4. 正しい接客って?

 私には、かつて悩んだ問題があった。

「接客で大切なこととはなんだろう」


 とある、小さな本屋が、私の仕事場だ。

 といってもあまりお客は来ない。それもあり、店員は接客に慣れている人ばかりでもない。


 本屋と同じ系列で、ほかにも店がある。

 ある日、そちらを仕事場としている友人が、本屋の店長に、こんなことを訪ねていた。

「接客の際の言葉使いについて」


 例えば。

「こちらでよろしいでしょうか」

「ごゆっくりご覧くださいませ」

といった言葉使いが、誰になら正しいのか、等だ。

 

 ふと、思うことがある。

「丁寧な言葉だけが、必ずしも正しいのか?」

 普通に考えれば、当たり前なのだろうが。

 言葉使いやその相手により、使い分けはあるのではないか、と。

 本屋に来るお客のなかには、何にしようか迷っているひともいて、ごく稀に「一緒に考える」ことがある。

 又は、商品の会計に手間取っている際、何かの会話をすることも。

 私は、さほど器用な人間でもない。丁寧な、正しい言葉を探していると、きっと自分なりの接客はできなくなる。色々考えて不自然になるだろう。

 なので、よほど言葉に厳しい客でなければ、一番に気をつけるべきは言葉使いではない、と考える。


 私は、お客の迷いに寄り添うことを一番に考える。

 「寄り添う」にも色々あって。

 語る想いを、ひたすら聞くこともあれば。時々自分の感情を出して、買う後押しをすることもあった。買った本により、その本についてを語ることもある。


 「迷う」と言うのなら、気がすむまで迷えば良い。その日にこたえが出せなければ、また日を改めて迷ったって良い。

 迷いが晴れた時こそ、心地よい風となる。感情は、私たち人間の特権なのだから。


 説明や後押し、感想や迷いに同調するのは、店員としての一つのやり方。

 でも、最後にそれを持ち帰るのかを決めるのは、誰でもなく、お客本人だ。

 この考えは、おそらく「本選び」だけに限った話でもない。

 その人が、これからどんな人生を歩むのか。助言や力添えをすることはあれど、足を進めるのは誰でもない本人だ。


 ただし。それこそが正しい、そのほかが全て間違い、だなんてことはない。ただの考え方の方向の違いだ。

 接客にも、その人それぞれに十人十色のやり方や志し、大切だと思うことも違ってくる。

 きっと、それこそが私の考え方でもある。みんな違うことこそが、なにより良いのだ。

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