07 眷属

Side:真司


魔猫という心強い眷属を得た俺は、北西の町を目指して歩みを進める。


俺がその町へとたどり着いたのは3日後のお昼頃であった。


「しかしミーヤ、お前は本当に優秀だな」

「ニャー(いえいえ!このぐらいの事でお役に立てるならいくらでも聞いてください!)」

俺は魔猫に昔飼っていた猫の名前、ミーヤと名付け北西へと歩いていた。


ミーヤの話では町ではなく村という規模らしく、村の名前も無いようだとも教えてくれた。魔猫は活動範囲も広くかなり情報通のようだ。正直何も知らない俺にはかなり助けになる存在だ。


「ニャー(真司様!まもなく村に到着の予定です。少し休憩でもいたしましょうか?)」

「いや、とりあえずその村とやらを見てみたい。行ってみよう」

ミーヤがコクリとうなずいたので俺は黒いフードを深くかぶり村まで歩き出す。このフードもミーヤが胸袋から出したものだ。便利すぎる。元の世界に帰る時には一緒に連れていきたいもんだ。


「あそこか……」

「ニャー(はい!あそこで間違いないです!)」

その塀も何もない開けた場所に、掘っ立て小屋のようなものがいくつか見えるその村にはいくつかの畑がある程度だった。小さな池か湖か分からない程度の水源はあるようだ。


「ニャー(魔王様あそこを……)」

ミーヤが小さな右手で指差したのは掲示板か何かだろうか、無骨な板が立てかけられているようなものだが、そこには数枚の紙が貼ってあった。


周りに人通りが疎らなのを確認しつつフードを深くかぶりその板の前に移動する。


「困ったな」

そこには今後の天気情報や新しい村の取り決め情報の他に、俺の手配書と思われるものも発見した。似顔絵は……正直似ていない。ただ『魔王現る』と大きく書かれたそれには黒髪黒目の若い男と記載されている。


これだけで俺の特定が容易に思えた。


さっきの町で冒険者たちも見たが黒髪なんて一人もいなかった。金髪だったり赤髪だったり、青い髪の奴もいたな。この世界の遺伝子どうなってるんだと思ったからな。目も青や赤、茶色ってとこまで確認できていた。

ドンガとあった時も珍しそうに全身を見る視線を感じていたし……


「だめだな……いったん離れた場所まで戻るか。どうするか考えよう」

「ニャー(魔王様、一旦ここを離れください。私は少し用事を済ませてきますゆえ。場所はにおいで分かりますのでご自由に……)」

俺はコクリとうなづいた。


俺はミーヤと別れ近くの林へ戻りしばし休憩をした。


「とりあえず食料と安全が確保された寝床か……後はひたすらレベルを上げなきゃな。魚もちょっと食べ飽きたしな……」

ため息をはきながら今後のことを考えた。ここに来るまでミーヤの取って置きだという魚が毎食出てきたのでありがたく頂いたのだが……さすがに干し魚と川の水だけの食事は飽きてくる。


木によしかかって少しだけウトウトしかけたころ、ミーヤに顔を舐められ起こされた。目を開けて見えたその顔がどことなく笑顔に見えた。


「ニャー!(魔王様!大量でした!楽勝でした!お腹がすいた時にはいつでもご用命ください!)」

そう言って胸袋から器に入ったうどんのようなものが出てきた。湯気が立っている。異世界あるあるな収納魔法のように時間停止の効果もあるのだろうか?


俺は考えるより先にそれをふーふーと冷ましながらも舌がやけどしそうになる感覚を覚えながら、器と一緒に取り出されたフォークのような道具で早々に胃の中に流し込んでゆく……久しぶりのまともな料理だった。


うますぎて涙がでてくる。

その涙は、肩に乗ったミーヤがペロペロと舐めてくれた。


「おい、くすぐったいぞ。やめろよまったく」

俺は少しだけ頬を赤くしながらミーヤに辞めるよう命じた。少ししょげるミーヤに「ごめんこめん。ありがとな」と謝り感謝を伝えた。まさか飯のことで涙が出るなんて恥ずかしくて仕方なかったんだ。


出されたものを全て胃の中に収めたあとにミーヤに聞くと、食料以外にも毛布や雨をしのぐ合羽、飲み物もかなりの量をこっそり拝借してきたという。スキルではなく特性として隠密のような動きができるようだ。


本当に優秀な相棒である。


お腹を満たした後はその村に入ることを諦め、林の奥へと進んでゆく。


まずは魔物と遭遇する為だ。

もっとレベルを上げなくては……そして目指すがあの黒い狼だ。

リベンジはもちろんの事、きっちりと力でねじ伏せて眷属にしてやる!と自分の中で復讐心を燃やしたのは言うまでもない。もちろん何よりも周りから恐れられている魔物だ。眷属になるなら強力な戦力になるだろう。


当面の目標?もしかしたら最終目標かもしれないそれを決めた俺は、林な中を足早に進んでいった。


10分程歩き回っていると最初の魔物に遭遇した。

最初に遭遇したのは……兎?角が生えているが50センチほどの高さの兎だった。それがこちらへ一直線で飛んできた。そして俺はそれを横から蹴りつけた。「ピー!」という鳴き声と共に転がる兎。

蹴った足には何とも言えない感触が残っている。


しかしその兎はむくりと起き上がる。

この程度じゃ倒せないのか?そう思った時にはピロン!と音が鳴りレベルが上がったことがお知らせされた。


『レベルアップしました』

――――――

真司 ジョブ:魔王

力30 硬60 速85 魔30

パッシブスキル 『異世界語』『神の加護』『魔軍』

――――――


ステータスを確認すると力が5上がっていた。なるほど。この程度であがるのならすぐに3桁になるのも出てくるかもな。そう思いながら起き上がってこちらを見ている兎を眺めていた。


