14 火喰
Side:真司
俺は岩山の上の
ミーヤに手を出し合図する。
すぐに胸収納から出した棍を手渡され、それをしっかりと右手に握り締め一気に距離を詰める。そしてその
ガキンと大きな音をたて棍が大きく弾かれたため俺はバランスを崩してしまう。
かなり手加減をしたから仕方がないだろう。
いきなり脳天直撃で倒してしまえばこの依頼を受けた意味がないからな。目的はこいつをねじ伏せ眷属にすることだ。
それにしても近づいて分かったがこいつ結構でかいな。頭を上げた高さは2m以上はあるだろう。
目の前の
もう少し強く打ち込んでみるか。
そう思って再び距離を詰め左の翼付近を目掛けて棍を横に振り抜いてみる。
それをぐるりと体を捻って後方へ下がり躱す
それを慌てて躱すために後方へ飛ぶ。無様にも転がって避ける俺……躱せたんだからいいだろう。ミーヤはすでに俺の背中から離れ後方に待機しているようだ。
「あっぶねー!あの村長、小さな炎とか言ってなかったか?」
思わずぼやいたが、村長も戦闘シーンを見たわけじゃないからな……
「芋を焼くのとは、違うってことか!」
俺は油断することをやめ再度距離をつめる。
ダッシュで近づくと長めに棍の端を持ってぐるりと手を広げ、回すようにその足を払うように叩き込んでみる。それはかろうじて
そして変な足取りでヨロヨロとよろけている
今がチャンスとばかりに棍を両手に持ち替えて、体勢を崩したおかげで少し見えていた
ボキリというちょっと可愛そうになる音が聞こえ「ギャギャギャ」と鳴きながら暴れ出した
そして……
「ギャギャ(魔王様……できれば助けてほしーです!尽くします!頑張ります!食べないでー!)」
なんだよ急に……両翼を地面についてジャンピング土下座をした
ちょっと恥ずかしくなってきた。魔王たる者、眷属たちにみっともない姿はみせられないよな。そんなことを考えていた。そして目の前の土下座中の
「まあいいさ。で、一緒に来てくれるんだよな?」
「ギャギャ(もちろんです!どこへでもお供いたします!存分にお使いください!)」
「じゃあ一応お前は討伐されたって事にするから、あのふもとの村のやつらには見られないように裏から……そうだな……」
俺はミーヤから念のため認識阻害用のネックレスを受け取ると、その
まあ仕方ない。多分は尾の部分は骨に何らかの異常をきたしているだろうし……
「さてと、じゃああっちの南の方から低い位置を飛んで、あの辺かな?あの西の森付近で待機しててくれ。俺が近くに行ったら分かるだろ?」
なるべく村人達からは見られないような経路を指で示してみる。
その言葉ですぐさま起き上がり翼をバサバサとゆすって見せる
「ギャギャ(かしこまりました!ではではー!)」
そう言って命じたままに低空を飛んでいく
こうして俺の初めての討伐依頼は終わった。村に帰って討伐が完了したことを報告すると、村人たちがぞろぞろと出てきて囲まれた。
「こりゃ祝わなー!宴だ宴だー!」とか「酒に魚に芋もある!寄っていけ!」とか「今日は泊まっていくだろ?おらんちに来いよ」とか言っていたが、依頼書に書いてある報酬の金貨5枚だけで十分だと言って何度も断った。
「あんな安い報酬じゃ申し訳ねー」とも言われが、たしかにかなり安い依頼ではある。だから誰もやらずに残っていたようだからな。だが俺には丁度良い依頼だったから受けたのだ。
断り続けていたら村長の娘だという小学生の低学年程度と思われる女の子がやってきて、何かと思ったら村長に「嫁にどうだ」と薦められた……
勘弁してくれ……
そして少女よ。頬に手をあて顔を赤らめないでくれ……
俺は逃げ出すように村から出ると、近くの森で待機している
そして気を紛らわせるように「ものは試しだ」と言って
「ギャギャ(魔王様……すみません……)」
「謝るなよ……俺も恥ずかしくなるだろ……」
飛ぶことをあきらめた俺は若干の疲労感を感じながらも拠点へと戻る。そして山の様に積まれている素材を見て驚くのだ。
とりあえずはとミーヤに留守番組が採取してきたと思われる素材を全部収納してもらう。そしてそれを労うために頭を撫でる作業に入るのだった。みんな仲良く順番待ちをしている。そんなに撫でられたいのかと逆に引く。
採取された素材の中には一部見たことのない何かも混じっていたが、きっといつの日か何かに使えるだろう。
明日はどの依頼をしようか……受けてきた残る討伐依頼はあと三つ。
まだ見る眷属候補に少しだけワクワクする気持ちを押さえ、早めの夕食を取った後、
明日に備えて早めの就寝することとなった。
ギルドでも少し緊張していたし村でも対応に難儀した。もしかしたら気疲れしていたのかもしれない。思った以上に早く眠りについてしまった。
その時の俺は、朝方になって夢の中にあの村長が厚化粧で登場し「お嫁さんにしてー」と追いかけられる悪夢をみて、嫌な汗をかいて飛び起きるという事態が待っているとは思っても見なかった。
「ゆ、夢か……」
結局汗ばんだ体に耐え切れず、朝からまたシャワーを浴びた俺は、急いで朝食を貪り次なる依頼の場所へとミーヤと共に走り出すのだった。
――――――
真司 ジョブ:魔王
力195 硬200 速215 魔180
