第7話 ゲームシナリオ
道明寺櫻子。彼女はゲーム『アナザーワールド』のヒロインの一人だ。ゲームの主人公と最初に関わるヒロインであり、主人公の最初の仲間でもある。
そんな彼女には幼馴染の女の子がいる。
女の子の名前は『梅宮小梅』。小学校からの親友であり、櫻子が裏世界へ潜るきっかけを作った少女である。
「うめちゃん、帰ったらなにする?」
うめちゃん。それが櫻子が小梅を呼ぶときの呼び名だ。
「さくちゃんは?」
「わたしはね、うめちゃんと一緒ならなんでもいい!」
櫻子と小梅はとても仲が良かった。小学校低学年からずっと一緒で、櫻子が中学進学と同時に地元を離れるまで深いつながりがあった。
だが、そんな小梅はある時から行方不明になる。
それが中学二年生の頃だ。そんな小梅の行方を捜すために櫻子は裏世界へ足を踏み入れる。
「……たしか、そういう話だったな」
多佳晴は教室にいる櫻子に視線を向ける。その近くには小梅もいる。
現在、二人は小学一年生だ。ゲームの設定の通り、二人は小学校からの幼馴染のようでとても仲が良さそうだった。
そんな二人だが中学に上がる前に櫻子が親の都合で地元を離れてから疎遠になってしまう。そして、小梅の家庭環境にも変化が訪れる。
父親の不倫、父方の祖父母の借金。その他様々な問題が重なり、小梅の家庭環境は激変する。
そして、ある時小梅は家を飛び出してしまう。それが夏休みの最初の日。その日から小梅は行方不明となってしまうのだ。
櫻子はそんな小梅の行方を捜すために高校一年生の時この町に戻ってくる。だが、まったく手がかりはつかめず、一年が過ぎる。
高校二年の時主人公が転校してくる。そして主人公と櫻子は裏世界に迷い込み、小梅の行方不明の真相を知る。
と言うのがゲームのシナリオだ。
「……どうしたもんかな、まったく」
もしゲームの通りなら、と多佳晴は考える。
もしゲームの通りに現実が進行すれば小梅は死ぬ。ゲームの通りなら小梅は中学二年の時に裏世界に迷い込み、そこで命を落とす。
それだけならまだ救いがある。死ぬだけならまだマシだ。
そう、小梅は悲惨な運命をたどるのだ。
「本当に、どうしたもんだろうな……」
小梅は櫻子に殺される。シナリオ通りならそれは確定事項だ。
しかし、今ならどうにかすることができる。多佳晴は小梅が死ぬ前に助け出すことができるだろう。
けれど、それでいいのだろうか。シナリオを変えてしまってよいものなのか。
「まだ、時間はある。じっくり考えよう」
正直、どうにかしてやりたいと思う。あまりにも小梅が可哀そうだからだ。
裏世界で死んだ小梅はファントムになる。それも普通のファントムではなく『ビーストファントム』だ。
ビーストファントムは裏世界で自然発生するファントムとは違う。その元となるのは人間だ。裏世界に迷い込んだ人間がファントムに変化した物がビーストファントムだ。
そして、そんなビーストファントムに変化してしまった小梅がゲームの第一章のボスなのだ。それに気づかず倒してしまった櫻子は、倒した後に気が付くのだ。
ビーストファントムが落とした物を見て櫻子は倒した敵が幼馴染の親友だったと気付くのだ。
敵が落としたヘアピン。桜の花飾りついたヘアピン。櫻子が小梅にプレゼントしたおそろいのヘアピンだ
そのヘアピンを見た櫻子は自分が小梅を殺してしまったことを知る。そして、泣き叫ぶ櫻子のシーンで第一章は終わる。
どうしたもんか、と多佳晴は考える。
今の自分は小学校一年生。同じクラスには櫻子と小梅がいる。
まだ時間はある。これから経験値を稼いで強化していけば小梅を救い出せるかもしれない。
だが、それではゲームのシナリオが狂ってしまう。それは運命を変えてしまうことと同じではないか。
けれど、でも、しかし。多佳晴は何度も何度も考える。
この事実を伝えるべきか、と多佳晴は考えた。だが今はまだ小学校一年生だ。あなたは将来親友を殺してしまうからそれを避けるために協力してほしい、なんて言っても信じてもらえるはずがない。小学校一年生でなくても信じないだろう。
それに、と多佳晴は思う。
不細工な自分が何を言っても信じてくれないかもしれない。
「もっと顔が良ければ……。なんて、言っても仕方ないか」
助けれるべきか見捨てるべきか。伝えるべきか、黙っておくべきか。
悩みは深い。だが、手を止めるわけにもいかない。
裏世界に潜る。そして力をつける。
とにかく今はそうするしかない。と多佳晴は結論付け裏世界に潜る。
それしかできないのだから、そうするしかないのだから。
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