南タンネ村 1

 村に着くやいなや、銃を虚空に閉まったりテイクオフして、ええ?アイテムボックス持っているの?と少し話題になったりしたが、それを特注品だから、の一点張りで誤魔化し。

 実際、銃の性能は特注品といっても過言ではない程に強力だったので、普通に信じられてしまう、といった一悶着はあったものの、すぐにその話も終わりを迎え。


「あ、そうだ。」


 アカリはそう言うと、エルシェと俺に向かって、どこからともなく袋を取り出して掲げる。

 それは、道中に倒したスライムから取れた魔石などが入った、銃で撃った時に一撃で消し飛びきれなかったものの残骸が入れられたものであり。

 肉とかは、持って帰れないのでその場で放置しておいて。持って帰れるもの───つまり、魔物の中に入っている、第二の心臓とも言うべき魔石や、爪や角といったお手軽に持っていける価値のある部位が、あの中には詰まっている。

 コレを売ればお金になるとのことで、道中、この部位はこの大きさでこの鮮度なら幾ら、などと教えてもらったが。

 色々と難しくて複雑そうだったので、あまり理解することができなかった。


 因みに、肉とかは森の中に放置しても良いのか、という話になった時に、どうやらそれは場所と量による、と言うことらしく。

 大抵の場合、人里に近い所で大量に、と言う事でもない限り大丈夫なようで。

 要するに、自然という弱肉強食が支配するその場所では、1日に増える死体が1桁程度増えた所で何も変わらない、ということであり。

 逆に、その何も変わらない、というラインを超えると、良くないということらしい。


 それを聞いて、ほえーとはなったが。

 それでもやはり、あまり放置するのは良くない、という事で。出来れば、回収するなりして欲しい、という話であった。


 と、過去のことを思い出していると。アカリの声で、目の前の現実に戻ってくる。


「これ、“ギルド”に寄って換金してくるから。二人は先に“お祈り”しておいてよ。」


 それじゃあ。

 そう言って彼女は一人駆け出すと同時。この街道の左側に逸れていって、少し離れた所にある大きな建物に向かって行く。


 おそらくそれが、“ギルド”とやらなのだろう。

 異世界モノの定番であるその言葉に、少しトキメキを感じつつ。

 流石に、そんなテンプレみたいな所があるなら行ってみたいなと、若干、聖地巡りをする人の思考になっていると。


 エルシェは、「はあ、勝手ですね…」と呟いて。さあ、では行きましょうか、と言って、俺の手を引き。


 この村の中心にある黄色い“星”、ステラ・ハートの前で止まる。


 それは、俺がこの世界にきて最初に見たあのステラ・ハートよりもかなり小さくて弱々しく、しかも色が違うように見えるが。

 しかし、その複雑怪奇な光の発光現象や、幾何学的な模様が描かれた台座───かなり豪華に加工されているが───といった共通点から、そうなのだろうと思い。

 せっかくだし、“共鳴”しようかと、なんだか久々に感じるシロネを呼び出そうとして。


「あ、“お祈り”の方法は分かりますよね。」


 そのエルシェの言葉を聞いて、ちょっとストップがかかる。


「…“お祈り”?」


 そういえば、さっき別れる前に、アカリも言っていたな、と思い出す。

 “お祈り”。何を指すのかは分からないが、その言葉から察するに、何かの宗教的な儀式なのだろうか。

 その言葉を聞いて、エルシェは、ああ、旅の人だから、作法か言葉が違うのでしょうか…と一人頷いて。

 うーん、と少し悩むと、アレですね、と言って。


「魔力を回復する儀式ですよ。」


 確か、地方や人種によって、その作法は違うと聞き及んでおります、と続けて。


「私のところでは、こんな感じです。」


 そう言いながら、彼女はその“星”の前で手を合わせて目を瞑ると。

 その、黄色いステラ・ハートが少しだけ輝きを増して、同時。

 黄色い光が彼女を包むようにして中へ入っていくと、彼女は目を開けて祈りのポーズを止める。


 その、彼女が金髪エルフだからか。

 金色の光が彼女を彩って、一瞬、まるで幻想的な絵画の中の世界に迷い込んでしまったと錯覚しそうになる程に美しいと感じてしまい、目が釘付けになったが。

 どうやら、コレもまたこの世界の人にとっては、日常の一部であるようで。