パッシブスキル 『異世界語』『神の加護』『魔軍』
――――――
Side:エステマ
「今日はどうすっかな」
俺はクリスチアが用意してくれた朝食を食べ終わり今日の予定を考える。
そんな時、サイドテーブルに置いてある通信具の一つが反応を示した。
これは、レイモンズに渡した奴だな。
「俺だ。どうした?」
通信具を操作してそう呼びかける。
レイモンズ・エラシスは帝国と隣接している政治的にも難しいエラシス領を治めている男だ。
性格は温厚で領土の運営もうまくやっていると聞く。
『ご機嫌麗しゅう。エステマ様。朝早くから失礼いたします』
「ああ、大丈夫だ」
通信具からはレイモンズのいつもの軽い口調が返ってきた。
この男には今、自領で農地改革を試してもらっている。
俺が勇者になった際、先代の勇者から色々な知識も俺に流れ込み受け継いだ。
その知識の中にあった新し農地改革法という情報を、広い農地を所有しているこのレイモンズに教えることを以前から提案しており、すでにその一部については伝えていた。
情報と一緒にこの通信具も送っっていたのだ。
『エステマ様から教えて頂いた改革法ですが、かなり成果がでております!』
「そうか。それは良かった」
『ええ。何か御用があれば何でもおっしゃってください!私に出来ることであれば可能な限り協力させて頂きますよ!』
「そうか。それは助かる」
そろそろ頃合いか。
「では近々会いに行く。残りの改革案も提供しよう」
俺はレイモンズに顔合わせを提案した。
『それは嬉しいお言葉!ぜひお願いします!エステマ様はログマリオンでしたね。今すぐそちらに参ります!』
そこ返答に俺は慌てた。
「おい待て!俺がそっちに行く!」
そう返したのだが……すでにその通信は切られていた。
「なんて奴だ!」
俺は少しイラつきながらも再度通信具で連絡する。
一向に繋がる気配がない……
「くっそ!クリスチア、すまない。すぐにエラシス領まで飛ぶ。頼めるか?」
「はい。何時でも出発の準備はできています」
仕方なく俺はエラシス領まで行くことになった。確かに今日の予定は決まっていなかったが……あの男はフットワークが軽すぎて困る。
俺は軽く身支度して庭に設置してある飛行艇へと乗り込んだ。
俺はそもそも勇者様として祭り上げられた存在だ。
最先端の移動手段、この高速での移動が可能な最新の飛行艇を支援する貴族から提供されており、それをありがたく利用している。その事であのバカ王からは生意気だと目をつけられているのだが……
まあそんな事はどうでも良いことだ。
飛行艇があるから移動するのなら俺の方が明らかに早く訪ねることができるのだ。レイモンズの屋敷から俺の拠点までは馬を飛ばしても3日というところをその飛行艇であれば5時間程度で移動が可能となっている。
そのこともしっかりと最初の手紙に書いたのに……
俺は精神的に疲れた体を投げ出すように船内の椅子にだらしなく座る。操縦席のクリスチアと目が合って少し笑われたので「まあ、あまりだらけるのもなんだな……」と独り言をボヤキながら座りなおした。
飛行艇で飛び立って数時間、飛行艇が高度を下げ始めたので窓から下を見る。どうやら馬車を飛ばして移動しているレイモンズ御一行を発見したようだ。
御一行の近くに降りると馬車から飛び出したレイモンズが初めての飛行艇に我を忘れ、興奮しながら「いやーどうも勇者様!素晴らしい飛行艇で!」と言うや否や飛行艇に乗り込んできた。
そして10分ほど中を探索した挙句、我に返ったレイモンズは俺の前で綺麗な土下座を見せてくれた。
そんなところに少しだけ好感を持ってしまう俺もまあ変わっているのだろうな。
「まあ気にすんな」
「ありがたきお言葉……」
落ち込みながら土下座から立ち上がり膝の埃をおとしたレイモンズを乗せ、エラシス領まで僅かな時間ではあったが空の旅となった。残りの者たちは馬車でゆっくり帰るという。
まあ馬車を放置にはできないからな。
そして飛行艇の中では、窓から景色を覗き笑顔を見せているレイモンズ。その顔は少年の様だった。髭面だけどな……だがそれもまた良いと思ってしまう俺。なんだか調子がくるってしまう。
一時間もしない間にレイモンズの屋敷までたどり着き、その屋敷の庭に着陸する。
「ささ、お足もとにお気をつけて……」
「お、おお」
飛行艇を降りる際には笑顔のレイモンズが差し出した手に支えられ降リることとなる。なんだこの男は……優しく差し出された手はとても暖かかった。
もしかしてだが俺を落としにもかかっているのか?なんてことも考えてしまう。まあ良い。たまにはそんな暴挙も許してやろう。
なんてな。俺はそんなバカな勘違いしたりしない。
どうせ俺の機嫌を取るためだ。そうだ、そうに決まってる……
慣れない対応に少しだけ顔に熱を感じるが両手でパタパタと仰ぎながら屋敷の中へと歩いてゆく。そう言えばさっきまでこの手はこいつが握っていたんだな……再度いらぬことを考えてしまう。
今日は少し疲れているのかもしれない。
気持ちを切り替えるように頬を一度両手で叩き、レイモンズの後を追って屋敷へと入ってゆく。
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