第5話 経験値はお金

 成功した。


『現在取得している経験値は12361です』


 天にも昇って行きそうなほど高揚していた。


「やった、やった、やった! これで、これで強化ができる!」


 嬉しかった。希望が見えて来た。


 多佳晴がやったこと。それは買い取りだ。ショッピングセンターにある物をATMで買い取ってもらったのだ。


 裏世界には通貨と言う物がない。その代わり経験値が通貨代わりだ。


 そのため物を売ると経験値が入る。ゲーム内では宝箱やファントムからドロップするアイテムを売ることで経験値を稼ぐことができるが、今回はそうではない。


 多佳晴はとにかく売れそうなものを片っ端から売った。店の中にある商品をかき集めショップで売り払ったのだ。


 もちろん売れない物もあった。それに売れたとしても大体の物が1経験値でしか売れなかった。


 だがそれでも数があれば問題ない。ショッピングセンターの中にはたくさんも物があるのだ。


「運がよかった。スタート地点がここで、本当によかった」


 裏世界の探索スタートの地点は毎回ランダムだ。もしここではなかったらと思うとゾッとする。


「よし、さっそくステータス強化だ」


 経験値を大量に獲得した多佳晴はATMを操作してステータス画面を呼び出す。


「まずは攻撃力をカンストさせる。次にすばやさをカンスト」

 

 多加晴は経験値を消費してステータスを上げていく。


「次にHPを1000にして、クリティカルアップのスキルを習得」


 ステータスを一通り上げた多佳晴は次に装備品の購入画面を呼び出す。


「般若面と成長のブレスレットを二つ。少し怖いが、HPも上げたから大丈夫だろう」


 経験値を消費して装備品と消耗アイテムを購入していく。


「……よし。これで装備は整ったな」


 いつもゲームで揃えていた装備を取得した多佳晴は改めてステータスを確認する。


 レベル5、HP1000、MP20、攻撃力999、物理防御力1、魔法攻撃力5、魔法防御力5、素早さ999。


 所持スキル『クリティカルアップLv10』。装備『般若面+99』、『鉄の剣+99』。それ以外にも必要なアイテムを購入し多佳晴は経験値をほとんど使い切った。


 これが多佳晴のいつものスタイルだ。防御力や魔法は完全に捨てて、攻撃力と素早さに全振り。ここまで極端な数値を振ったのは初めてだが、おおむねいつもの通りだ。


「……怖いが、行ってみるか」


 ステータスを上げた多佳晴はもう一度低級ファントムに挑むことにした。


 そして、今度は勝利することができた。


「よしよし、いいぞ。なんとかなる」


 ステータスを上げる前とは違い簡単にファントムの仮面を破壊し核を潰すことができた。多佳晴は低級ファントムを一体倒すとすぐに建物の中に戻り、ATMであることを確認した。


「装備のスキルも機能してる。いいぞ、これならいけるかもしれない」


 ステータス画面には先ほど獲得した経験値が加算されていた。その数値は20。


 現在の多佳晴のレベルは5だ。低級ファントム一体を倒して得られる経験値は5となる。


 そこに成長のブレスレットの効果が加えられる。成長のブレスレットの効果は経験値獲得量を二倍にし、二つ装備することで四倍となる。


 ただし成長のブレスレットの効果にはデメリットもある。ブレスレットを一つ装備すると経験値は二倍になるが防御力は半分になり、敵から受けるダメージは二倍になる。そして、二つ装備すると経験値は四倍になるが防御力は強制的に1となり敵からのダメージは四倍に上昇する。


 そのため素早さを上げる必要がある。防御を捨てた多佳晴が戦うためには相手の攻撃をよけなければならない。そのために素早さを上げる。素早さを上げると相手の攻撃の回避率も上がるためだ。


 しかし、これはゲームでの話だ。ゲームではRPGパートはターン制だったが、今は言ってしまえばアクションRPGだ。ターンを気にすることなく攻撃を加えることができるし、自分の意思で敵の攻撃も回避できる。


「般若面とクリティカルアップスキルは機能しているかわからないが。まあ、これはおいおい確認していけばいい」


 般若面とクリティカルアップのスキル。これも多佳晴のいつものスタイルだ。


 般若面は文字通り般若のお面だ。あの怖い鬼のようなお面である。


 この般若面の防御力は10だ。だが、成長のブレスレットのデメリットで防御力は1になってしまうため意味がない。


 それよりも般若面には別の意味がある。それは『威圧』のスキルである。


 この般若面に付与されている威圧スキルは相手の行動を低確率で1ターン封じるスキルだ。発動率はかなり低いが、相手の行動を遅らせる効果は非常に大きい。


 しかも今回は+99のボーナスを振ることができた。ボーナスを限界まで振ったことでスキルの能力が上がり、低級ファントムなら確実に動きを封じることができるようになった。

 

 ただし、やはりここもゲームとは違う。ターン制ではないためどれぐらいの時間相手の動きを封じることができる今のところ定かではない。


 そして、クリティカルアップのスキルもだ。このスキルは文字通り攻撃をクリティカルヒットさせるスキルだが、発動率はレベル1だと10パーセントしかない。マックスのレベル10でも60パーセントだ。先ほど倒した低級ファントムは一撃で倒してしまったため、スキルが発動したのかさっぱりわからない。


 ただクリティカルヒットした場合、相手に与えるダメージが二倍になる。これがかなり大きい。


 しかもここはゲームの世界と似ているが違う。ターン制ではないのだ。


 素早さを上げたことで攻撃の手数が増える。攻撃回数が増えればクリティカルヒットの確率も上がる。


 イケる、と多佳晴は確信した。これなら生き抜くことができる。


「……いや、まだだ。もっと経験値を稼ごう。もう一度ここに来れるかはわからないからな」


 裏世界探索のスタート地点は毎回ランダム。となると次もここからスタートするとは限らない。


 ならできることはやるべきだ。売れる物はとにかく売って経験値を稼いでから敵と本格的に戦うことにしよう。


「生き残るため、生き残るためだ」


 なんだかズルをしている気もする。それに店の物を勝手に売りさばくのは泥棒のようで気が引ける。


 けれど、やるしかない。ここは割り切っていくしかない。


 こうして多佳晴は店にある商品を次々に売り経験値を稼ぎ、ステータスを上げていくのだった。

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