 殆どの人はこちらに見向きもしないし、見たとしても、おっ、アイツ祈ってんな、とチラッと見る程度。

 彼女が作る、絵画に納めたくなる位の美しい“お祈り”であった筈のそれに、誰も目をくれないのである。


「まあ、私のは簡単な方なので、こんな感じですね。もう少しキチンとしたものもあるんですが…。まあ、重要な日とかでしかやりません。」


 エルシェはそう言って、どうぞ、次は貴女の番ですよと、こちらに目配せをする。

 どうやら、じっくり見られながらやらないといけないらしい。

 そこに少しだけ恥ずかしさを感じつつ。じゃあ、真似してやってみるかと思い、祈ろうとして───

 いやまてよ。同じ祈りだと、さっき彼女が、違う地方だと別の作法があるんですよね、と言っていた事から、変に怪しまれるかもしれない。

 一応、(間違ってはいないが)旅をしている人間という設定になっているので、それは面倒だ。


 ここは、自分が知っているお祈りを捧げるのが無難だろう。

 それならば、いざ。俺が唯一知っているお祈り───二礼二拍手一礼───を見せる時が来たようだな。


 いつかの神社へのお参りを思い出しながら、2回頭を下げて、2回手を打ち鳴らし、そして最後にもう一度頭をさげる。

 多分このお祈りの使い方、間違っているよなと思いつつも。何がどう悪いのか、浅学の身すぎて他に思い浮かばず。

 まあ、こんなものかと思いつつ、頭を下げて目をつぶったまま、エルシェのように何か力がやってくる事を期待して。


 ──────

 ───


 しかし、何か力が漲る感覚を感じる訳ではなく。

 うん?と疑問に思い、最後の一礼の時に瞑った目のうちの右側をうっすらと開けて状況を確認すると。

 どうやらエルシェの時のように黄色い光が自分の体の身を包むことはなく、何も起きずにシーンとしており。

 彼女は、こてんと首を捻って、こちらをじっと見つめていた。


 あ、ああ。そんなに見つめないでくれ…なんというか、そんな気恥ずかしさを感じつつ。


 ま、まずい。“お祈り”ができない人間なんて居ないよなぁ、みたいなスタンスの彼女に、こんな姿を見られてはまずい。

 ど、どうするべきか…。


 そのとき、天啓が降りる。

 あ、普通にこのタイミングで“共鳴”すれば良いじゃないですか。


 おそらくこれはステラ・ハート。共鳴が出来るはずだ。

 シロネ〜!聞こえているなら、返事をしてくれ〜!そして共鳴してくれ〜!


 すると、その言葉が届いたのか。『はーい』といつかに聞いた声───すなわちシロネの声が脳内に返ってきて。

 『それでは、“共鳴”を始めますね。』


 そう言うと同時、目の前のステラ・ハートはエルシェの時と同様にピカッと光り。

 黄色の光が俺の体を包んで中に入ってくると同時、段々と力が湧き上がってきて。

 いわゆるレベルアップが行われたと同時に、魔力も回復した感覚がする。


 深刻な程魔力が削れていた訳ではないが、少し心許なかったので、色々と助かった。


 そんな事を考えていると、黄色の光は空気に溶けるようにふわっと霧散して。

 “共鳴”もとい“お祈り”が完了したのであった。


『今回のレベルアップで新しく出来るようになった事は───今は取り込み中のようですし、時間ができた際にまとめてご報告いたしますね。それでは。』


 シロネは、こちらが返事も反応も何もしないうちにそのように言うと、サクッと別れの挨拶を置いていき。そして、再び声が聞こえなくなってしまった。

 ちょっ、えっ?まって…。少しくらい話す時間は流石にあるんじゃないか?

 そう思って、再びシロネを呼ぼうとしたその瞬間───


「あ、終わったみたいですね。」


 真横からのそのエルシェの声に、ぬわっと驚く。

 やっぱりシロネの言う通り、会話する時間なんてなかったわ。

 ということで、後で時間作るわ…と心の中でシロネに対して呟きつつ。

 口では、「はい、終わりました」といって返事をしておく。


 すると彼女は、では…アカリを迎えに行きましょうか、と言って。

 こっちですよ、と手を引かれると。初めにアカリが入って行ったと思われる大きめの建物───ギルドに向かう事になった。

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