03.思惑

Side:真理


私は、ここは、真司は?

眠い目をこすり目が覚める。


ぼやける意識が覚醒する。そうだ私は!慌てて体を起こすと、目の前には洋風の屋敷かなにかの大きな部屋。カラフルな木目の家具が並べてあって、寝ているのは絵本にでてくるような天幕のついたベット……ここは……どこ?


「お目覚めでしょうか」

「だれ?」

声に気づいてその声の主を探す。窓の反対側、おそらく部屋の出入り口であろう扉の横に、メイド服を着た女の人が立っていた。セミロングのふわふわした金髪で青い瞳の美少女たっだ。


年は同じぐらいだろうか?


「真理様の専属侍女のリザと申します。何かあれば何なりとお申し付けくださいませ」

そう言ってリザといった少女は頭を下げた。そうか、だんだんと記憶が思い出される。


放課後の教室で、ちょっと真司といい感じになってイチャイチャできるかな?って思って……勇気を出してもたれ掛かる様に抱き着いて……そして真司も抱きしめ返してくれて……折角良い雰囲気だったのに!

思い出すと怒りがまた湧き上がってくる。


そして変な場所にいつの間に移動していて、そしてあの首輪?あっ、この首輪だ。これが漫画みたいなやつだ。この首輪のせいであのデブ王の言う事に購えなくなっていた……

私は試しにその首輪に手をかける。

そして留め金の部分をなんとか外そうとするが、全身に電気を流されたような激痛を感じ大きな悲鳴を上げた。やっぱり夢ではなかったようだ……


「真理様!それを外そうとするのはおやめ下さい!死んでしまいます!」

リザの心配するような言葉……だが気を許すわけにはいかない。ここには敵しかいないと思って行動しなくちゃ!私はその先を思い出す。


あの時、真司は私を止めようとしてくれたのに首輪を自分ではめてしまった。迂闊だったと今なら分かる。そして私は体の自由を奪われた。引き寄せられるようにあのデブの元へ歩き出す体。

購うと激痛で全身を痛めつけられていく。でも真司以外の男にふれられるくらいなら死んだほうがまし……その後、真司はどこかへ飛ばされた。飛ばされたという真司が最後に「絶対に助けるから!」と言ってくれた。


「私に少しでもふれたら死んでやるから!寝てる時だって真司以外の誰かが、私にさわったと私が感じたら……躊躇なく死んでやるから!」

私はあの王だと言っていたデブに、最後の力を振り絞り告げたんだ。


直前の会話から、私が死ぬことは避けたいというのは感じた。だからそれを利用した。そこで私の意識も途切れている。

私は何としても自分の身を守り、真司を待つんだ。真司の絶対という言葉は信じられるから……


そして私は、リザに「もう大丈夫だから」と安心させ、可能な範囲で状況を説明してもらった。


どうやら私は、これから少しづつで良いので聖女としての力を目覚めさせ、魔物の力を弱める『ホ―リーライト』というスキルを取得しなくてはならないようだ。そのスキルさえ習得できれば魔物からの侵略をおさえることができるらしい。


リザは「それがこの国の人々に安寧をもたらすことができるのです」と淡々と話してくれた。

信じていいものか悩むが「お辛いでしょうがどうぞ民の為……」と同じように淡々と言ったリザの目から、自然と涙がこぼれていたのを見て、少しは信じても良いのかもしれないと思った。


「わかったわ。できる事はする……でもあの王は嫌い。私にちかづけないで……」

「はい。何があってもお守りします!」

涙をぬぐってそう答えるリザ。この子はあまり表情にも声にも出さないが、やはり感情はあるのだと感じる。少なくとも今のところ私に敵意は見えない。


「あと、真司をどこに飛ばしたのか可能なら調べれないかな?できればすぐに助けてほしいんだけど……」

「かしこまりました。どこまでできるか分かりませんが、秘密裏に動いてみます」

「ありがとう。でも無理はしないでね……」

なんだか私に絶対服従といった雰囲気も醸し出していたリザに思わず無理しないでと伝えたのだが、それには何も返答せすに頭を下げるだけだった。少し心配してしまう。そう思う事がすでにあの王の、いやこの国の思惑通りなのかな?


私は真司が助けてくれると信じて待っている。だけど私も真司を助けるためにできることはやろうと思う。絶対に二人で地球に帰るんだ!


そしてその日から、修行の日々が始まった。

最初は檻に入れられた小さな兎のような魔物、一角兎という魔物が運ばれてきた。これでも子供を襲って食べるのだという。見た目がこんなに可愛らしいのに……異世界って怖いよね。


最初に王宮魔導士だというドロウンズという男を紹介された。たしか最初の召喚された時にもいた男だ。真司を飛ばした時にも偉そうにふんぞり返っていた気がした。最初にあった時に睨みつけたら舌打ちをされた。

コミケなどに登場したら人気が出そうな俗にいうイケメン魔導士みたいな見た目だが生理的に無理。なるべく近づきたくないがとりあえずダメもとで「真司はどこに飛ばしたの?」と聞いたら「知るか!」という返答が返ってきた。


殺意が沸いた。


だがあの強制転移というスキルは、強制的に誰かをどこかへ飛ばす秘術とのことで、本当に知らないらしい。


「分からないなら分からないって言えばいいじゃない」と煽り気味に言ったら「そういうものなんだ!」と顔を真っ赤にして怒っていた。今にも殴ってきそうなぐらい拳を握って少しだけ上げていたけど踏みとどまったみたい。

