第14話 隠しダンジョン
今日も有希と共に裏世界にやってきた。その日のスタート地点の近くにはホームセンターがあった。
ホームセンターは宝の山である。売れる物が大量にあるからだ。
「ドロボウ?」
「これは世界を救うために必要なことなんだ」
「ウソついた」
「ウソじゃないぞ。必要なんだ」
多佳晴と有希はホームセンターの中を駆け回り売れそうなものを集めていく。ノコギリにバールに鉄パイプ、それにチェーンソーなど攻撃力の高そうな物を集め、ホームセンターの外にあったATMですべて売り払う。
『経験値を53219獲得しました』
とにかく売る。売って売って、ホームセンターが空っぽになる勢いで売りさばく。
物を売って獲得した経験値を使用しステータスを上げていく。新しいスキルを取得し、取得済みのスキルのレベルも上げていく。装備へボーナスを振り、アイテムの補充もしていく。
有希の方はステータスを上げながら人造ファントムたちの強化も行う。装備の強化も忘れてはならない。
「そろそろ魔法に手を出す時期か? しかし、そうなるとMP回復用のアイテムも必要になるな」
現在の多佳晴のステータスは物理攻撃メインの構成だ。所持しているスキルもそちらに寄っている。ゲームのアナザーワールドでのプレイスタイルは魔法か物理のどちらかに絞って強化するのが多佳晴のやり方だった。というかどちらかしか選べないというのが正しいだろう。
ゲームの場合、かなりシビアな経験値管理が求められる。もちろん物理と魔法のどちらも強化することができるが、両方を選ぶと中途半端なステータスになってしまいゲームクリアが厳しくなる。特に真エンディングのラスボスを相手にするには魔法か物理のどちらかに特化し極めるぐらいでないと倒すことが難しい。
だが、ここはゲームとは違う。侵蝕という制限時間はあるが、準備できる時間が長い。本来のアナザーワールドのストーリーの始まりは主人公が高校二年生の時に転校してからの1年間だ。今の多佳晴は小学生で、メインストーリーが始まるまで数年間の猶予がある。その間に経験値稼ぎを続けて行けば物理と魔法の両方を極めることも可能かもしれない。
「多佳晴、楽しそうだね」
「ああ、楽しい」
楽しい。裏世界と言うはっきり言って危険極まりない世界にいるのに多佳晴の胸は躍っている。
「楽しめるのは今のうちだからな。楽しめるうちに楽しまないと」
そう、今のうちだけだ。楽しいのは今だけかもしれないのだ。
多佳晴は外に設置されたATMブースの中から外へ目を向ける。その視線の先には今は何もないが、時期が来たらアレが出現するはずだ。
『災王の塔』と呼ばれるダンジョンだ。そのダンジョンのボスは名前の通り災王である。
その塔は災王の復活と共に現れる。今はまだどこにも見当たらないが、いずれは姿を現すはずだ。
それまでに準備を済ませておかなくてはならない。塔が出現したら今よりもファントムの活動は活発になり、今のように余裕をもって行動することができなくなるだろう。
今のところは順調だ。HPや攻撃力などのステータスはカンスト済み。装備も充実させているし、スキルも必要なものはあらかた取得した。これから魔法の方を強化していくことも検討したいが、それよりも気になる物がある。
「緑の鍵、か。さて、どうしたもんか」
多佳晴はATMの画面に表示されたアイテム購入画面をスクロールする。そのアイテム一覧の一番下には『緑の鍵』というアイテムが表示されている。
この緑の鍵はゲーム攻略にはほとんど関係がないアイテムだ。購入するために必要な経験値も1000000と高額で、ゲームを普通にプレイしていたら手に入れることはかなり困難なアイテムである。
だが、この緑の鍵はとある場所に入るために必要なアイテムなのだ。
それが隠しダンジョン『白の迷宮』である。アナザーワールドというゲームのエンドコンテンツの一つであり、おまけ要素の一つだ。
この白の迷宮に入るためには三つの鍵が必要で、緑の鍵もその一つだ。
それ以外の二本が『赤の鍵』と『青の鍵』である。
赤の鍵の入手方法はフィールドにランダムで現れるビーストファントム『極ティラノサウルスレックス』を倒すことで手に入る。このファントムはかなり強力であり、しかも出現がランダムなので遭遇するだけでも難しい。
それに比べて青の鍵の入手方法は簡単だ。ゲームの攻略対象であるヒロイン三人の好感度を一定以上に上げるだけで手に入る。
この三本の鍵を使用することで白の迷宮に入ることができる。しかし、入ったところでそれほど意味はない。攻略すると勲章が手に入るがそれだけである。その勲章もただの勲章で、ステータスが上昇するなどの特別な効果などまったくない。
ただし、白の迷宮は経験値がかなり美味い。しかも迷宮内では侵蝕の影響を受けないため無限に経験値稼ぎができる。
ゲームを攻略するだけなら必要のないアイテムだ。だが、今はとにかく経験値が欲しい。
「緑の鍵はどうにかなる。赤の鍵は、運が良ければいける。だが、青の鍵は……」
そう問題は青の鍵だ。ゲームの場合ではヒロインたちの好感度を上げれば手に入るが、ここはゲームとは違うのだ。
「まさか一番簡単に手に入る鍵が一番難しくなるとは」
道明寺櫻子を含む三人のヒロイン。彼女たちの好感度を上げなければ青の鍵は手に入らない。だが、肝心のヒロインたちがいない。これではどうやっても青の鍵は手に入らない。
残念だが、今はどうにもならない。というか、どうやっても無理だろう。ゲームと同じ入手条件だとしたら不可能である。
諦めるしかない。本当に残念だが、無理だ。
「俺を好きになる人間なんざ、いるわけないさ……」
モテないのは前世からのことだから慣れているはずだが、はずなのだが。
転生したのだから、少しぐらいは。と、思ってしまうのも事実だった。
『経験値が足りません。現在所持している経験値は0です』
いくら経験値を稼いで強化しても現実では全く意味がない。裏世界でいくら強くなっても表の世界ではただの小学生でしかないのだ。
前世と全く同じ姿の不細工な子供でしかない。転生したらイケメンでモテモテなんて都合のいいことは、ない。
少なくとも多佳晴にはなかった。
多佳晴は顔に触れる。般若面の硬い感触が指に伝わり、少しだけ安堵する。
「泣いてるの?」
「……」
多佳晴は自分を見上げてくる有希を仮面越しに見つめて何も答えず黙っていた。どちらの返事をしても有希には見破られてしまうから。
「今日は、帰るか」
「ううん。まだいる。一緒に」
有希は多佳晴の手を取る。
「大丈夫。一緒だよ」
そう言って有希は多佳晴を見上げていた。
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