・サイレインス ジョブ:吸血鬼

力1450 硬945 速1170 魔345

パッシブスキル 『状態異常無効』『肉体強化』

アクティブスキル 『吸血』『???』『???』

――――――

『状態異常無効』あらゆる状態異常を無効化する

『肉体強化』瞬間的に魔力による筋肉補正をかける

『吸血』他者の血を取り入れることで魔力を奪い取る

『???』???????????????

『???』????????????

――――――

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