あのデブ王から何か言われてるもかも。


ついでに怒りですぐ近くまで歩み寄ってきたので「近づかないで!息、臭いよ」とさらに煽ったらドシドシと部屋から出ていった。部屋の外から叫び声が聞こえたので少しだけすっきりとした。


暫くしてからまだ顔を赤くしてイライラしているドロウンズからスキルの使い方を学ぶ。とは言っても「考えるんじゃない!感じるんだ!」とどっかの漫画のようなセリフで全くアドバイスにならない。

仕方なしに「他に何か教えれることある?」と聞いたら「お前ごときに崇高な理論が理解できるわけないだろう!」というなんともイラつく返答が返ってきた。

それではいても意味がないんじゃん!と思った私は「じゃあもういいから黙ってて。もしくはどっか行って」と伝えたら部屋の隅にある椅子にドカリと座って不機嫌そうに黙ってこちらを見ていた。


どこかに行ってればいいのに……


仕方なしに漫画なんかを参考に手を突き出してみたり小さな雄たけびを上げてみたり、心を落ち着けたり熱くざわめかせたりと色々と試してみる。そして目の前の兎を浄化するよう願う。

必死にやっているその様も自分で笑える状況だというのも分かっている。地球でやったら完全なる中二病だ。失笑の的だ。


それよりも私が必死に何かをやる度にドロウンズが「ぷっ」とか「くふ」とか笑いをこらえているような声を出すので邪魔にしかならない。本当にどっか行ってほしい。リザに言ったら排除してくれるかな?

そんなことを考えながらため息をつきながら手をかざしていたら、今までと違って何か内側から溢れる何かを感じることができた。それと同時に翳していた手から白い光が少しだけ揺らめく様に出ていた。


「えっ」

ドロウンズの声がしたので見てみると驚いた後、悔しそうに顔を歪めていた。ちょっとスッキリした。


そのままその光をキープしようと思ったけどすぐに消えてしまう。でもコツは掴んだかも、と思ってさっきのようにリラックス。そしてまた同じように光が揺らめく。

目の前の一角兎は少しだけ嫌そうな顔をして光をチラチラ見ている程度であった。こんなもんじゃダメなのかな?もっと強くするにはどうしたら良いものか……ドロウンズには聞いても多分教えてくれないだろう……


結局その日はそれ以上に進展はなかったので2時間程度で修業を終えた。そして私は、お昼過ぎたぐらいから調子が悪く出された食事を少しだけ食べるとベットに横になった。どうやら熱もあるようで気だるい。

そしてそのまま眠りについた私は、幼い頃の真司とのことを夢に見る。私より、まだ体が小さかった頃の真司。私の後を一生懸命ついてくる真司。


そして「俺は絶対お前より背も高くなって、そして強くなってお前を守る!そしてお前と結婚する!」なんて……まだ小3の真司が顔を真っ赤にしながら言った時のことは、今でも鮮明に覚えている。


その後、中学に入る頃には真司の方が背が高くなっていた。すぐに告白してくれるかな?って思ってたけど……結局高校に入ってから昔の話しをしながら流れで告ってくるって……遅すぎない?

そんなことを夢に見ながら、私は泣いていた。そしてそれを誰かが拭ってくれている気がする……真司……早く助けてよ……


そこで私は目を開けた。

目の前には、白いハンカチで私の涙をぬぐってくれている心配顔のリザが見えた。


「し、失礼いたしました……」

手を引っ込め、すっと立ち上がると後ろへ下がるリザ。


「いいの。ありがとう……私、ちょっと調子悪くなっちゃって……。でも少し治ってきたかも!」

気付けば気だるさが抜けている感じがしたので恥ずかしさもあって空元気も含めてリザにそう伝える。


「おそらく初めて魔力を扱われたので熱を出されたのでしょう。初めて魔力を扱った子供も良くそうなりますので……あっ、真理様は転生者様ですので、その、当然のことなんですよ?」

焦るリザに思わず笑ってします。そして消え入りそうな声で「恥ずかしいことではありません……ので」と言われ、やっぱり信じても良いのかな?と思ってしまう私は迂闊なのだろうか……


「ふふ、大丈夫だよリザ。気にしてないから。でも、まだ私、弱い光しか出ないみたい……どうしたらいいのかな?」

リザは顎に人差し指を添えると首を傾げる。


「魔力は使うほど増えますよ?限界まで使うと気絶しちゃいますけど……」

「えっほんと!それいいね!ドロウンズは何も教えてくれなかったしね!」

「でも無理しちゃダメです!そこは……気を付けてほしいです……」

「わかった。ありがとうね、リザ」

リザの心配顔が可愛い。何かに目覚めちゃうかも。


私は、異世界でひとりぼっちとなって少し心が弱くなっているのかもしれない。何かに寄りかかりたい……リザがあのバカ王の差し金であったとしたら、それはもう私の自己責任として受け入れよう。

リザは信用できると今の私が判断したんだ。最後まで……信じてみよう。


「リザ、私、あなたは信用できると思っている……でも他の人は信用できない。だから可能な範囲でいいから、私を……守ってね」

「はい。もちろんです!」

私が心強いパートナーを手に入れた瞬間である。なんてね。


とりあえずやるだけやってみよう!明日から魔力を使い切る勢いでいこう!私はその為に夕食をお腹がパンパンになるまで食べきっていた。味付けがちょっと地球とは違うけど、それなりに美味しい食事だった。

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