第8話 見捨てられるわけがない
犬型のビーストファントムだ。
「……どうか、安らかに」
ビーストファントムは人間がファントムになってしまった成れの果てだ。裏世界に不幸にも足を踏み入れ、そこで死を迎えた哀れな者たちだ。
いつも通り裏世界にやって来た多佳晴は偶然遭遇したビーストファントムを葬り去る。ビーストファントムが消滅し、その場には遺品らしき物だけが残った。
それは一枚の写真とネクタイだった。
ビーストファントムが落とすアイテムは元の人間が大切にしていた物だと言う設定がある。このネクタイと写真は大切な物だったのだろう。
多佳晴はその二つを大切にしまうと次の戦いへと身を投じる。
経験値稼ぎをしなくてはならない。低級ファントムを狩り続け、能力を上げていかなくてはいけない。
『現在所持している経験値は24315です』
ATMで経験値を消費してステータスを上げ、アイテムを補充する。最近は毎日がこの繰り返しだ。
理由は、ない。正直今のところこれしかやることが無いからやっているだけだ。
「俺は、主人公じゃないしな……」
アナザーワールドの主人公は他にいる。こんな不細工が主人公なわけがない、と多佳晴は冷静に分析する。
ゲームの舞台は今から約十年後だ。多佳晴が高校二年生になる頃だ。
アナザーワールドのメインストーリー、物語の目的は『
ただし、真のエンディングはその先にある。災王は実はさらに強大な『厄災王』を復活させるためのエサであり、災王が倒されるとともに厄災王が復活。それを倒した後に真のエンディングを迎える。
ちなみに厄災王は実は主人公たちを導いていた天の声であり、最初から自分が復活するために主人公たちを利用していた、という衝撃の事実があるわけだが、それは多佳晴には全く関係のない話だ。
なにせ多佳晴はゲームの主人公じゃない。ただのモブなのだ。
モブ、なのだ。
「だからって、見捨てられない、よな……」
モブだがすべてを知っている。今後、登場人物たちがどうなるのか多佳晴は知っているのだ。
このままでは小梅が死ぬ。それを知っていて無視できるわけがない。
無視できるほど多佳晴は強くも弱くもなかった。
「中途半端に手を出せば何が起こるかわからない。やるなら、徹底的にだ」
小梅が死ぬ。その死の真相を探るために櫻子は主人公の仲間になる。そして、主人公と絆を深め、災王に立ち向かう。
もし小梅が死ななければその流れが途切れてしまうかもしれない。そうなれば災王を倒せなくなるかもしれない。もちろん厄災王だって同じだ。
小梅を助ければ未来を潰す結果になる。だからと言って無視して見捨てるなんて多佳晴にはできなかった。
「助けられるならイケメンがいいはずだよな。ごめんな」
まだ先の話だ。多佳晴は今は六歳。中学二年になるまで八年ある。
その間に力を付けなくてはならない。最悪、一人で災王や厄災王を倒せるぐらいに。
「とにかく目指すはステータスカンストだ。スキルや何やらは、後で考えよう」
運命の日まで経験値稼ぎだ。稼いで稼いで、とにかく稼ぐ。
それしかない。それしか、思いつかない。
やるしかない。
やるしかないんだ。
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