04.特訓

翌日。


「リザ、リザは魔法とか詳しいの?」

「魔法……ですか?スキルのことで良いのですよね?」

なるほどここでは魔法ではなくスキルなのか……


「そう、かな?」

「私も一応最低限の教育は受けておりますので多少のことはお教えできるかと。真理様は今、ステータスはどのような感じなのでしょうか?」

何を言っているのか分からない。


「ステータス?」

「あの、ドロウンズ様はそのような基本のことについても教えていなかったのですか?」

ちょっとだけリザが怖い顔をした気がした。


「そうだね。無能すぎない?」

「はい……ステータス、と頭の中で良いので唱えて下さい。自分の今の能力値などが確認できます」

そういうことが。ゲームみたいに能力を見ることができるんだね、


「ステータス」

私は思わず口に出してしまった。そして目の前に表示された青いウインドウの隙間から見えたリザが、一瞬口元をヒクつかせていたのを私は見逃さなかった。


「リザ……笑いたければ笑っていいのよ……」

「くふっ……も、申し訳ございません。その、つい……」

私もつい口にした言葉にかなり恥ずかしかったけど、笑いをこらえながらも謝るリザを見てたらどうでも良くなった。


そしては自分のステータスを確認する。


――――――

真理 ジョブ:聖女

力5 硬5 速5 魔80

アクティブスキル 『結界』

――――――


数値などを読み上げる。

リザの話では初めから魔力80はかなり高いらしい。もしかしたら昨日のあれで少し上がったのかもしれないけど。ただ、そもそも聖女のスキルはどれも魔力効率が悪く『ホ―リーライト』は特に多くの魔力が必要とのこと。


大丈夫だろうか私?


とりあえず、とその日から何度も何度もあの一角兎の檻に向かって光を放つ。少し具合が悪くなったらそのまま床に寝そべった。ひんやりした床の気持ち良い。こまめにステータスも確認する。

現状は1時間程度で1ぐらい上昇するようだ。地道な努力なのだろうが、どれぐらいの魔力が上がれば『ホ―リーライト』が習得できるかが分からない。そもそもこの修行で『ホ―リーライト』が習得できるのかも分からない。

だが、少なくともドロウンズがやれと言った修行だ。それで『ホ―リーライト』が習得できない修行であったなら八つ裂きにしてやりたい。魔力が尽きるとかなりきついのだ……

ゲームみたいにマジックポイント、なんて見れたら良いのに。完全に感覚で覚えるしかないのだ。気だるくなった限界で休むのが一番効果的なのだとリザから聞いた。あと「気絶するまで使うと命の危険もあるからやらないでください!」とも言われた。


とにかく一日も早く『ホ―リーライト』を習得したい。


だがここで一つ問題が生じた。

『ホ―リーライト』を習得したら、私は魔物を消滅させて回るため連れまわされるのだとか……そして全てが終われば私は用済み……そうリザから聞いた時には体調が悪化した気がしてベットに潜り込んだ。


3日ボウズならず1日ボウスだった。


ベットに寝たまま過ごした夕方、リザが「只今戻りました!」と息を切らせて戻ってきた。

お昼頃に「ちょっと出かけます」と言って出ていってしまったので、もしかしたらさぼった私に呆れて出ていったのかな?と思って泣きそうになっていた私は、布団をガバリとめくってリザに抱き着いた。


「真理、様……あの、どうしたのでしょうか?」

「ごめん……リザが私に呆れて出ていってしまったと思って……」

私の言葉にリザが「呆れたりなんてしませんよ。真理様のお気持ち分かりますから……」と背中を撫でてくれる。本当に泣きそうだ。


「ご不安にさせてしまいましたね。真理様にはこれを、と思いまして……」

「なに、これ……」

リザは私にブレスレットのようなピンクの石がいくつか並んでいる物を見せてくれた。そしてそれを私の腕にカチリと嵌めてくれたのだ。まさか!落ち込んだ私を元気づけるためのプレゼント!


「あ、ありがとう。リザ……似合う?」

私は照れながらもブレスレットをした左手を上にあげ、それをリザに見せてみた。


「とても、似合っていますよ」

リザの言葉で嬉しくなってしまう私。


これからどうなるか分からないけど、もう少しだけ頑張ってみようかな?と少しだけ元気が出てきたのを感じていた。もしあのバカ王が無理を言うのなら、また死ぬぞと脅してみよう。


鼻息を荒くしていた私の腕に嵌められたブレスレット。それにリザが再度優しくふれる……


「今、スキル固定の設定をしました。そのブレスレットを身につけておけば、ステータスから他のスキルが視えることはなくなります。だから私以外の誰かがいる場合は、必ず身につけていてくださいね」

「えっ?なんて?」

私は今、絶対アホな顔をしているだろう。


ただのプレゼントではなかったようだ……


「そのブレスレットをしていれば、真理様が『ホ―リーライト』を習得した後も、他の人から鑑定の魔道具でその他のスキルを見られることはありません」

「なにそれ、凄いね!」

私が驚きながら叫ぶ。それに合わせてリザも笑顔を見せてくれた。


「能力値も少なく表示することも可能なので、都度私が設定いたしますね」

「うん。リザ、ありがとう」

「いえ、真理様の為ですから……」

リザは本当に良い子だ。もうこれが嘘なら私は潔く騙されよう。


私はリザをもう一度抱きしめ、明日からまた頑張ろうと誓った。

ちなみにこのブレスレットはそれなりに貴重なものでお値段もそれなりに……とのことだが、不要になれば同額で買い取りできるというレベルの物らしい。金とかと一緒かな?自分の貯金の範囲内だと言うが本当かは分からない。

でも今はありがたく使わせてもらおうと思った。


帰る時が来たらリザちゃんお持ち帰りできないかな?