「ピー!(魔王様!私は角兎といいます!見たところ猫もいるようですね!どうか私も仲間にしていただけませんか?)」

なるほど……こういうシステムなのか……


「分かった。お前は何ができる?」

「ピー(私は他の魔物の感知が得意です!魔王様には負けますが素早い動きにも自信があります!)」

「なるほど。じゃあ俺の周りに魔物が来たら知らせてくれ」

「ピー(承知しました!)」

こうして新たな眷属、角兎を得た俺は新たな眷属の名前を考える……そしてそれを途中でやめた。こんな感じで眷属にしていったら名前を考えるだけで一苦労だ。ミーヤは特別として後は名前は決めない!そう決めたのだ。


まあ今後はわからないけどね。


まだ時間は十分にある。そう思わないと焦ってしまう。どうせ今のままで乗り込んだところで返り討ちになるだろう。まずはしっかりとレベルアップして魔物を引き連れ真理を助け出すんだ。

そう思って俺は林の中をさらに進む。

そして角兎が一鳴きして教えてくれたので警戒していると……


角兎だ。しかも2匹……また俺が蹴り飛ばさないとダメかな?そう思っていたら「ピー!」と一鳴きした眷属の角兎が飛び出していった。何を言っているのかわからなかったのは俺への言葉じゃなかったからか?仕組みがいまいち理解できない。

眷属兎が2匹の兎の片割れに体当たりしてからもう一鳴きする。


「ピー!ピー!」と鳴いてた後、何やら話し合いがもたれたようだ。向こうの2匹も返事を返している。そしてしばらく後にはその2匹の角兎を引き連れた眷属兎が俺の元へと帰ってきた。


「ピー!(この者たちも新たな眷属として加えてもよろしいでしょうか?)」

「ああ。かまわんよ」

「ピー!(ありがたき幸せ!では、私の方で教育はしっかりと致しますので!)」

そう言って眷属兎1号は2匹を引き連れて少し離れた位置をキープして何やら話をしているようだった。なるほど。こうやって数を増やすこともできるのかと思った。その話し合いは1時間程度続いた。


俺はその間、ミーヤに出してもらったモッモという名の、いわゆるモモみたいなのを食べお腹を満たしていた。めっちゃうますぎるんだが……最高級品って感じの味だった。なんだよスゲーな異世界!と少しだけ興奮してしまう。


その後、俺は日が暮れるまで林を探索し新たな角兎1体、蹴り倒した小さな魔狼1匹とそれがさらに噛みついて説得した1匹の魔狼が新たに眷属として加わった。角兎が計4体、魔狼が2体だ。

角兎はほとんど見た目では分からない。だが一番最初のだけ少し角が長い気がする。魔狼の方は、最初の個体は黒っぽい毛並みが綺麗な個体だった。後から来た方は少し青みがかっている。それもまた綺麗に見えた。


その魔狼についても最初の1匹がリーダーとして動くようなであったが、後からきた方と改めて激しいバトルが始まり結局は1匹目の魔狼が勝ち、リーダーはそのままとなった。

魔狼は互いに意思疎通できるようで、集団での狩りもできるというので今後も活躍するだろう。連携をするならもう少し数が欲しいが多分徐々に増えてゆくだろう。


あと背中に乗れるということだったが、多分走っている最中に振り落とされそうなのでやめておいた。俺だって眷属の前で無様な姿はさらしたくないからな……


「それより、一旦眷属になることは了承したみたいだけど、また戦ってたな。強さによってはリーダー交代なんてこともあるのか?」

「ニャー(あり得ますよ。ただ我々魔族は種の中で魔王様に最初に眷属となった個体により多くの力が流れるのです!)」

「なるほど」

「ニャー(なので最初に眷属となった個体が同種の魔物の中ではかなり強い能力を魔王様に付与された、という事になるのです!)」

そうだったのか。


「ニャー(その差があったとしても元々強い個体であれば覆されリーダーが交代もあり得ます。その場合はその勝った方の個体に魔王様の力が流れるようになり、さらにその個体が強くなるのです!そうやって魔王軍はさらに力をつけるのです!)」

何やら力説しているミーヤの目は輝いて見えた。


「ミーヤはやっぱり物知りだな」

「ニャ!(私は魔物界の物知り学者と言われた魔猫の一族ですので!)」

ちょっとだけ違った鳴き声でドヤるミーヤを撫でると嬉しそうに喉を鳴らしながら、胸袋から暖かいスープとお肉の乗った皿を取り出した。肉の匂いに目がくらむ思いだった。やっぱり力を付けるなら肉だよな!


美味しいお肉を頬張りながら元の持ち主であろう誰かに軽く謝っていた。

お腹が満たされると疲れもあって急激な眠気がきたので今日のとことはと眠りにつくことにした。暗い林の中ではあるが、周りを眷属の魔物達に囲まれてるので安心して眠ることができるだろう。


ミーヤが毛布のような布を3枚ほど出してくれたのでふかふかの環境で寝ることができた。

もちろん今日のお昼に行った街でパクってきたやつだ。そして胸にいるミーヤもとても暖かくそれもまた安心できた。今日はゆっくり眠って明日からまた強くなろう。そう思って目を閉じた。


地球とは違い一切音の無い夜。意識がなくなるのはすぐのことであった。

真理、待っててくれ!絶対助け出してやるから!


――――――

真司 ジョブ:魔王

力35 硬60 速85 魔30

パッシブスキル 『異世界語』『神の加護』『魔軍』

――――――

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