地球で一緒に暮らしたい。


そして翌日。


私は朝からモリモリと食事をお腹に流し込む。

昨日のリザの思いがけない素敵なプレゼントにより、やる気に満ちていた私は食事が終わったらすぐに修行を行おうと思っていた。魔力を使うとお腹が空くのだ。


そしてリザが食事を片付け、そして奥の部屋からすでに数日この部屋に連泊している一角兎と向き合う。今日こそは……浄化してやる!そんな思いで檻を床に置いてその前に正座する。

対峙した一角兎はどことなく余裕を感じる。今に見ていろ!絶対に浄化してやるんだから!そして気合十分で私が両手をかざしたその時……

ドロウンズがノックと同時に入ってきた。


殺意が湧き上がってきた。


「ドロウンズ様、部屋へ入る際はこちらの返事を待ってから入室をお願い致します」

「うるさい!このメイド風情が!」

ドロウンズが注意したリザの肩をドンと押す。よろけるリザ。


「ちょっと!リザは私のメイドなのよ!今度何かしたら……死ぬから」

「なんだと!」

ドロウンズが顔を真っ赤にしてこちらを睨む。


「ドロウンズに乱暴されたから死にますーって城中を叫びながら走り回って、それから死んでやるんだからね!」

私は怒りに任せて思いついたことをそのまま言ったのだが、我ながら良いフレーズだったなと思う。


「くっ……」

ドロウンズはそのまま部屋の隅の椅子にドカリを座り込む。イライラとした表情でこちらを睨みつけてくる。やっぱりこいつは私に何かあったら色々困るのだと確信した。そして私は。先ほどの怒りに任せてさらに煽ってみることにした。


「そんなところに座ってないで謝って。リザに今すぐ謝罪して。謝らないならもう部屋に来ないで!ホーリーライトが成功したらリザに速攻報告してもらうから、自分の部屋で大人しく待っててよ!」

「この小娘が!いい気になりやがって!誰が謝るか!」

「じゃあ出てってよ」

「くっ……」

暫く百面相をしたドロウンズは、またドカドカと足音をたてて部屋を出ていった。ドアは大きな音をたて部屋が激しく揺れるほど強く閉められたけど……小さい男だ。


「真理様、その……ありがとうございます。でも、良かったのでしょうか?」

「いいのよあんな奴!それよりこれで修業しやすくなったわ!さくっとホーリーライト覚えて、さらに何か身を守るスキルでも覚えなきゃ!」

やる気に満ちた私は拳を高くつき上げ、それを見てリザは笑顔を見せる。すぐにでもホーリーライトが使える気がした。


修行を再開した私。

だが、やはり簡単ではなかった。確かに光が大きくなっている気がしないでもない。だが魔力は急激に増えているわけでもないし、スキルにホーリーライトが増えてもいない。何より角兎は相変わらずふてぶてしく寝転がっている。


結局何度も枯渇を繰り返し、就寝前には魔力は87まで上昇した。朝82だったから今日は5だけアップ……一日この程度しか上昇しないなら無理じゃない?これ何日かかる?というかゴールどこなの?

終わりが分からない不安に心が押しつぶされそうになった。


それでも続けなくてはいけない。すべては元の世界に変えるためだ。


◆◇◆◇◆


そして数日後、私の魔力は120まで上昇した。

今日は10ほど上がった魔力。少しづつだが上がるペースが速くなってきた。希望が見えてきた。もはや忘れた存在だった王宮魔導士のドロウンズですら300程度の魔力らしい。私の才能が怖い!なんてね。


順調な私だが、実は毎日困ったことも起きていた。


ドロウンズが来なくなった翌日、イケメンエルフがやってきた。

大神官という職にある教会のトップだという。見た目は若いがこれでも高齢だという彼は、魔法に長けた種族なので魔力の扱い方を教えてくれるという。そして最初の挨拶として握手までは我慢した。

だが修行と称して「手の角度はこの方が良いですよ」といって私の手にそっと触れようとした。私は瞬間的に『結界』を発動した。「ぐえっ」と無様な悲鳴を上げイケエルフは弾き飛ばされた。


「な、何をする!」

「私にさわるな!」

尻餅をつきながら部屋の隅に飛ばされたイケエルフは、舌打ちをして部屋から出ていった。何しにきたんだとイライラが募る。


翌日はイケオジ執事が来て「何かあればなんなりと」と言ってきた。「リザがいるから何もないよ」といったら舌打ちをして帰っていった。この世界で舌打ちが大流行しているらしい。

その翌日はマッチョ戦士が、次の日は魔女っ娘が、そして今日はショタっ子がやってきた。ショタっ子は「お姉ちゃんがんばって!」と応援するだけであった。ほんとに何しに来たの?と思ったが少しだけキュンとしてしまった。

私は毎日の修行で疲れているのかもしれない。


ショタっ子を追い出した後、リザをそっと抱きしめた。何かが回復している気がした。

絶対に色恋や情にほだされるものか!私には真司がいるんだ!できるだけ早くここから逃げ出せるようなスキルを覚えなきゃ!あらためて修行に全力を尽くすことを誓った。


私は、絶対に真司と一緒に帰るんだ!


――――――

真理 ジョブ:聖女

力5 硬5 速5 魔120

アクティブスキル 『結界』

――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る